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入社2年目から技術開発に携わったハイブリッド車両がデビュー。アイディアを形にする感動、そしてそれを分かち合う喜び【社員インタビュー:日本車両・鉄道車両の艤装設計】

鉄道に関わるお仕事に携わっている方へインタビューを通じて、その仕事についてのお話を伺う「鉄道ゲンバ最前線!」。

第7回となる今回は、日本車輌製造株式会社(愛知県名古屋市)で鉄道車両本部技術部に所属する松井さんにインタビューしました。鉄道車両に欠かせない艤装(ぎそう)設計を担う松井さんに取材するうちに、鉄道車両製造にかける思いや日本車両ならではの車両へのこだわりを聞くことができました。

それではどうぞ!

自己紹介と入社のきっかけ

――本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、自己紹介と入社のきっかけをお願いいたします。

豊川製作所の会議室でインタビューに応じてくれた松井さん

松井 豊川製作所に勤務する松井諒(まついりょう)です。2013年4月に日本車両に入社しました。主に在来線車両の艤装設計を担当しています。

鉄道に興味を持ったはじめのきっかけは、「なんでハンドルの無い車両がカーブをきれいに曲がれるのかな」といった疑問からでした。そこから車両の仕組み、メカニズムに興味を持ち、この道を志しました。
また、元々、”ものづくり”や”考える”ことが好きだったというのもあります。

そんな中、日本車両を志望したきっかけは、職場見学で工場を訪れ、弊社が製造中のタンクローリーを見かけた時のことです。
案内してくれた方から「このタンクローリーは蒸気機関車のボイラーを作る溶接技術を応用して作られている」と教えられ、鉄道車両の製造で培った技術を様々な分野に水平展開できるのは大きな魅力だなと感じて志望しました。

艤装設計の仕事の中身とやりがい

――なるほど。具体的にはどのようなお仕事をされていますか?

松井 入社当初から今と同じ、鉄道車両本部技術部艤装グループというところに所属しています。車両の艤装設計を担当しているのですが、主な業務内容としては、車両が走行するために必要な機器を車体に取り付け、配管や配線でその機器どうしを結びつけて「車両」としてまとめあげる設計をしています。

普段、乗客として利用すると基本的には目にすることの無い箇所なのですが、乗務員の方や車両の検修・保守を行う方々にとっては毎日見て、触れていただく重要な箇所を担当するため、誇りをもって設計にあたっています。

1日のスケジュールとしてはこのような形ですね。案件の進捗によっては、発注者である事業者さまとの打ち合わせを行ったり、協力会社の工場へ出向いたりすることもあります。

――入社当初から同じお仕事ということですが、どのような経験を積まれてきたのですか?

松井 入社1年目は設計の基礎を学ぶということからスタートし、当時設計終盤であった海外向け車両を担当しました。車両に搭載する機器を実際に設計し、実装、納入するまでを経験しました。

2年目以降は、2022年に営業運転を開始したHC85系に向けた、エンジンで発電した電気と蓄電池の電力でモーターを回転させて走行するハイブリッド車両の技術開発に携わっていました。
私はエンジン周りの艤装を主に担当していたのですが、これはハイブリッド車両の基幹ともいえる箇所ですし、発注元のJR東海さまにとっても日本車両にとっても初挑戦となる技術の開発ということで、非常にやりがいのあるプロジェクトでした。

――初めて“設計”したときの感想は?

松井 これは設計者の醍醐味、だと思うのですが、自分が設計した図面が実際の“もの”になっていき、これが大きな車両を動かす一端を担うというのは感動を覚えました。
自身が考えたアイディアが形になり、車両に搭載し、そしてその車両が走っているのを見ると大きな達成感を覚えるほか、この喜びや感動を同じ車両に携わった人達と共有できるというのも、設計という仕事のとても大きなやりがいだと思っています。

――難しいことや、大変なことは?

松井 事業者さまとの設計会議の中でご提示いただいたご要望は、極力お応えしたいと思っています。ただ、それが技術的には実現可能でも、お客さまの予算と合わなくなってしまうこともあります。

いい車両にしたいものの、それで事業者さまのご負担が増えてしまうのはベストな形ではありません。できる限りの低コスト化を図りつつ、事業者さまのご要望にも寄り添っていきたいのですが、この相反する課題の解決にもどかしさを感じることもあります。

――設計はどのようにして始めていくのですか?

松井 ゼロベースから行うケースもあれば、過去の設計を元に改良することもあります。

ゼロベースから行う場合、まずは「勉強」から設計という仕事は始まります。「この機能を持たせるためにはどのような機器が必要となるのか」、「お客さまのニーズはどのようなものなのか」。日本車両だけでなく、他社さまの技術に触れてみたりもします。

勉強といっても私が自主的に行うものだけでなく、クライアントとなる鉄道事業者さまとのコミュニケーションも“勉強”の一つです。
先に挙げた、HC85系では特に密に連携し、それもJR東海さまと弊社だけでなく、ハイブリッドシステムに欠かせない重電メーカーさま、エンジンメーカーさまなどと協力し、打ち合わせや試験を繰り返しました。

――たびたび話題に挙がるHC85系ですが、松井さんや日本車両にとってはどのような車両なのでしょう

松井 初のハイブリッド車両ということで、非常にハードルが高い挑戦でした。

入社2年目から携わりましたが、当時はまだHC85系そのものの開発ではなく、その前提となるハイブリッド技術の開発に従事していたこともあり、改めて約5年にわたった開発期間を振り返ると、「一つの新型車両を完成させるのにこんなにたくさんのプロセスが必要なのか」と感じます。

JR東海 HC85系。ハイブリッド技術を採用し、2022年7月から特急「ひだ」に投入され、2023年7月には特急「南紀」への投入も予定される最新型の在来線特急車両。

これまでの世の中にない車両を作るHC85系のプロジェクトだったため、ハイブリッドシステムを成立させるために、新技術の検証を非常に丁寧に行ってきたことが印象に残っています。
一方で、革新的な技術を搭載しながらもあくまで特急車両ですので、静粛性や乗り心地にはこだわる必要がありました。
そこで、エンジンから車体へ伝わる振動を低減するための「防振ゴム」を二重構造にし、さらにその取り付け構造を工夫することで、客室に伝わるエンジン振動を軽減するように設計しました。

この構造は私が中心となって開発し、特許も出願しました。
HC85系のパンプレットなどにも車両のPRポイントとして掲載していただいているのですが、とてもうれしかった
です。
デビュー後のお客様の声としても、車内静粛性に関する好感の声が多数あると聞きました。

松井さんの思い入れの詰まった防振ゴムも写るエンジン周辺の様子。

――革新的な車両として晴れてデビューしたHC85系。設計は大変でしたか?

松井 正直大変でした(笑) 限られた床下スペースの中に前例のない多くの機器を搭載しなければならず、設計に苦心しました。しかし、これこそ艤装設計の「腕の見せ所」ともいえるシーンだと思います。

――では、今まで携わった中で、特に思い入れのある車両というのも……?

松井 やはりHC85系ですね(笑) ちょっと見づらいですが、ぜひエンジン周りを見てほしいですし、他のディーゼル車と乗り比べてみてほしいです。

そのHC85系は量産に先立って試験走行車を1編成製造し、長期にわたり走行試験を繰り返していたのですが、私もちょうどその頃にJR東海さまの車両課に出向しました。

JR東海への出向で得られたもの

――鉄道事業者であるJR東海への出向のご経験があるんですね! 詳しく聞かせてください。

松井 元々JR東海さまと弊社間では相互に社員出向による交流がありました。

どちらかというと弊社にご出向に来られるケースが多かったのですが、私が2020年にJR東海さまに出向したのが、弊社から在来線の車両系統で出向する久々のケースになり、その後は定期的にJR東海さまの車両課に出向させていただく社員がおります。

私自身、出向は本当に良い経験になりましたし、ぜひ今後も続けてほしいと思います。
JR東海さまの車両課は弊社が製造した車両を「運用・保守・改良」する立場であり、その立場を経験することは、私たちが製造する“車両の品質”がいかに鉄道の安全・安定輸送に関わっているのか肌で感じることができたからです。

――出向先では具体的にどのようなお仕事を?

松井 JR東海さまでは電気システム設計に従事し、車両の電気回路や機器を設計していました。これは初めて携わる分野だったのですが、ここでも事業者ならではの経験を積むことができたと感じています。

列車連結時に車両の電気回路を自動的に接続および切り離しをする「電気連結装置」の開発に関わったときのことなのですが、この装置は過去に枯葉が挟まって列車運行に支障をきたした事象があり、現場から改善を求める声が多くありました。
315系という新形式車両の導入とともに、これらの事象は再発させないという気概で、新たな構造を開発することができました。

出向を通じて、現場感覚、事業者さまの視点、思いを深く学ぶことができ、これまで以上に車両品質の向上を目指すようになりました。

――松井さんの考える車両の品質とはなんですか?

松井 設計品質・製造品質・使用品質の3つがあると思います。
車両製造の根幹に関わる最初の2つはもちろんですが、車両を運用する(使用する)方々にとって使いやすい車両であるべきと思っています。
この思いは入社当初からもちろん持ってはいたのですが、出向し、現場を知ることで決意を新たにしたところがあります。
今では弊社に戻り、再び車両を設計する立場になりましたが、出向先で学んだことを存分に生かしています。

―――出向先から戻ってきて、現在の職場環境はどうですか?

松井 見習いたいな、と思う上長の人がいますね。私には小さい子供が2人いるのですが、その上長にも同じくらいの年齢のお子さんがいます。
私と同じように子育てが大変なはずなのですが、自分や周囲の仕事のことを家に帰ってからでも常に考えてくれているのを見ると、その意識の高さに尊敬します。

また、上長自身も子育ての大変さを理解してくれているので、私が子供の都合で職場から抜けなくてはいけない時などに相談がしやすいのはとてもありがたいですね。

日本車両ならではのこだわり

――日本車両の車両づくりの特徴とは何でしょうか?

松井 目に見えるところでは、ラインナップの豊富さがあります。新幹線の車両から在来線の特急車両、通勤車両と幅広く製造していますし、扱う車体(構体)の材質もバラエティーに富んでいるのは、分かりやすい特徴ですね。

――日本車両のこだわりとは?

松井 各鉄道事業者さまが新型車両を導入される場合、単に古い車両を交換したり車両を増やしたりするだけではなく、その車両を導入するにあたって業務改革を図られたり、安全性や安定性向上の施策を進めたりといった何らかの狙いがあることが多いです。

ですので、こちらも車両に付加価値を付けたり、お客さまの要望をしっかりとヒアリングし、事業者さまの狙いに寄り添って車両をつくっていくこれが日本車両らしい車両づくりです。

HC85系のように、試験走行車を製作し、じっくりと各種試験を行えるケースだけでなく、同じくJR東海さまの315系のように、第一編成から量産が開始するような車両の場合は、後々に細かなトラブルなどにつながらないように、しっかりと各部署で打ち合わせを重ねて事前に検証をすることで車両の品質向上に努めています。

工場内で出荷を待つJR東海向けの在来線通勤型電車、315系と写る松井さん。N700SやHC85系といった車両と同じく豊川製作所で製造されている車両の一つ。

学生時代・就職活動を振り返って

――ご自身の就職活動を振り返って、いかがでしたか

松井 大学院に進学した私は研究に没頭しており少し忙しく、就職活動と研究の両立に苦戦しました。
私の場合は鉄道業界のみを目指していたので、鉄道会社や車両メーカーを中心にエントリーシートを書きました。鉄道会社を受ける際も車両系統の業種を志望していました。

同じ車両系統の業種でも、より車両自体の設計に携われるのが「車両メーカー」で、間近に“ものづくり”を感じられるのが魅力です。
仕様書やご要望などの文字をカタチにして車両としてまとめ上げる、そんなイメージでしょうか。その方が私のやりたいことに近く、日本車両に就職を決めました。

一方、鉄道会社における車両設計という仕事は「どの線区にどのような車両を投入し会社施策を推進していくのか。そのためにはどういう車両をつくるのか」という、仕様決定を行うカラーが強くなると思います。

――違いが良く分かりました。学生時代にしておけばよかったなと思うことは?

松井 学生時代は鉄道工学系の研究室に在籍していたこともあり、営業車両データの分析や活用など、鉄道会社との共同研究に携わっていました。
そのせいか、今思うと少々ストイックに研究に打ち込みすぎたかなという自覚もあって……(笑)

多くの人と一緒に何かを楽しんだり、作り上げたり、遊ぶということをもう少し経験しておいてもよかったかなとは思います。
会社に入ると、自分だけでなく周囲の協力を得て物事を進めるということが多いので、「コミュニケーション」をしっかりと学生時代に経験しておきたかったかなと感じました。

「設計」という仕事も、当初は研究のように黙々と一人で行うようなイメージがあったのですが、「こんなにも大勢の人と関わるんだ!」という予想外の驚きがありまして、そう感じたのかもしれません。

――就活で大変だったことはありますか?

松井 理系学生の就職では、大学の研究室単位で推薦枠があることも多いですよね。ただ、自身の大学向けには日本車両の推薦枠がなく、自由応募での就活となりました。
研究室内の同期が徐々に就職先を決めていく中で焦りも感じましたが、焦ってもしょうがないので、自分の将来なりたい姿をしっかりとイメージし、頭の中を整理しなおしました。そして、この業界にかける「思い」を真摯に面接でしっかりと伝えるようにしました。

学生の方へのメッセージ

――就職活動をしている学生の方へメッセージをお願いします

松井 学生のみなさんは日々の勉学で忙しいと思いますが、ぜひ長期的な視点に立って、自身が目指す将来の姿を整理してほしいです。そうすると目指す企業や業界が自然と見えてくるので、自身の「就活の軸」が立ちます。しっかりとした「就活の軸」が立つと、ESや面接の言葉にも説得力が出て、いい結果にも繋がりやすくなります。

大変だとは思いますが、がんばってください!

終わりに

松井さんのお話からは、鉄道車両の艤装設計を通じて顧客である事業者の課題解決に貢献し、またその先にいる鉄道の利用者の安全・安心を実現していることに対する誇りが感じられました。

また、インタビューの途中に松井さんが話していた、「自身が携わった車両が走っているのを見かけると、どうしても『何事もなく安全に走っているかな』という心配のような思いも湧いてきますが、やはりとても誇りに思います」という言葉には、技術者としての思いを感じられたのでした。

なお、日本車両には車両製造以外にも様々な部門があります。
鉄道就活応援隊では、日本車両で鉄道事業者向けの各種検修設備の設計を行っている方の記事も公開していますあわせてご覧ください。

今回紹介させていただいた会社

日本車輌製造
日本車輌製造の歴史は古く、設立は1896(明治29)年までさかのぼります。鉄道車両製造のトップメーカーとして日本の鉄道の発展に貢献してきました。

特に新幹線車両は東海道・山陽新幹線はじめ、4000両以上の車両を製造し、新幹線製造両数No.1の実績を誇っています。
鉄道車両のみならず、各種輸送用機器、橋梁、車両検修設備などの製造も手掛け、「インフラストラクチャー創造企業」として進化を続けています。

今回は豊川市の豊川製作所にお邪魔し、取材させていただきました。

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なお日本車両に関してのニュースを知りたい方は
>>直近1年間の交通新聞電子版における「日本車輌製造」検索結果
もご覧ください! この交通新聞電子版のリンクからは、本来は有料となっている記事も無料で閲覧可能です。ぜひご活用ください。

2023年2月取材
撮影・聞き取り:村上悠太
企画・構成:交通新聞社
※記事中の情報は、この記事を公開した当時のものです。
※採用についてではなく記事の内容についてのお問い合わせは、交通新聞社HPからお願いいたします。掲載されている企業・個人へのお問い合わせはご遠慮ください。