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【水素動力車両の開発など】鉄道業界 就活生が気になるプレスリリースまとめ【2023年11月】

鉄道就活応援隊のX(旧Twitter)では、鉄道業界各社のプレスリリースから就活生向けの話題をピックアップして、不定期にお届けしています。

プレスリリースを読むのは単なる情報収集だけではなく

・企業がどういった考えで施策を打っているのか
・自分の目指すことと、その企業の考えに重なるところがあるか

といったことを探るのにも有効です。

今回の記事では、そんなプレスリリースについてのツイートから2023年11月の1ヶ月間をピックアップ。140字の制限があるX(旧Twitter)では伝えきれなかった事象も加えながらお届けします。

なお、日付はプレスリリースの発表日ではなく、鉄道就活応援隊でツイートした日ベースですのでご注意ください。それではどうぞ!


11月1日 JR貨物 JA全農・全農物流と協力し米専用列車「全農号」の定期運行を開始

【こんな人向け】環境にやさしい物流に関心のある人
【解説】貨物鉄道輸送の環境優位性とモーダルシフト
貨物鉄道輸送は、輸送量当たりの二酸化炭素の排出量においてほかの輸送手段と比較して優れています。

また、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働を年間960時間までとされることにより、トラックで運べる荷物の距離や量に制約が出ることが懸念されています。
この「物流の2024年問題」によって、特に中長距離の貨物輸送においてトラック輸送から鉄道を含めた他の輸送手段への転換が盛んに進められています。

今回の米専用列車の運行には

  • 米の産地である東北・新潟・北陸地方から消費地である東海・西日本への安定的な輸送ルートを新たに確保する全農

  • 荷主を開拓したいJR貨物

そのどちらにもメリットがあります。その上で、これまで行った試験運行で前提となる輸送品質の確保などの諸条件をクリアしたことによって、今回の定期運行開始が実現しました。

環境問題への対応、そして「物流2024年問題」への対応として進められているモーダルシフトの実例として注目です。

関連記事 貨物鉄道輸送の現状と課題、「物流の2024年問題」についての解説

11月6日 名古屋鉄道ほか AIを活用した踏切監視システムの運用を開始

【こんな人向け】AIを活用した画像解析に関心のある人
【解説】踏切安全確保の新たな手法
このプレスリリースで発表された踏切監視システムの特徴は以下の通りです。

  • 踏切道を通行する人や車をAIによる画像解析で判別する

  • 踏切内だけでなく、その周辺も含めた監視により、従来は困難であった「事故の予兆」を検知する

今回、名古屋鉄道がグループ会社の名鉄EIエンジニアに加えて、踏切機械などの保安設備を扱う東邦電機工業、さらには異業種のトヨタシステムズと協力して開発した踏切監視システムは、AIによる画像解析を活用し、さらに周辺に至るまでの監視を実現したのが画期的です。

なお、AIによる画像解析を活用すること自体についてはすでに導入実績があり、一部を以下に取りあげます。

①山陽電気鉄道の事例

踏切内を撮影した映像をAIにより画像解析し、列車の接近時に「人」 が検知された場合には乗務員や運転指令に知らせるものです。
オプテージ、K4 Digital、山電情報センターと協力して開発し、実証実験を経て2021年7月より2ヶ所の踏切へ本導入され、2022年度にも新たに2ヶ所の踏切に設置されました(安全報告書2023より)。

山陽電車-「「人特化型踏切障害物検知システム」を導入します ~AI時代の安全性を踏切に~」(2021年6月29日)

②西武鉄道の事例

こちらも「人」を主な検知対象とした踏切異常検知システムで、低照度カメラで撮影した映像をAIによって画像解析し、列車接近時に人の進入が検知されると、連動した特殊発光信号機で乗務員に知らせるなどの対応を取るものです。
2022年度は5ヶ所の踏切に設置し、2023年度も2ヶ所の踏切に新設予定です(2023年度鉄道事業設備投資計画より)。

こちらの事例については、西武鉄道のWebサイトに担当者のインタビューも掲載されていますので、ぜひ読んでみてください。

11月16日 JR東海 「水素動力車両」の開発を発表

【こんな人向け】鉄道におけるカーボンニュートラル実現に関心のある人
【解説】水素エンジン車、鉄道における初の実用化なるか
JR東海では、ディーゼルエンジンハイブリッドシステムを導入したHC85系を2022年から営業運転に投入しているほか、二酸化炭素の排出量実質ゼロを実現する次世代バイオディーゼル燃料の実用に向けた実証実験を行ってきました。

今回の発表ではそこからさらに踏み込み、走行中の二酸化炭素排出量がほぼゼロとなる「水素動力ハイブリッドシステム」を導入した車両の導入を目指すとしています。車両の開発はグループ会社である日本車輌製造(日本車両)と共同で行うとのことです。

JR東海「カーボンニュートラル実現に向けた「水素動力車両」の開発について」より引用

もっとも、「水素動力車両」として挙げられた2つの方式のうち、燃料電池車については開発に取り組む旨の発表が既になされています。
燃料電池車は水素と酸素の化学反応で発電してモーターを駆動する仕組みであり、海外ではドイツなどで営業運転に投入されているほか、国内においてもJR東日本が試験運行している「HYBARI」の例があります。

一方、水素エンジン車の開発に取り組むというのは、JR東海として今回の発表が初となります。
水素エンジン車は、水素の燃焼反応によりエンジンを駆動し、発電機を回す仕組みです。国内外の鉄道において実用化の例はありません。

自動車の分野ではトヨタ自動車が開発に取り組んでおりレースにも投入しているほか、二輪車のメーカー4社が共同で水素エンジンの共同研究を行うなどと発表していますが、燃料となる水素の供給や積載などの課題が残されています。

JR東海における水素エンジン車の模擬走行試験は、2024年度以降に愛知県小牧市の実験施設で行われるとのことで、今後に注目です。

関連記事① カーボンニュートラルを含めた環境問題への対応と、鉄道の関係

関連記事② 日本車両でハイブリッドシステムの技術開発に携わり、HC85系の設計にも関わった方への取材記事

11月21日 JR西日本・JR貨物ほか 姫路エリアを起点とした水素輸送・利活用などに関する協業に合意

【こんな人向け】鉄道におけるカーボンニュートラル実現に関心のある人
【解説】水素の利活用に関する異業種協力
JR西日本、JR貨物のほかに関西電力など合計6社によって形成されたこの基本合意は、兵庫県の姫路エリアにあるインフラを活用して2030年代を目途に安価で効率的な水素供給網を確立することをめざした検討を行うものです。

JR西日本は線路敷パイプライフの検討と水素の利活用の検討、JR貨物では鉄道による水素輸送などを担います。

なおJR西日本は、姫路エリアでの水素利活用について、兵庫県の産官学連携組織である「播磨臨海地域カーボンニュートラルポート推進協議会」に参画しており、2023年4月の段階で「水素を利用した燃料電池車の開発に取り組む」と発表しています。

関連記事は、先ほどのJR東海のプレスリリースで取りあげたものを参照してください。

11月28日 Osaka Metro サポートや見守りが必要なお客さまの検知にAIを活用する実証実験が第2期へ

【こんな人向け】AIの画像解析活用に関心のある人
【解説】AIを活用し、鉄道の安全・サービス向上につなげる動き

先ほど紹介したのは踏切監視システムへの活用でしたが、こちらは白杖または車いすを利用している乗客をAIの画像解析により検知し、駅員に知らせることでサポートや見守りにつなげるものです。

今回の実験はいわば「第2期」で、第1期は2021年11月にスタートしています。 実際に検知した際の様子は、Osaka Metroの公式Webサイトで分かりやすい動画が公開されています。

AIによる画像解析を鉄道に導入する動きは相次いでおり、今回紹介した「人を検知するもの」に加えて、メンテナンスの現場において「施設の状態を確認するもの」としても活用されています。要チェックです!

11月30日 JR東海 新幹線用地の一部を活用した太陽光発電システムの導入を発表

【こんな人向け】鉄道におけるカーボンニュートラル実現に関心のある人
【解説】再生エネルギー活用の取り組み
「のり面」とは、盛り土や切通しを作る際に人工的に形成された斜面のことを指します。
今回の発表では、新横浜~名古屋間の「のり面」の一部、太陽光発電システムの設置に適した総延長約3.5kmの区間を利用するとしており、最寄りの駅で消費される電力の一部を再生可能エネルギーとすることを目指しています。

東海道新幹線は総延長の過半が盛り土または切通しの区間ということもあり、今後のさらなる活用が期待されます。

終わりに・関連リンク

11月のプレスリリースまとめは以上になります。
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VSEの整備も担当した小田急エンジニアリング車両部の方へのインタビュー記事や、第8回鉄道技術展のレポートなどです。
お見逃しなく!

前回(10月)のプレスリリースまとめはこちら

JR各社の内定者数などについて取りあげています。

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