やはりJR東海の強みは新幹線?【就活生向け・決算短信を読む①JR東海】
1964年10月1日に開業して以来、60年で約68億人もの乗客を運んできた東海道新幹線。
東京~新大阪間を最高時速285kmのスピードで運行する「のぞみ」を1時間当たり12本運転する「のぞみ12本ダイヤ」を行うなど、高速かつ高密度なダイヤが特徴的な鉄道路線です。
決算短信から企業の特徴を分析する「決算短信からわかる! 鉄道業界企業分析」シリーズの初回となるこの記事では、そんな東海道新幹線を運行するJR東海の2023年3月期決算短信を読んでみます。
なお、鉄道業界各社の決算短信については、こちらのリンクから交通新聞電子版の記事が読めます。JR各社や大手私鉄の決算短信について、有料記事を特別に全文公開です!
リンク先では、JR東海を含め、鉄道業界の様々な企業の決算短信についても分析がありますので、ぜひご参照ください。
【基本情報】JR東海とはどのような企業か。
今回取りあげるJR東海は正式名称を東海旅客鉄道株式会社といい、他のJR各社同様に1987年の国鉄分割民営化で誕生した企業です。本社のある名古屋、東海地方を中心に、東海道新幹線552.6km、在来線1,418.2kmの合計2,000km近くの路線を保有しています。
なお、JRの成り立ちや、私鉄との違いについては以下の記事も参考にしてください!
なおJR東海は、鉄道事業以外にも
流通業……JR東海・髙島屋の合弁企業「株式会社ジェイアール東海髙島屋」によるジェイアール名古屋タカシマヤの営業など
不動産業……駅ビル等の不動産賃貸事業のほか、不動産分譲事業を展開
といった事業を展開しています。
まずは基本の数字:売上高・営業利益・経常利益
まずは基本の数字、ということで、JR東海の売上高・営業利益・経常利益について見ていきましょう。
全体の輸送実績が対前期56.7%増となるなど、コロナ禍の影響からの回復が見られた結果、大幅な増収・増益を達成。営業利益は2期連続の黒字、経常利益は3期ぶりの黒字となりました。
コロナ禍の影響が少なかった2020年3月期と比較すると、以下の通りです。
売上高・各利益ともに、コロナ禍の影響からは回復途上という状況です。
なお2024年3月期についても、2023年3月期決算短信の時点で増収増益の予想が発表されています。
さらに2023年10月から12月にかけての輸送実績が好調であったことなどを踏まえ、最新の2024年3月期第三四半期決算短信では通期の業績予想について上方修正されています。
好調な輸送実績を背景に、業績の回復傾向はしばらく継続する見通しです。
【就活生注目】JR東海の売上高 強みはやはり新幹線
次は、JR東海の事業セグメントごとの売上高を見てみましょう。グラフにすると、以下の通りです。
注目したいのは、運輸業が占める割合の高さです。
運輸業での売上高11,234億円は、全体での売上高の約8割を占めます。
JR東海のWebサイトにある「収益構造のページ」では、営業収益における運輸業が占める割合を77%(2019年度)、64%(2020年度)としており、数字に多少のばらつきはあるものの運輸業の占める割合が極めて高いことには変わりありません。
のちほど詳しく述べますが、運輸業の売上高のほとんどは鉄道の運輸収入ですから、
JR東海でもっとも売上を出している事業は鉄道事業
である、ということが分かります。
ここからは補足資料である令和4年度期末連結決算概要を参照して、鉄道事業の運輸収入について詳しく見ていきましょう。
「補足説明資料4」のページの、「輸送人キロおよび運輸収入の比較」を見てください。
令和4年度累計の新幹線・在来線を合わせた鉄道の運輸収入が10,699億円となっています。
さきほど挙げた「運輸業での売上高11,234億円」には鉄道事業に加えて貨物輸送業やバス事業の売上高も含まれていますが、割合としては鉄道の運輸収入が大半を占めていることが分かると思います。
さて、運輸収入の内訳に注目すると、定期の前年比が4.2%増の一方、定期外は前年比で66.7%増と大きく伸びています。なお定期と定期外の区別に関しては前回の記事で触れていますが、改めて整理すると以下の通りです。
定期外の利用者が伸びたということからは、観光や出張での利用が増加したであろうことが伺えます。
人流が戻ってきたことに加え、JR東海が実施してきた、利用者の多寡に合わせた柔軟なダイヤ設定やネット予約が利用できる区間の拡大などの施策が実を結んだものと言えそうです。
東海道新幹線の運輸収入
JR東海の運輸収入についての資料を見た人は、運輸収入の中でも新幹線の占める割合が非常に大きいことにも気付くはずです。
令和4年度における在来線の運輸収入が838億円であるのに対して、新幹線は10倍超の9,861億円となっています。
JR東海全体の売上高(14,002億円)と比べても、新幹線の運輸収入だけで約7割を占めているのが分かります。
名実ともに東海道新幹線が会社の柱であることが、財務資料からも読み解けますね。
JR東海だけではない、JR東海グループ内の鉄道関係の企業
JR東海グループには、鉄道に関わる仕事を担う企業が多くあります。
たとえば、JR東海から駅業務やテレフォンセンター業務などを受託したり、自社で鉄道路線の営業も行っている東海交通事業や、鉄道車両の製造などを担う日本車輌製造といった企業です。
鉄道就活応援隊でも社員の方に取材しています!
【東海交通事業の社員の方へインタビュー】
【日本車輌製造(日本車両)の社員の方へインタビュー】
ほかにも、鉄道車両・機器の整備を行う東海交通機械、鉄道関連施設の建設・改良を担うジェイアール東海建設、線路の安全を支える保線を担う日本機械保線など、多数のグループ企業があります。
詳しくは、JR東海のWebサイトもご覧ください!
決算短信から読むJR東海の今後
就活生のみなさんが企業の財務資料を見る上で気になるのは、やはりその会社の将来性だと思います。では、JR東海の場合はどうでしょうか。
ここまで決算短信を読んできたみなさんならお分かりのこととは思いますが、JR東海の今後を左右する材料のひとつは、やはり東海道新幹線と言っても過言ではないでしょう。
現状、東京圏と大阪圏を結ぶ旅客輸送において、新幹線はライバルの航空機・バスに対してかなり優位に立っています。
それは「安定・高速・大量輸送」という鉄道の強みが最大限に発揮されている区間であり、これを覆すような変化が起きる兆候は今のところ見られません。
一方で長期的なマイナス要因として、人口減少や、コロナ禍をきっかけとした生活様式の変化の影響があります。
また、現在建設中の中央リニア新幹線は、品川~名古屋間だけでも工事費を7.04兆円※と見込んでいます。
巨額の負担ではありますが、中央リニア新幹線が大阪まで開業した場合は東京~大阪を67分で結ぶ※とされており、東海道新幹線を含めた東京圏と大阪圏の輸送状況には劇的な変化が訪れるはずです。
中央リニア新幹線がいつどのような形で開業を迎えるのか、巨額の投資をどの程度の期間で回収できるのかが、JR東海の将来を予測する鍵となりそうです。
まとめ
「鉄道就活応援隊」では、今後も鉄道業界の企業の決算短信を取りあげていきます。
鉄道事業者については、売上高の規模の違いなどに留まらず、グループ全体の売上や利益について鉄道事業が占める割合の違いなどに注目して取りあげていきたいと考えています。
もちろん鉄道事業者以外の企業についても取りあげる予定ですので、お楽しみに!
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今後も、鉄道事業者については、売上高の規模の違いなどに留まらず、グループ全体の売上や利益について鉄道事業が占める割合の違いなどに注目して取りあげていきたいと考えています。もちろん鉄道事業者以外の企業についても取りあげる予定ですので、お楽しみに!
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※2024年2月21日 画像を含めた内容を2023年3月期決算短信の内容に合わせて更新し、関連記事へのリンクを追加しました。