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鉄道会社だけど鉄道だけじゃない強み【就活生向け・決算短信を読む⑤東急電鉄】

この記事では、東急電鉄を擁する東急グループの持株会社、東急株式会社の2023年3月期決算短信を読んでみます。

百貨店や不動産の印象も強い東急グループですが、「本業」の鉄道事業の実態はどうなのでしょうか。この記事では、東急の決算短信に掲載されている収益の数字や事業構成などを通じ、東急の今が分かることを目指します。

なお、鉄道就活応援隊ではJR東海京王電鉄の決算短信を取りあげてきました。今回はそれらの企業とはまた違う、東急ならではの特徴も分かりやすくお届けします。

そして、鉄道業界各社の決算短信については、こちらのリンクから交通新聞電子版の記事が読めます。JR各社や大手私鉄についての四半期決算について、有料記事を特別に全文公開です!

>>交通新聞電子版「決算」検索結果

リンク先では、鉄道業界の様々な企業の決算短信についても分析がありますので、ぜひご参照ください。


東急株式会社・東急電鉄株式会社とは

200社以上を数える東急グル-プの中核である東急電鉄は、渋谷駅と横浜駅を結ぶ東横線・渋谷駅と中央林間駅を結ぶ田園都市線などからなる旅客営業キロ110.7kmの路線を所有する大手私鉄の一つです。
路線のすべてが東京都・神奈川県に存在します。

鉄道事業者として現在に近い形となったのはいわゆる「大東急」の時代が終わった戦後ですが、東急の原形となったのは1918年に設立されたデベロッパー、田園都市株式会社と、1922年にそこから鉄道事業を分離して設立された子会社、目黒蒲田電鉄株式会社です。

その後両社は一つの会社となり、のちには東京横浜電鉄株式会社、1942年からは東京急行電鉄株式会社となり、現在に至る東急の形は概ねこの頃にできました。その後2019年に「東急株式会社」へ改称され、同時に鉄軌道事業が「東急電鉄株式会社」へと分社化され、今に至ります。

「東急株式会社」が持株会社であり、その下にある様々な事業会社の一つとして「東急電鉄株式会社」がある、という構造です(東急株式会社にも不動産事業など直営の事業があります)。
東急のように、持株会社の下に鉄道会社が入る形態を取っているのは他にも阪神阪急ホールディングスや西武ホールディングスなどがありますが、関東の大手私鉄では比較的珍しい形態です。

この記事では「東急株式会社」の決算短信から、東急グループの事業構造や強み、今後の見通しについて取りあげます。

まずは基本の数字から

まずは売上高・営業利益・経常利益について見ていきましょう。

なお東急の財務資料において、売上高は「営業収益」として表記されていますので、この記事ではその表記に倣います。

営業収益:9,313億円(対前期5.9%増)
営業利益:446億円(対前期41.4%増)
経常利益:474億円(対前期35.3%増)

行動制限が緩和されたことによる鉄道やホテルの利用者回復などにより、増収増益となりました。

一方で、コロナ禍の影響が少なかった2020年3月期決算の数字と比較すると、以下の通りになります。

営業収益・営業利益・経常利益のいずれもマイナスとなっています。鉄道の通勤利用や沿線にある商業店舗の利用が戻り切っていないことが原因と考えられますが、詳しく見るには東急の事業構成を知る必要があります。

【就活生注目】東急の特徴・事業構成

ここでは、四半期決算短信から読み取れる東急の特徴を探ってみましょう。

まずは事業構成からということで、東急のセグメント別の営業収益割合は以下の通りです。

まず目立つのが、「営業収益のトップが交通事業ではない」という点ですね。生活サービス事業が圧倒的な一位を占めています。「本業」と言うべき鉄軌道事業を含めた交通事業は僅差で不動産に次ぐ第三位、となっています。

【補足】東急において、交通事業は鉄道やバス事業が含まれる分野で、生活サービス事業は東急百貨店や東急ストアといった小売事業などが含まれる分野です。

以前取りあげた京王電鉄も事業の多角的な展開が特徴となっていましたが、それでも売上が最も多い部門は運輸業でした。

では東急は鉄道では儲けていないのか、というとそうではありません。
以下の表は、2021年度の関東大手私鉄各社の旅客営業キロと旅客運輸収入をまとめたものです。

一番右の列は、1営業キロあたりの旅客運輸収入、つまりどれほど効率的に収益を上げているかを測る上での数字になります。鉄道は固定費が多くかかる事業なので、輸送効率は大変重要な指標です。

東京23区内に高密度の路線網を有する東京地下鉄(東京メトロ)が別格の数字を出していますが、それに次ぐ数字を出しているのが東急電鉄です。
こうして見ると、他社と比較してもかなり効率よく収入を上げているのが分かります。
旅客運輸収入の数字を見ても、東急電鉄は1位の東京地下鉄、2位の東武鉄道に次ぐ3位です。

つまり、東急の営業収益の構成で運輸業が最多でない理由は、「鉄道が儲かっていない」ためではなく「鉄道は儲かっているが、生活サービス事業がそれ以上に儲かっている」ためというわけです。

東急電鉄だけではない鉄道関係の企業

東急グループには東急電鉄以外にも鉄道に関わる企業が存在します。たとえば、現在はJR東日本グループになっている鉄道車両・コンテナメーカーである総合車両製作所も、前身は東急グループの東急車輛製造でした。

現在でも、東急線で運行している鉄道車両の整備・改造や電気設備工事などを手掛ける東急テクノシステム、静岡県で鉄道事業を営む伊豆急行(伊豆急HDの子会社)、長野県で鉄道事業を営む上田電鉄(上田交通の子会社)などがあります。
地方の私鉄にもグループ会社が存在しているのが特徴です。

なお、「東急グループ 採用・インターンシップ事務局」さんのnoteアカウントでは、東急テクノシステムや伊豆急ホールディングスの採用情報や若手社員の一日も紹介していますので要チェックです!

鉄道事業とそれ以外の事業の関わり

ここまでは、東急グループの中でも鉄道事業に着目して取りあげてきました。ここからは鉄道事業と、それ以外の事業の関わりを挙げます。
ただ全国に事業を展開する東急グループの事業を一度に取り上げると長くなってしまいますので、この項では東急線との関わりに絞って取りあげます。

①生活との関わり・小売事業や交通業

まず鉄道とかかわりのある所で「東急」の名が一般に最も知られているのは東急百貨店ではないでしょうか。再開発で惜しまれつつ閉店した本店は東急の顔、渋谷の顔ともいうべき存在でした。

そして、沿線の住民にとっては小売事業を展開する東急ストアや、東急線沿線で生活の足として機能する東急バスがなじみ深いでしょう。

②不動産事業

前身の一つがデベロッパーであった東急は、いわゆる「電鉄系不動産会社」の中でも屈指の規模を誇る東急不動産を擁するほか、東急株式会社においても不動産事業を営んでいます。

東急では、高級住宅街の代表格ともいえる田園調布や、一大拠点である渋谷エリアの開発をはじめ、鉄道と一体になった沿線開発を進めてきました。

近年でも大規模な再開発プロジェクトである渋谷駅周辺開発プロジェクトや、2019年11月に「まちびらき」をした南町田グランベリーパーク(東急田園都市線沿線)など、多くの大規模プロジェクトが進行しています。

なお、沿線ではない新宿の歌舞伎町一丁目地区開発計画についても、東急レクリエーションの手掛ける「109シネマズ」ブランドの映画館や、東急ホテルズ&リゾーツ運営のホテルなど、グループ各社の力を結集してプロジェクトを進めています。

不動産事業は鉄道と共に祖業ともいえる事業であり、鉄道以外の事業も巻き込んでグループの強みを活かす開発が特徴であることは覚えておきたいところです。

決算短信から読む東急グループの今後

東急グループにとっては、渋谷エリアの再開発の進展や、もう間もなくとなった東急新横浜線の開業が大きなトピックスです。
前者は渋谷エリアのブランド力向上・更なる活性化によるグループ全体の利益向上が見込めますし、後者については利便性向上による新たな人流の創出が見込まれます。

未だ残り続けるコロナ禍の影響や物価高騰、長期的には沿線人口の減少などのマイナス要因はありますが、

  • 密度の高い輸送による鉄道事業の収益性の高さ

  • 生活サービス事業や不動産事業といった、多くの収益を上げる関連事業の存在

は東急の明確な強みであり、今後も継続的に発揮されるものと思います。

関連リンク

noteには、東急グループの採用アカウントがあります!
グループ各社の社員紹介や採用情報も掲載されているので要チェックです!

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まとめと今後の更新予定


今後も、鉄道事業者については、売上高の規模の違いなどに留まらず、グループ全体の売上や利益について鉄道事業が占める割合の違いなどに注目して取りあげていきたいと考えています。
もちろん鉄道事業者以外の企業についても取りあげる予定ですので、お楽しみに!

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※2023年4月13日 グループ再編による東急ホテルズ&リゾーツの誕生(2023年4月1日)に伴い、一部内容を修正しました。
※2024年2月14日 画像を含めた内容を2023年3月期決算短信の内容に合わせて更新しました。

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