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首都圏各線の収益力、そしてSuicaの持つ可能性が強み【就活生向け・決算短信を読む⑦JR東日本】

突然ですが、みなさんはJR東日本という会社にどのようなイメージを持っているでしょうか。

「Suicaのペンギン」「緑色のコーポレートカラー」「時間に正確」などなど様々なイメージがあるでしょう。

この記事では、そんなJR東日本の2023年3月期決算短信を読み、売上高などの「数字」や事業構成などを通じてJR東日本の強みや特徴を理解することを目指します。

なお、鉄道就活応援隊ではJR東海京王電鉄東急グループの四半期決算短信を取りあげてきました。今回はそれらの企業とはまた違う、JR東日本ならではの特徴も分かりやすくお届けします。

そして、鉄道業界各社の決算短信については、こちらのリンクから交通新聞電子版の記事が読めます。JR各社や大手私鉄についての四半期決算について、有料記事を特別に全文公開です!

>>交通新聞電子版「決算」検索結果

リンク先では、鉄道業界の様々な企業の決算短信についても分析がありますので、ぜひご参照ください。


JR東日本とは

JR東日本は、正式名称を「東日本旅客鉄道株式会社」と言い、1987年の国鉄分割民営化で誕生した会社です。
国の関与が強い公共企業体であった国鉄が事業や営業エリアごとに複数の企業へ分割されたうち、主に東北・関東甲信越地方の旅客鉄道事業を引き継いだのがJR東日本です。
なお、国鉄が分割民営化されJR各社が誕生した経緯はこちらの記事でも解説しています。

分割民営化後、JR各社は国鉄清算事業団が全株式を保有する特殊会社として成立しましたが、最終的にはすべての株式を上場し、完全民営化することが求められていました。

その中にあって、JR東日本は1993年にいち早く上場を達成。JR東海・JR西日本とタイミングを合わせた2001年に特殊法人ではなくなり、2002年には完全民営化を達成しました。

現在は60社以上のグループ企業とともに、首都圏輸送を中心とした鉄道事業のみならず、大規模な開発が進むエキナカを含めた生活サービス事業、交通用途から始まり電子マネー用途など様々な領域に広がりを見せるSuica関連事業、など幅広い領域で事業を展開しています。

売上高・営業利益・経常利益

まずは基本の数字ということで、売上高・営業利益・経常利益は2023年3月期決算短信によると以下の通りです。

売上高:24,055億円(対前期21.6%増)
営業利益:1,406億円(同2,946億円増)
経常利益:1,109億円(同2,904億円増)

行動制限の緩和・撤廃などにより需要が回復した結果、すべてのセグメントで増収となり、3期ぶりの黒字となりました。
一方、まだコロナ禍の影響が小さかった2020年3月期の数字と比較するとどうでしょうか。

2020年3月期の数字と比べるといずれの項目もマイナスであり、コロナ禍の影響からはいまだ回復途上、といった状況であることが分かります。

【就活生注目】JR東日本グループの特徴・事業構成

2023年3月期決算では、JR東日本のセグメント別の売上高の比率は以下の通りとなっています。

2023年3月期決算短信より外部売上高で計算・作成。

鉄道やバス事業が含まれる「運輸事業」でおよそ3分の2を占めており、駅ビル、オフィス、ホテルなどの事業が含まれる「不動産・ホテル事業」16%、エキナカ事業などが含まれる「流通・サービス事業」14%が続きます。
「その他」には「ビューカード」に代表されるクレジットカード事業などが含まれます。

なお、補足資料である2023年3月期 期末決算 説明資料では運輸事業の売上高1兆6,185億円に対し、JR東日本単体の鉄道運輸収入が1兆4,317億円とそのほとんどを占めていることが分かります。
やはりJR東日本の屋台骨は鉄道事業と言って差し支えない数字です。

また、前回取りあげたJR九州と比べると、運輸事業の割合がはるかに高いことが分かります。

JR九州 2023年3月期決算短信より作成

このように売上高の構成は会社ごとの個性が出るところなので、会社選びをする際には必ずチェックしておきたいポイントです。
なお、JR九州の記事はこちらからどうぞ!

JR東日本の鉄道事業

強み:首都圏輸送

日本で最大の人口を抱える都市圏である首都圏。
そんな首都圏における鉄道輸送で生み出される収益が、JR東日本を支えています。

数字で見ると、2023年3月期におけるJR東日本単体の鉄道運輸収入1兆4,317億円のうち約3分の2が関東圏の在来線においてのものです。
東海道新幹線を持つJR東海とは異なり、JR東日本の場合は在来線の収入が新幹線の収入よりも多いのです。

また鉄道利用だけではなく、人流の拠点である駅に隣接してショッピングセンター「アトレ」やオフィス・ホテルのビルを多く保有しているのも首都圏で事業を展開するグループとしての強みです。

コロナ禍において大きく減少した利用者も、完全にとはいかないまでも戻っています。今後も、首都圏の活発な人流がJR東日本グループの収益を支える構図は続きそうです。

コスト削減の取り組み

鉄道は固定費のかかる事業と言われています。線路や駅施設、車両といった膨大なインフラを自前で維持する必要があるためです。

そのためJR東日本においても、コスト削減につながる様々な取り組みが行われています。
ここで例として取りあげるのは、ワンマン運転の拡大・自動運転の導入です。

ワンマン運転の導入は、車掌を必要としなくなることで列車1本あたりの運行コストを削減することができます。
当初は比較的短編成の列車が運行される閑散線区で導入されましたが、次第に長編成の列車が運行される路線への導入が進み、2023年5月現在では在来線66線区のうち47線区で導入済みです。

自動運転の導入は国家資格持ちの運転手を不要(係員は搭乗。GoA2.5以上)にしたり、運転手の存在自体を不要(GoA4)にすることで、やはり列車1本あたりの運行コストを削減することができます。

ワンマン運転と同様に、自動運転についてもかなり具体的な動きがみられており、たとえば看板路線である山手線では、営業列車で自動運転の実証実験を行っています。
また新幹線では上越新幹線の回送線を利用して自動運転の実証実験を行ったほか、JR西日本と自動運転の分野で技術協力することを発表しています。

なお、鉄道の自動運転については以下の記事で詳しく扱っていますのでぜひご覧ください!

JR東日本だけではない鉄道関係の企業

JR東日本のグループ会社には鉄道関係の企業が数多くあります。

たとえば、総合車両製作所。旧東急車輛から事業を引き継いだ同社は、JR東日本をはじめ様々な鉄道事業者向けに鉄道車両を製造している他、鉄道貨物コンテナの製造も担っています。
鉄道就活応援隊では、総合車両製作所の社員の方に取材した記事を掲載中ですので、ぜひご覧ください。

また、鉄道電気工事の大手である日本電設工業については、2023年3月期第3四半期決算を取りあげて解説しています。こちらからどうぞ!

このほかにも、鉄道車両のメンテナンスや改造などを担うJR東日本テクノロジー、自動改札機やホームドアといった駅で使われる機械の開発・施工・メンテナンスなどを担うJR東日本メカトロニクス、駅構内や車両の清掃などを担うJR東日本環境アクセス、羽田空港へのアクセスを担う東京モノレールなど、様々な企業があります。

詳しくはこちらのページをご覧ください!

鉄道以外の事業について:Suicaなど

決算短信中の「次期の見通し」では、コロナ禍で減少した鉄道利用者数が自然に回復することはないという前提のもと、鉄道を含めたグループ各事業の強みを磨き、連携を深めていく、という方針が示されています。

その内容について具体的に触れられているのが、JR東日本が掲げるグループ経営ビジョン「変革2027」です。

この「変革2027」が発表されたのはコロナ禍前の2018年であるため、一部の数値目標については中途で修正されています。ですが、基本的な方向性は継続して引き継がれています。
JR東日本はその「変革2027」において、成長の余地を多分に残す生活サービス事業やSuica関連事業に経営資源を重点投入し、2027年ごろには鉄道事業とそれ以外の事業の比率を6:4にすることを目指すとしています。

「グループ経営ビジョン『変革2027』について」より引用

では、具体的にはどのような施策によってこの目標を実現するのでしょうか。ここからは、特にSuica、そしてそのSuicaと関連付けられるJRE POINTの施策からその内容を探ります。

①Suicaの将来性:Suicaを共通基盤としたサービス展開

JR東日本と言われて愛らしいSuicaペンギンのイラストを思い浮かべる方は多いでしょう。
JR東日本はそのSuicaを様々なサービスの起点とする「Suicaの共通基盤化」を目指し様々な取り組みを加速させています。

同じく「変革2027」より引用

当初運賃の決済からスタートしたSuicaでしたが、残高が電子マネーとして使えるようになり、2007年には他の交通系ICカードとの全国相互利用が開始。今や鉄道・バス・買い物といった日常の用途から、個人認証機能を活用した社員証の機能を搭載する用途など様々な場面で普及しました。

また、5月26日からは新たに青森・盛岡・秋田の東北3エリアで利用が始まるなど、利用できるエリアも着々と拡大中です。

JR東日本は将来的に予定される鉄道チケットシステムの導入とあわせ、Suicaを介した多様なサービス展開を目指している点はしっかりと押さえておきましょう。

そしてSuicaは様々なサービスの基盤になるだけでなく、その利用データ自体もまた価値を持ちます。

蓄積されたSuicaの鉄道利用データはビッグデータとして高い価値を持ちます。個人が特定されない形でのデータ提供として、JR東日本は駅の利用情報を「駅カルテ」として販売しています。

②JRE POINT:共通化されたポイントサービスを軸にサービス提供の質を高める

様々なサービスを利用するにあたってキーとなるSuica。
そのSuica利用の魅力を高めるためにJR東日本が力を入れる分野として、JRE POINTの発展があります。

JRE POINTの誕生以前、JR東日本では従来サービス領域や駅ビルの店舗ごとにポイントサービスが存在している状態でした。

しかし「JRE POINT」は2016年の誕生時に駅ビルのポイントと共通化したのを皮切りに、翌年には「Suicaポイント」と共通化、2018年には「ビューサンクスポイント」と共通化……といった形で「JRE POINT」は様々なサービスとの共通化を進めていき、2021年には「えきねっとポイント」と共通化。

「Suica」「ビューカード」「ポイントカード」それぞれの媒体をJRE POINT口座に紐づけることで、きっぷのオンライン予約サイト「えきねっと」や駅ビル「アトレ」など、JR東日本グループの多彩なサービス・店舗で利用できるポイントサービスになりました。

会員情報をもとにしてデータを分析すれば、結果として顧客ニーズに合った質の高いサービスの提供が可能になります。そうすれば顧客一人当たりの単価の向上につながり、より高い収益があげられるようになります。
これがポイントサービスの基本的な狙いです。

ここまで取りあげたような、グループ内でのポイントサービスの統合・発展は東武鉄道が「トブポ」を、JR西日本が「WESTERポイント」を登場させるなど近年各社に相次いでいる動きですので、ぜひ押さえたいところです。

③豊富なアセットの活用

生活サービス事業、Suica事業に関係する事柄を取りあげましたが、JR東日本には、より「鉄道事業者ならでは」と言える話題もあります。それが豊富なアセットの活用です。

例としては、高架下や、移転した車両基地跡地の用地といった広大な土地・空間の活用が挙げられます。
前者は御徒町~秋葉原間の高架下にユニークな店舗を集めた2k540 AKI-OKA ARTISAN、後者は高輪ゲートウェイ駅に隣接する品川車両基地跡地で「100 年先の心豊かなくらしのための実験場」の構築を目指し様々な取り組みを展開しているTAKANAWA GATEWAY CITYの開発などが例です。

人流の拠点である駅という場所の一部をリモートワーク環境に変化させた「STATION BOOTH」もまた、アセットの活用と言えるかもしれません。

またそれ以外にも、線路沿いに敷設してある光ケーブルを貸し出すネットワークサービスも、アセット活用の一例と言えます。

参考ニュースリリース:JR東日本・丸の内ダイレクトアクセス-東日本の各地域と東京大手町エリアが高品質な光ファイバネットワークでつながります!

JR東日本グループの今後

かつてほどではないにせよ、JR東日本は依然として売上高における運輸事業の割合が高い事業者です。
他の鉄道事業者同様、コロナ禍前の水準には戻り切らない鉄道利用、特に地方で深刻視される人口減少といった課題に直面しています。

そんな状況にあっても、鉄道事業においては自動運転やワンマン運転の導入といった改革を進めています。
また、鉄道事業以外ではSuicaを軸としてJRE POINTを絡めたワンストップなサービス展開、豊富なアセットの活用を進めています。

「攻めの施策」がどこまで効果を発揮するかがJR東日本の今後を左右するのではないでしょうか。

関連リンク

交通新聞でJR東日本のニュースについて知りたい方は、以下のリンクからどうぞ! 以下のリンクから限定で、有料会員向けの記事全文が読めますよ!

>>交通新聞電子版「JR東日本」の検索結果はこちら

まとめ

鉄道就活応援隊では、JR東日本の他にも鉄道業界の様々な企業分析を掲載しています。数字の面からしっかりと企業について理解したい人にオススメです。

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