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路線の短さも強み?売上から分かる特徴とは【就活生向け・決算短信を読む②京王電鉄】

この記事では、実際に京王電鉄の2023年3月期決算短信を読んでみます。先日、四半期決算短信の読み方についての記事を公開しました。

その実践編として、前回はJR東海を取りあげましたが、今回は関東の大手私鉄、京王電鉄を取りあげます。

なお、鉄道業界各社の決算短信については、こちらのリンクから交通新聞電子版の記事が読めます。JR各社や大手私鉄についての決算短信について、有料記事を特別に全文公開です!

>>交通新聞電子版「決算」検索結果

リンク先では京王電鉄を含め、鉄道業界の様々な企業の決算短信についても分析がありますので、ぜひご参照ください。


京王電鉄とは

鮮やかな「京王レッド」が目を引く5000系。 撮影:交通新聞クリエイト

京王電鉄は、新宿駅と八王子駅を結ぶ京王線・渋谷駅と吉祥寺駅を結ぶ井の頭線を中心とした84.7kmの路線を所有する大手私鉄の一つです。路線のほぼ全域が東京都内に存在します。

1910年に前身である京王電気軌道株式会社として設立され、戦時中には他の私鉄との合併も経験したのち、戦後に独立して事業領域を拡大しました。

京王電鉄は京王グループの中核企業であり、55社ものグループ会社は幅広く事業を展開しています。
鉄道に限らず京王バスや京王百貨店、京王ストアといった「京王」の名を冠した様々な事業で沿線住民に親しまれています。

グループ全体のデータに関しては、京王電鉄のWebサイトにあるこちらのページが詳しいですので、そちらも参照してみてください。

まずは基本の数字から

まずは売上高・営業利益・経常利益について見ていきましょう。

なお京王電鉄の財務資料において、売上高は「営業収益」として表記されていますので、この記事ではその表記に倣います。

営業収益:3,471億円(対前期15.8%増)
営業利益:215億円(対前期2902.6%増)
経常利益:218億円(対前期305.7%増)

いずれの数字も対前期で改善、営業利益・経常利益は大幅増となりました。
一方で、コロナ禍の影響が少なかった2020年3月期の数字と比較すると、以下の通りになります。

営業収益・営業利益・経常利益のいずれもマイナスとなっており、コロナ禍の影響が残っていることが伺えます。

【就活生注目】京王電鉄の特徴

次に、決算短信から読み取れる京王電鉄の特徴を探ってみましょう。

まずは事業構成からということで、京王電鉄のセグメント別の売上割合は以下の通りです。

「本業」と言える運輸業は一番高い割合を占めてはいますが、突出した数字ではありません。大手私鉄によく見られるバランス型の構成です。
比較のために、前回取り上げたJR東海のセグメント別売上高を以下に示します。

JR東海の2023年3月期決算短信より作成。億未満を四捨五入しています。

比べてみると、運輸業の売上高が8割を占めるJR東海に対して、京王電鉄では運輸業と他の事業の間で営業収益に極端な差がないのが分かります。

この差は、

  • 京王グループは早くから経営の多角化を意識してきた(京王ストアの設立は1959年、新宿の京王百貨店の開業は1964年)

  • JR東海は、東海道新幹線の運輸収入が圧倒的で、運輸業の売上高を大幅に押し上げている

といった原因が大きいと考えられます。

また、運輸業の営業収益において鉄道が占める割合を比べてみても、京王電鉄の場合は約6割に留まる一方、JR東海では9割を超えており、バランス型の京王電鉄と、新幹線の売上が圧倒的であるJR東海との違いが出ています。

また、京王電鉄のもう一つの特徴として、事業を展開するエリアのコンパクトさが挙げられます。鉄道の路線長は関東の大手私鉄の中では2番目に短く、それだけに事業を展開する沿線地域も比較的狭い範囲に収まっています。

実は、路線長で言えば下から2番目の京王線。

そのため、高い密度で経営資源を投入することが可能となっており、また沿線が新宿や渋谷といったターミナルから近いために人口も多く、投入した経営資源は効率よく回収できます。

そのような沿線地域の住宅から買い物・移動といった暮らし全体をサポートするような事業展開で、京王電鉄は収益を上げています。

鉄道事業とそれ以外の事業の関わり

京王電鉄が多角的に事業展開をしていることが分かったところで、鉄道事業とそれ以外の事業の関わりについて解説していきます。

前提として:鉄道事業のおかれた現状

他の多くの鉄道会社同様、京王電鉄も

「輸送需要はコロナ前の水準には戻らない見込み」

京王電鉄2022年度第2四半期決算説明会資料より

と明言しています。現状の運賃体系・輸送体系では運輸収入が元の水準には戻らないということです。

一方で安全・サービスの水準を維持するためには、セキュリティ対応やバリアフリー対応も含め継続した設備投資が必要です。
もちろん、輸送需要の減少に比例して減らすといったことはできません。

このような状況を背景に、京王電鉄は2023年秋頃に運賃改定を実施しました。京王電鉄の運賃は業界最安水準であり、この水準は守りながらも10%の引き上げとしています。

さて、京王電鉄は鉄道事業を含めたグループ全体の目標として、沿線地域の価値を向上させるべく幅広い領域で投資を続けています。

ここでは、決算短信でも紹介されている例を二つ取りあげます。

①流通業:「ミカン下北」の開業

2022年3月、下北沢駅からすぐのところに開業した「ミカン下北」。
これは、井の頭線が高架化されたことで発生した高架下の土地を利用した商業施設で、個性的な店舗を揃えた商業エリアと、多様なスタイルに対応したワーキングスペースを備えています。

また同施設の開発に当たっては、地元自治体である世田谷区とも呼応しており、アクセス道路の整備や、区立図書館の蔵書の貸し出しや返却を行うカウンターの設置などが行われています。

②不動産業:リノベーション物件の販売

不動産販売業において、豊富な住宅ストックを活用したリノベーション物件の売上増を見込んでいます。
また、不動産業では従来から不動産賃貸業にも進出しています。

こういった施策で沿線地域の価値を向上することは、鉄道利用者を維持することにも繋がるはずです。
沿線価値を上げてグループ全体の利益を上げる、という視点は王道と言える戦略ですので、鉄道業界を目指す就活生のみなさんはぜひ頭に入れておいてください。

決算短信から読む京王電鉄の今後

バランス型の経営をしている京王電鉄。
多岐に亘る事業はいずれも回復傾向にありますが、コロナ禍前の水準には戻っていません。

そんな状況でも

  • 高密度な経営資源を投下できる強みを活かし沿線価値の向上に努める

  • 多角的な事業展開を活かし、人流に依存しない事業構造を構築する

といった視点で収益力の維持・強化を狙っています。

また、京王相模原線の終点、橋本駅の駅前にはリニア中央新幹線の「神奈川県駅(仮称)」が開業する予定となっています。

具体的な開業時期は未定ですが、開業後は相模原線を中心として乗客の増加が期待できるはずです。

沿線の人口推移や商業施設の成功、そして中央リニア新幹線の開業時期がカギとなるのではないでしょうか。

そんな京王電鉄関係のニュースについて知りたい方は、以下のリンクからどうぞ! 

>>交通新聞電子版「京王電鉄」の検索結果はこちら

まとめと今後の更新予定

鉄道事業者については、売上高の規模の違いなどに留まらず、グループ全体の売上や利益について鉄道事業が占める割合の違いなどに注目して取りあげていきたいと考えています。
もちろん鉄道事業者以外の企業についても取りあげる予定ですので、お楽しみに!

鉄道業界各社の決算短信については、こちらのリンクから交通新聞電子版の記事が読めます。JR各社や大手私鉄についての決算短信について、有料記事を特別に全文公開です!

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今後も、鉄道事業者については、売上高の規模の違いなどに留まらず、グループ全体の売上や利益について鉄道事業が占める割合の違いなどに注目して取りあげていきたいと考えています。もちろん鉄道事業者以外の企業についても取りあげる予定ですので、お楽しみに!
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※2023年5月11日 タイトルを一部変更しました。
※2024年2月7日 2023年3月期決算短信の内容にあわせて本文・画像の内容を更新し、東急新横浜線・相鉄新横浜線の開業により路線長の比較画像を更新しました。

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