鉄道電気工事の大手・環境分野にも強み【就活生向け・四半期短信を読む④日本電設工業】
この記事では、四半期短信を読むシリーズの第4回として、日本電設工業2023年3月期第3四半期決算短信を読んでみます。
※今回から第3四半期の決算短信となっています。
先日、四半期決算短信の読み方についての記事を公開しました。
その実践編として、これまでJR東海・京王電鉄・東鉄工業の3社を取りあげましたが、今回は鉄道の電気設備工事において日本有数の企業、日本電設工業を取りあげます。
なお、鉄道業界各社の四半期短信については、こちらのリンクから交通新聞電子版の記事が読めます。JR各社や大手私鉄についての四半期決算について、有料記事を特別に全文公開です!
リンク先では日本電設工業を含め、鉄道業界の様々な企業の決算短信についての記事がありますので、ぜひご参照ください。
日本電設工業とは
日本電設工業のルーツは、戦時体制下の1942年、鉄道省主導の下で鉄道の電気工事を専門に取り扱う会社としてスタートした「鉄道電気工業株式会社」です。
戦後には鉄道以外にもその事業領域を広げ、1949年に現在の商号へ変更しました。鉄道電気工事および、そこで培われた信頼性の高い技術力、そして最新技術への適合を武器に一般電気工事でも成長してきました。
JR東日本と関係の深い企業であり、同社の鉄道工事を数多く受注しています。
まずは基本の数字から
まずは売上高・営業利益・経常利益について見ていきましょう。
2022年4月1日~2022年12月31日の連結経営成績は以下の通りです。
売上高は3.4%減ですが、営業利益と経常利益は大きく減少しています。
少し心配になる数値ですが、理由については「採算性の低い大型工事の完成等」と説明されており、また2023年3月期の「通期業績予想に変更はありません」とのことですので必要以上に神経質になる必要性はないことと思います。
いつもなら、ここからコロナ禍前の2020年3月期と比較するところですが、日本電設工業は2020年3月期の段階で収益認識会計基準の適用前であり、年度途中の四半期の売上高を比較するのはあまり適切ではありません。
また、四半期決算短信にも以下のような記載があるように、売上高の多くは第4四半期に計上されますので、ここでは2023年3月期通期の業績予想と、2020年3月期通期の業績を比較します。
2023年3月期第3四半期決算短信から引いた、2022年4月1日~2023年3月31日の連結業績予想と、2020年3月期の連結経営成績比較は以下の通りです。
いずれの数字も2020年3月期と比べると悪化していますが、日本電設工業がWebサイトの「業績ハイライト」のページで公表している数字を見ると、コロナ禍前においても売上高は
2018年3月期:178,938百万円
2019年3月期:182,464百万円
となっており、これらの数字と比較すると2023年3月期の175,200百万円(予想)という数字は変動の範囲内ともいえます。
ただし営業利益・経常利益は落ち込みが激しいです。
コロナ禍の影響を受けた鉄道事業者が工事抑制を行い受注競争が激化、それでも一定の売上高を確保するための結果として工事採算性が悪くなっている、という状況が推測されます。
電気工事会社の四半期決算短信を見る際の注意
以下の2点は、日本電設工業に限らず多くの電気工事会社の決算を見る際に留意すべきポイントです。
①収益認識会計基準の適用の有無
②(適用後であっても)売上高が第4四半期に集中する傾向がある
①の収益認識会計基準に関しては、年度途中(たとえば第2四半期)の売上高を比較する場合、適用前の売上高が、適用後の売上高と比較して数字が小さく出やすいため、単純に比較できないためです。
②は書いてある通りで、たとえば第1四半期と第4四半期の売上を比較することにはあまり意味がありません。
なお通期の決算だけ見ておけば上記いずれの点もあまり関係がないので安心です。
これは建設会社の四半期決算短信を見る際も同様です。詳しくは前回取りあげた東鉄工業の記事をご覧ください。
【就活生注目】日本電設工業の特徴
次に、四半期決算短信から読み取れる日本電設工業の特徴を探ってみましょう。以下に、2023年3月期第3四半期(累計)の受注高・売上高を示します。
どちらも出典は2023年3月期第3四半期決算短信です。
メインは鉄道電気工事
受注高・売上高ともに、鉄道電気工事が最も高い割合を占めています。一方で一般電気工事も受注高のおよそ3分の1、売上高ではおよそ4分の1を占めており、それに情報通信工事が続きます。
ただ先ほども書いたように、日本電設工業は第4四半期で大きく売上高が増えるという性質がありますので、第3四半期の数字だけを以って事業ごとの受注高・売上高の構成を論じるのは正確さを欠くかもしれません。
そこで、今度は2022年3月期の決算短信から数字を見ていきましょう。
数字に多少変化はありますが、「鉄道電気工事が最も多く、一般電気工事がそれに次ぐ」という構図は共通しています。数字の面でも、「日本電設工業の強みは鉄道電気工事」と言えそうです。
その中身を見るために、この記事の執筆時点で最新の決算説明会資料である2023年3月期第2四半期の決算説明会資料から「鉄道電気工事の概況」を見てみましょう。
鉄道電気工事の主な取引先はJR東日本ですが、それ以外にも全国の公民鉄の事業者から受注しています。
その内容も災害復旧工事や耐震化工事、省力化のための大規模改修工事など多岐に亘り、鉄道電気工事の分野が日本電設工業の強みであることが良く分かります。
また、JR東日本が無線式列車制御システム(ATACS)を導入した2線区(仙石線、埼京線)では日本電設工業が施工を担っています。
無線式列車制御システムは将来のドライバレス運転にも通じる新しいシステムです。
JR東日本は複数の鉄道技術分野で他の鉄道事業者との技術協力を発表していますが、そのプレスリリースの中でも無線式列車制御システムの拡大について意欲を見せており、今後も日本電設工業がその技術力を新しい現場で発揮することが期待されます。
ドライバレス運転を含めた鉄道の自動運転について知りたい方は、ぜひ以下の記事をご覧ください。
鉄道以外にも光る技術力:環境負荷低減への取り組み
日本電設工業では、建物が環境に与える負荷を電気設備の面から提言するための取り組みを行っています。
ZEBとは、快適な室内環境を維持しながら、効率的な設備の導入などによる「省エネ」と、自然エネルギーの積極的な活用による「創エネ」を組み合わせることで、エネルギー消費量を正味ゼロにしようという建物を指します。
日本電設工業はZEBプランナーの法人資格を所有しており、顧客に対して環境負荷低減・資源の有効活用を実現するための技術を提供しています。
また日本電設工業自身もZEBを所有しており、自社ビルの分析から得られた省エネ技術を顧客に還元しています。
社会課題として環境負荷の低減が意識される中で、日本電設工業は自然エネルギーの活用や省エネの機器の導入をソリューションとして提案しており、時代の要請に対応した工事を実現しています。
なお環境分野を含むSDGsと鉄道のかかわりについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
決算短信から読む日本電設工業の今後
日本電設工業にとって、主な受注先である鉄道会社がコロナ禍で打撃を受けて工事を抑制気味であったため、ここ数年の経営環境は厳しいものであったと言えます。それは鉄道電気工事の受注高の減少に表れています。
また、工事に必要な資機材や燃料の高騰というマイナス要因もあります。
とはいえ安全に必要な電気設備への投資がゼロになることはなく、またコロナ禍で大きく減少した鉄道利用者数が回復しつつあるのは、鉄道事業者からの受注が多い日本電設工業にとっては明るい兆しです。
そして、無線式列車制御システム関係の工事など、鉄道事業者が今後実現を目指す領域に携わっていることは大きなアドバンテージと言えます。
また、一般電気工事はコロナ禍のさなかでも受注高・売上高が比較的安定しており、経営の安定に寄与していると言えます。
今後は、鉄道事業者の工事抑制がどの程度緩和されるか、またひとつひとつの案件の採算性が利益に直結するという事業の性質を踏まえると、受注する工事の採算性をどれだけ確保できるかという点が重要であると考えられます。
日本電設工業についてより多くのことを知りたい方は、交通新聞電子版の「日本電設工業」関係の記事を直近1年分無料で読むことができる以下のリンクからどうぞ!
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今回の取りあげた日本電設工業のように、鉄道電気技術の世界に興味を持った方は、以下の記事も参考にしてください!
「どんな仕事があるのか」「業界は今どのような状態なのか」そして「今後どうなっていくのか」について、学生の皆さんからの疑問に答えるべく、日本鉄道電気技術協会のお二人にお話を伺った記事です。
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