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強みは鉄道とリンクした不動産賃貸事業:「JRらしくない」その特徴とは【就活生向け・決算短信を読む⑥JR九州】

この記事では、JR九州の2023年3月期決算短信を読み、収益の数字や事業構成などを通じてJR九州の今を理解することを目指します。

なお、鉄道就活応援隊ではJR東海京王電鉄東急グループの四半期決算短信を取りあげてきました。今回はそれらの企業とはまた違う、JR九州ならではの特徴も分かりやすくお届けします。

そして、鉄道業界各社の四半期決算については、こちらのリンクから交通新聞電子版の記事が読めます。JR各社や大手私鉄についての決算短信について、有料記事を特別に全文公開です!

>>交通新聞電子版「決算」検索結果

リンク先では、鉄道業界の様々な企業の決算短信についても分析がありますので、ぜひご参照ください。


JR九州とは

JR九州は正式名称を「九州旅客鉄道株式会社」と言い、1987年の国鉄分割民営化で誕生した会社です。国鉄が事業や営業エリアごとに複数の企業へ分割されたうち、九州島内の旅客鉄道事業を引き継いだのがJR九州でした。
なお、国鉄が分割民営化されJR各社が誕生した経緯はこちらの記事でも解説しています。

分割民営化後、JR各社は国鉄清算事業団が全株式を保有する特殊会社として成立しましたが、最終的にはすべての株式を上場し、完全民営化することが求められていました。

新幹線や三大都市圏を抱えるJR東日本、JR西日本およびJR東海の3社は2001年に特殊法人ではなくなり、順次完全民営化が達成された一方、JR九州は本州3社と比較して経営基盤の確立が不安視されていました。

しかし、新駅の開業や新車両の投入、経営の多角化などの様々な経営努力の末に安定的な経営基盤を確立し、上場に向けた条件が整ったとされたことから、2016年4月には特殊法人でなくなり、同じ年の10月には株式が上場され、完全民営化されました。

現在は鉄道事業のみならず、バスや高速船、不動産、流通など様々な領域にわたる44社のグループ会社から構成されるJR九州グル-プを構成しています。

営業収益・営業利益・経常利益

まずは基本の数字、ということで営業収益・営業利益・経常利益について見ていきましょう。

なおJR九州の決算資料において、売上高は「営業収益」として表記されていますので、この記事ではその表記に倣います。

営業収益:3,832億円(対前期16.3%増)
営業利益:343億円(同770.2%増)
経常利益:357億円(同286.5%増)

いずれの数字も対前期で大きく改善しており、喜ばしいことです。
営業収益、営業利益の改善は、行動制限が緩和されたことによる鉄道やホテルの利用者回復による増収の他、鉄道事業の固定費削減を図るBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)を強力に推し進め、140億円のコスト削減に成功したためとされています。

2023年3月期決算説明会資料より

このBPRは、聖域なく様々な領域で徹底したコスト削減が「計画に4ヶ月、実行に2年」という短期で実行されたことに特徴があります。駅の窓口営業時間の見直しや、車両設備の見直しなどが短い期間で次々と行われました。

一方で、業績についてコロナ禍前の2020年3月期の数字と比較すると、以下の通りになります。

営業収益・営業利益・経常利益のいずれもマイナスとなっていますが、コロナ禍の打撃から回復しつつある状況なのでやむなしといったところでしょう。

なお次期、2024年3月期についても回復傾向が続くことによる増収を見込んでおり、電気料金の値上げによる鉄道事業における動力費増や長崎駅周辺開発の開業費などの支出増を考慮しても営業利益・経常利益の増益を見込む、としています。

【就活生注目】JR九州グループの特徴・事業構成

ここでは、決算短信から読み取れるJR九州の特徴を探ってみましょう。
まずは事業構成からということで、JR九州のセグメント別の営業収益割合は以下の通りです。

2023年3月決算短信より作成

まず目につくのは、営業収益全体のうち運輸サービスが占める割合が他のJR各社と比較して低いことです。

全体の営業収益のうち、鉄道を含む運輸サービスが占める割合は35%。
セグメントの分け方は企業ごとに差異がありますが、この割合はJR各社の中で最も低く、鉄道就活応援隊で取りあげた中では関東の大手私鉄、京王電鉄とほぼ変わらない数字です。

鉄道事業の割合が低い売上構成比が、JR九州の大きな特徴のひとつであり、「JRらしくない」点と言えます。

その運輸サービスに次いで営業収益の割合が高いのが、「不動産・ホテル」セグメント。
不動産賃貸として駅ビルのテナント売上などが計上されている他、JR九州ホテルズが運営する数々のホテル部門の売上もここに計上されます。
博多や小倉、熊本といった規模の大きい駅の駅前に展開するホテル部門は、九州に住んでいる方、訪れたことのある方にとってなじみが深いものでしょう。

これに「流通・外食」「ビジネスサービス」「建設」の各セグメントが続きます。

JR九州は投資家向けの説明資料でも

「鉄道事業だけに依存してはいけない」という思いで、様々な事業に挑戦し成⾧を実現してきた

と明言しており、民営化後は安定的な経営基盤の確立、そして企業としての成長のため事業の多角化を積極的に推進してきた企業です。
その方針が分かりやすく表れているのが、先ほどのグラフと言えそうです。

JR九州の鉄道事業

強み:多彩な観光列車

JR九州と言うと、個性的なデザインの車両で運行される数々の観光列車を思い浮かべる方が多いでしょう。
決算短信でも触れられている「ふたつ星4047」をはじめとした「D&S列車」では内装まで拘りぬいたデザインで地域の魅力を体験できるほか、富裕層向けのクルーズトレイン「ななつ星in九州」も人気を博しています。

国内外の観光客を取り込む多彩な観光列車の運行を継続しているのがJR九州の大きな特徴であり、強みです。

将来の展望:「未来鉄道プロジェクト」

一方、JR九州は1987年の誕生以来、2016年3月期までは鉄道事業が毎年赤字を計上していました。それだけに、JR九州では鉄道事業の継続性に対して強い危機感を持っています。

近年のコロナ禍において様々な鉄道事業者でコスト削減が進められましたが、JR九州のBPRはその徹底が際立っていました。
2022年秋のダイヤ改正で行った減便では、結果として通勤時間帯において混雑の激化を招いたとして大きく話題となり、沿線の自治体からJR九州に混雑緩和へ申し入れがあったほどでした。

このBPRはいわば鉄道事業のコスト構造を改善し、事業として継続していくための「守り」の施策であったわけですが、JR九州は投資を含めた「攻め」の施策も意識しています。
それが「未来の鉄道」を作るための「攻め」「守り」両面を備えた戦略、「未来鉄道プロジェクト」です。

興味のある方はJR九州が投資家向けに公開している資料を見ていただきたいところですが、ここで大まかに説明すると、「未来鉄道プロジェクト」が目指すのは「自立した経営基盤と成長の好循環」です。

鉄道やその周辺における稼ぎ方や、メンテナンス、収支管理など様々な領域における改善を部門横断で実施し、鉄道事業及びその周辺事業の成長を目指しています。

たとえば、鉄道での増収については、

  • 現在観光客向けに運行しているD&S列車の価値向上、マイカー利用層の取り込みといった「新規顧客の獲得」

  • ポイントサービスの拡充などの「リピーター獲得」

  • イールドマネジメント*や特急料金等の値上げといった「サービスに見合った収入の獲得」

が掲げられています。

*イールドマネジメント…収入を最大化するための戦略の一つ。鉄道の場合は需要の多寡によって指定席の発売料金を調整したり、いわゆる「早割」を設定したりといったことが考えられる。

自動運転の導入に向けた取り組み

「未来鉄道プロジェクト」においては、「未来の輸送体系」として自動運転の拡大が掲げられています。

福岡市内と隣接する糟屋郡の3町を結ぶ香椎線では、既存の設備を活用しながら省コストでGoA2.5レベルの自動運転を実用化することを目指し、実証実験が進められています。

また、香椎線での実証実験で得られたデータや知見をもとに、「自動列車運転支援装置」の走行試験を実施し、地上設備の増設をせずにGoA2.0レベルの自動運転を実現することを目指しています。
JR九州-鹿児島本線で「自動列車運転支援装置」の走行試験を実施します(2023年3月29日)

就活生のみなさんは「未来鉄道プロジェクト」の具体的な施策をすべて覚える必要はありませんが、目指す将来像や、自らの専攻や希望職種と関連がある分野について意識するだけでも、より深い企業理解につながることかと思います。

JR九州だけではない鉄道関係の企業

JR九州グループには、JR九州以外にも鉄道に関わる企業が数多く存在します。
建築・土木・線路系の事業に実績のある九鉄工業や、車両・機械系に強みのあるJR九州エンジニアリングなど、数々の企業があります。
気になった方はぜひこちらからチェックしてください!

強みは不動産事業-鉄道事業とそれ以外の事業の関わり

ここまでは、JR九州グループの中でも鉄道事業に着目して取りあげてきました。ここからは鉄道事業と、それ以外の事業の関わりを挙げます。

まず覚えてほしいのは、不動産事業、そのなかでも不動産賃貸事業の収益性がJR九州の強みであることです。

駅ビルのテナント収入をはじめ、オフィス・賃貸マンションなどが収入源となる不動産賃貸事業は、2023年3月期の実績で営業収益626億円、営業利益148億円と、グループ全体で見ると営業利益の約4割を稼いでいます。

JR九州グループは自社路線の駅に多くの駅ビルを所有しており、売上高1,111億円(2022年度)のJR博多シティをはじめとし、小倉、大分、宮崎、熊本といった主要駅に展開しています。
2022年9月には西九州新幹線が開通したばかりですが、その終着駅である長崎駅においても、新長崎駅ビルの開業が間近です(2023年秋に開業予定)。

主要駅周辺に展開する不動産の収益性がJR九州の強みであることは覚えておきたいところです。

JR九州グループの今後

九州島内は台風や集中豪雨などの災害により路線が不通になることも多く、過疎化の進行もあって鉄道を取り巻く環境は常に厳しい状況にあります。

災害により不通となっていた日田彦山線の一部区間について2023年夏にBRTで開業することを目指し準備を進めるなど、鉄道の特長である効率的な大量輸送が発揮されない路線に関しては、より地域の実態に適した輸送モードに転換する動きが見られます。

一方、九州の中心都市である福岡市は、政令指定都市の中で最も高い人口増加率を示している(2015年~2020年の数値・第21回国勢調査より)ように、発展を続けています。JR九州は博多駅在来線の線路上空に「博多駅空中都市プロジェクト」と銘打った新たな開発計画を発表し、2028年末の竣工を目指すとしました。

鉄道と駅周辺施設が一体となった魅力づけ、地元密着の観光列車の運行など、生活・観光の両面で沿線価値を向上させることができるかが、JR九州を、ひいては九州全体の将来につながっていると言えそうです。

関連リンク

交通新聞でJR九州のニュースについて知りたい方は、以下のリンクからどうぞ! 以下のリンクから限定で、有料会員向けの記事全文が読めますよ!

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まとめと今後の更新予定

今後も、鉄道事業者については、売上高の規模の違いなどに留まらず、グループ全体の売上や利益について鉄道事業が占める割合の違いなどに注目して取りあげていきたいと考えています。
もちろん鉄道事業者以外の企業についても取りあげる予定ですので、お楽しみに!

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※2023年5月24日 画像のリニューアルと一部表現の修正を行いました。

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