近畿圏での「鉄道×●●」に強み【就活生向け・決算短信を読む⑧JR西日本】
突然ですが、みなさんは日本で最も長い距離を走る普通列車(ここでは運賃だけで乗れる列車とします)がどこを走っているか、知っていますか?
2023年6月1日時点での正解は、福井県の敦賀から兵庫県の播州赤穂駅の間です。営業キロにして275.5kmにもおよぶ長い距離を走るこの列車を運行しているのが、JR西日本です。
この記事では、そんなJR西日本の2023年3月期決算短信を読み、売上高などの「数字」や事業構成などを通じてJR西日本の今を理解することを目指します。
なお、鉄道就活応援隊ではJR東海や京王電鉄、東急グループの四半期決算短信を取りあげてきました。今回はそれらの企業とはまた違う、JR西日本ならではの特徴も分かりやすくお届けします。
そして、鉄道業界各社の決算短信については、こちらのリンクから交通新聞電子版の記事が読めます。JR各社や大手私鉄についての四半期決算について、有料記事を特別に全文公開です!
リンク先では、鉄道業界の様々な企業の決算短信についても分析がありますので、ぜひご参照ください。
JR西日本とは
JR西日本の正式名称は「西日本旅客鉄道株式会社」。他のJR各社同様に、1987年の国鉄分割民営化で誕生した会社です。
国の関与が強い公共企業体であった国鉄が事業や営業エリアごとに複数の企業へ分割されたうち、主に近畿・北陸・中国地方の旅客鉄道事業を引き継いだのがJR西日本です。
2府16県におよぶ広い営業エリアには山陽新幹線、北陸新幹線の新幹線を含む多くの路線が存在し、そのキロ程の合計は5,000kmに迫ります。
なお、国鉄が分割民営化されJR各社が誕生した経緯はこちらの記事でも解説しています。
分割民営化後、JR各社は国鉄清算事業団が全株式を保有する特殊会社として成立しましたが、最終的にはすべての株式を上場し、完全民営化することが求められていました。
その中にあって、JR西日本は1996年に上場を達成。これはJR東日本についでJRでは2社目でした。その後JR東日本・JR東海とタイミングを合わせた2001年に特殊法人ではなくなり、2004年には完全民営化を達成しました。
現在は150社(2022年度末)のグループ企業とともに、近畿圏輸送を中心とした鉄道事業のみならず、鉄道沿線の好立地を活かした不動産業や流通業など幅広い領域で事業を展開しています。
売上高・営業利益・経常利益
まずは基本の数字ということで、売上高・営業利益・経常利益は2023年3月期決算短信によると以下の通りです。
行動制限の緩和・撤廃などにより需要が回復した結果、すべてのセグメントで増収となり、3期ぶりの黒字となりました。
決算短信補足資料によれば、特に鉄道事業の旅客運輸収入が対前期2,000億円以上の増加となっており、業績回復に大きく貢献しています。
一方、まだコロナ禍の影響が小さかった2020年3月期の数字と比較するとどうでしょうか。
2020年3月期の数字と比べるといずれの項目もマイナスであり、コロナ禍の影響からはいまだ回復途上、といった状況であることが分かります。
なお、JR西日本ではコロナ禍の影響からの回復傾向は続くとみており、次期(2024年3月期)も増収増益を見込んでいます。
【就活生注目】JR西日本グループの特徴・事業構成
2023年3月期決算では、JR西日本のセグメント別の売上高の比率は以下の通りとなっています。
鉄道やバス事業が含まれる「運輸業」が半分超を占めており、ショッピングセンター運営や不動産賃貸などの事業が含まれる「不動産業」12%、エキナカ事業などが含まれる「流通業」12%が続きます。
「その他」が多い印象ですが、ここにはホテル業*、旅行業、建設事業などが含まれています。
ほかのJR 上場4社と比べると、どちらかと言えば運輸事業の占める割合が低い部類に入るのがJR西日本の特徴となっています。特に、売上高の規模が近いJR東海と比べるとその差は一目瞭然です。
とは言え、事業の多角化を進める大手私鉄やJR九州と比較すると運輸業の割合が高いのも事実。鉄道事業以外の各事業の成長次第でこの数字が変化する可能性は高く、今後に注目のポイントです。
このように売上高の構成は会社ごとの個性が出るところなので、会社選びをする際には必ずチェックしておきたいポイントです。
なお、JR東日本・JR九州の記事はこちらからどうぞ!
JR西日本の鉄道事業
強み:近畿圏輸送
首都圏に次ぐ巨大な都市圏である近畿圏。その近畿圏における鉄道輸送で生み出される収益がJR西日本を支えています。
具体的には、2023年3月期の鉄道旅客運輸収入6,945億円のうち、実に4割近くの2,567億円が近畿圏の在来線でのものです。
金額で言えば新幹線が3,516億円とより多くの金額を稼いでいますが、後述する他事業との相乗効果という意味では人口の多い近畿圏の輸送を担っているのはアドバンテージになっています。
その近畿圏輸送の象徴が、新快速です。
都市間輸送を使命として速達性を重視した新快速は国鉄時代に誕生した列車種別ですが、JR西日本後には京阪神間輸送の顔として車両や列車ダイヤの改良を重ね、今ではJR西日本の近畿圏輸送における象徴的な存在となっています。
実は、冒頭で取りあげた敦賀駅と播州赤穂駅を結ぶ日本最長距離を走る普通列車も新快速。JR西日本が、近畿圏の広い範囲で都市間輸送に力を入れているのが分かります。
また、JR西日本は路線を新設したり貨物線を旅客化したりすることで、既設路線どうしを結ぶ新たなネットワークを構築することにも力を入れてきました。
1997年開業のJR東西線や、2019年に全通したおおさか東線、2023年3月に開業したばかりの大阪駅うめきたエリア(路線としては東海道本線の支線)などが例です。
加えて、既設路線の改良にも着手しています。
具体例の一つに、新駅の設置が挙げられます。発足以来2019年3月に至るまで、利便性向上のために89駅の新駅を設置してきました(新線の開業によるものや、在来線既設駅への新幹線駅開業を含む)。
また、京都と奈良方面を結ぶ奈良線では利用者の増加を受けて輸送品質の向上を図るために線増を進め、2023年春には第2期複線化事業が開業しました。
近畿圏の鉄道事業については、
広域都市間輸送の顔、新快速
新規路線の開業で、既設路線同士を結ぶ新たなネットワークを構築
既存路線の改良(新駅開業、複線化など)
という3つのポイントを押さえておきましょう。
一方、一部の地方路線は利用者の減少が著しく、大量輸送という観点で鉄道の特性が十分に発揮できていない、極めて厳しい状況に置かれています。
2022年4月には、2019年度の輸送密度が2000人/日以下の線区を対象に利用者数や経営状況についての資料を開示しました。
11月には2020年度から2022年度にかけての数字も公開。「持続可能な地域公共交通の姿」を模索するため自治体に協議を持ちかける動きも出ています。
これはJR西日本に限った問題ではなく、公共交通としての側面と、営利企業の一事業という側面、この二つの側面を持つ鉄道路線の行く末は、鉄道事業者と地方自治体、沿線住民にとって大きな課題となっています。
安全への取り組み
JR西日本のWebサイトを開くと、まず目につく項目があります。「福知山線列車事故について」というリンクです。そのリンクをクリックすると、事故の概要や事故後の対応、事故現場に設置された慰霊施設「祈りの杜」などについての説明があるページへと移動します。
福知山線列車事故は、2005年4月25日に福知山線の塚口~尼崎間で発生した列車脱線事故です。7両編成の快速列車が半径304mの曲線に制限速度70km/h を大幅に超える約116km/hで進入し、1両目から5両目が脱線。結果として乗客と運転士計107名の死者、500名超の負傷者を出す事態となりました。
事故の犠牲者、遺族、負傷者やその家族の方々と向き合う活動は、事故から約20年が経つ今でも続いています。
JR西日本は事故を受け、約1ヶ月後の5月31日には「安全性向上計画」を発表。
内容は安全を最優先とする意識の徹底、「事故の芽」などの報告に対する対応方の改善、教育・指導のあり方の見直し、保安装置の更新を含むハード面における安全対策など、多岐にわたります。
その後も、安全向上のための計画を更新し続け、2023年3月には「JR西日本グループ鉄道安全考動計画2027」が策定されました。
継続した鉄道の安全性向上、安全マネジメントの仕組みづくりのために、様々な取り組みが挙げられています。具体的な例はホームドアの整備、安全の最優先を実現するための訓練などです。
安全は、鉄道に関わるあらゆる仕事で重視されるものです。
JR西日本においては、その安全への誓いが様々な場面で第一に掲げられ、Webサイト、経営計画、財務資料など様々な場面で見られます。
JR西日本だけではない鉄道関係の企業
JR西日本のグループ会社には鉄道関係の企業が数多くあります。
鉄道事業では、山陰本線の旧線でトロッコ列車を運行する嵯峨野観光鉄道があります。
鉄道メンテナンスの分野では、鉄道車両の設計開発から製造、保守を担うJR西日本テクノス、ホームドアや駅舎用エレベーターといった機械の設計、制作、施工管理、保守などを担うJR西日本テクシア、線路・土木・建築の分野で鉄道の安全を支える大鉄工業や広成建設、鉄道電気工事などを担うJR西日本電気システムなど、様々な企業があります。
詳しくはこちらからご覧ください!
鉄道以外の事業について
JR西日本では、鉄道・交通、流通などの「モビリティサービス分野」がグループの連結営業利益の約8割を占めています。
その現状に対し、JR西日本は経営計画「長期ビジョン2032」において、不動産、ショッピングセンター、地域・まちづくりなどの「ライフデザイン分野」を成長させることで、その割合を6割程度まで低下させることを目指すと謳っています。
ここからは、JR西日本が特に成長を目指している鉄道以外の事業について、いくつかの例を取りあげます。
不動産業
鉄道事業は人流の基点となる駅を持つ土地に根差した事業です。そのため、同じく土地に根差した事業である不動産業は鉄道事業との相乗効果が見込まれる代表的な事業の一つです。
たとえばショッピングセンターで言うと、大阪駅の駅ビル「大阪ステーションシティ」「LUCUA osaka」など、沿線の好立地に数多くの物件を所有しています。また、大阪駅周辺では西側エリアの開発が進行中であり2024年には新たな駅ビル「イノゲート大阪」が開業予定です。
その他にも、JR西日本SC開発が運営する天王寺駅の「天王寺ミオ」、富山ターミナルビルの運営する富山駅の「マリエとやま」など、主要駅のそばで多くのショッピングセンターを運営しています。
WESTERポイント
前回取りあげたJR東日本の「JRE POINT」同様に、グループで共通化されたポイントサービスを展開しています。それが「WESTERポイント」です。
「WESTERポイント」がサービス開始したのは2023年3月。それまでグル-プ内の企業やサービスで分立していた「J-WESTポイント」「ICOCAポイント」「WESPOポイント」といったポイントサービスを統合し、新たに誕生しました。
同じくサービス開始したばかりの「モバイルICOCA」との連携など生活の中の様々な場面で利用できる利便性の高さを武器に、2027年度末にはポイント利用者数を1,000万人規模に成長させることを目指しています。
そんなポイントサービスの企業にとっての価値は、やはり会員情報をもとにして様々なデータ分析が可能になること。
その結果として顧客ニーズに合った質の高いサービスの提供が可能になり、顧客数の増加、顧客一人当たりの単価の向上を通じて、より高い収益があげられるようになります。
これがポイントサービスの基本的な狙いであることは押さえておきましょう。
沿線自治体と連携した地域振興策「おためし暮らし」
地方で人口減少が加速する状況にあって、JR西日本の沿線地域においてもそれは例外ではありません。
都市近郊の自治体へ移住を促進する取り組みとして「おためし暮らし」というサービスが展開されています。
このサービスでは、1週間からおためしで移住ができるほか、JR西日本の路線を通勤に使った場合のJR運賃と特急料金について、使用分の40%相当がWESTERポイントとして還元されます。
なおこのような地方創生の取り組みは鉄道事業でも行われており、岡山県の総社市内で製造されたパンを、JR伯備線の普通列車で岡山駅に輸送、駅構内で販売する取り組みが行われています。
これは、「パンわーるど総社」と題してパンを切り口にした地域活性化を推進する総社商工会議所やヤマト運輸と連携したものです。
JR西日本グループの今後
短期的には、コロナ禍からの需要回復傾向が続くと見られています。決算短信に記載のある2024年3月期の見通しでも、JR西日本は連結決算の増収増益を見込んでいます。
また、数年以内のトピックスとして2024年春には北陸新幹線金沢~敦賀間の開業が控えているほか、2025年には大阪・関西万博の開催が予定されています。先に述べた新駅ビルの開発と合わせ、大阪エリアでは鉄道以外の事業も含めた収益増が見込めそうです。
長期的なトピックスとしては、北陸新幹線の大阪開業やリニア中央新幹線の大阪開業(どちらも着工の見通しは不透明)がある一方、多くの沿線地域で既に始まっている人口減少は、長期的に継続すると思われます。
CBMやワンマン運転の導入によるコスト削減には限界があり、地方路線を数多く抱える鉄道事業単体の収支は構造的に大きな改善が難しい状況となっています。
他事業との相乗効果やコスト削減、地域振興による利用推進などによって鉄道事業の収益を維持しながら、WESTERポイントなどで結ばれた「鉄道×ライフデザイン分野」の成長を実現できるかが、JR西日本の今後を左右すると思われます。
関連リンク
交通新聞でJR西日本のニュースについて知りたい方は、以下のリンクからどうぞ! 以下のリンクから限定で、有料会員向けの記事全文が読めます!
まとめ
鉄道就活応援隊では、JR西日本の他にも鉄道業界の様々な企業分析を掲載しています。数字の面からしっかりと企業について理解したい人にオススメです。
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