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【成り立ち、事業構造、給与……】何が違うの? JRと私鉄【就活】

突然ですが、あなたはJRと私鉄の違いを説明できるでしょうか?
なんとなくは理解していても、具体的に説明できる自信がある方はそこまで多くないはずです。

そんなあなたも大丈夫! この記事を最後まで読めば、成り立ちや事業構造といったJRと私鉄の違いにとどまらず、会社選びのポイントなども分かります。

今まで「なんとなく」だった印象の違いをしっかりとした理解に変えて、自信をもって会社選びができるようになりましょう!
それではどうぞ!


JRと私鉄の違い① 歴史的経緯

そもそもJRとは何なのか、というところからお話が始まります。

JR=国鉄が前身の鉄道会社

就活生のみなさんは生まれる前の話なのでご存じでない方も多いとは思いますが、JRの前身は、1987年3月まで存在した日本国有鉄道(国鉄)という公共企業体です。

国鉄は全国に路線網を持っていましたが、巨大な債務を抱えたことなど複数の原因から1987年4月1日に分割民営化され、人を運ぶ旅客鉄道事業は地域別にJR北海道・JR東日本・JR東海・JR西日本・JR四国・JR九州の旅客6社に、貨物を運ぶ貨物鉄道事業はJR貨物に継承されました。
この7社を総称して、JR(JRグループとも)と呼んでいます。

JR以外=私鉄?

一方、私鉄の定義には多少の揺れがあります。

狭義の私鉄は民間企業により運営される鉄道を指します。会社の数としてはJRと比べて圧倒的に多く、日本民営鉄道協会には72社(公式HPより・2022年10月現在)が登録しています。

広義の私鉄は、地方自治体が運営する「公営鉄道」「第三セクター」と呼ばれる方式で設立された企業が運営する鉄道路線も含みます。
第三セクターについての詳しい説明はここでは避けますが、国や地方自治体と民間企業が共同出資して設立された企業のことを指し、主に地方のローカル線などでよく見られる形態です。

これらの区別については、日本民営鉄道協会のWebサイトにある定義も分かりやすいのでぜひ参照してみてください。なお、この記事ではこれ以降「私鉄」という言葉を「狭義の私鉄」として取りあげます。

JRも今や民間企業だけれど……

ところで、ここまで読んで「おや?」と思った方もいるかもしれません。
JRも今は民間企業なのですから、私鉄と区別することはできないはずです。特にJR東日本・JR東海・JR西日本・JR九州は今や完全民営化を達成している純粋な「民間企業」。
定義上、私鉄と厳密に区別することは不可能ともいえます。

しかしその歴史的経緯から、今でもJRと私鉄とは様々な場面で区別されるのが一般的です。そして、ここから先に紹介する「JRと私鉄の違い」は、ほぼすべてその歴史的経緯に原因があると言っても過言ではありませんので、しっかりと意識しておいてください。

ここからは、JRと私鉄各社の間にどのような違いがあるかを実際に解説していきます。

JRと私鉄の違い② 営業エリア

基本的には、JRの方が営業エリアが広いです。JRは県境をまたぐ路線網を持ち、比較的距離のある都市間輸送を担っています。
都市間輸送の究極の形ともいえる新幹線も、JRだけが保有しています。
JR旅客6社の中では最も短いJR四国でも営業キロにして853.7kmの路線長があり、JR東日本に至っては7,000kmを超える路線を保有しています。

一方、私鉄はJRと比べて路線が短く、都市輸送や、比較的近距離の都市間輸送を担っています。
日本の私鉄では最も保有路線長の長い近鉄でも営業キロにして501.1kmですから、保有路線長の差は歴然としたものです。

この違いから就活生のみなさんに特に注目してほしい会社選びのポイントは

  • 勤務地

  • 鉄道事業の収益性

です。

勤務地

鉄道会社に就職した場合、基本的にはその沿線の地域に勤務することになります。そうなると、路線網が広大なJRに就職すれば、その分だけ配属になる可能性のあるエリアは広がります。配属後の異動先もまた同様です。

ただしこれは鉄道事業に限った話で、たとえば私鉄のグループ会社が運営しているホテルは全国展開されていることもありますし、逆に営業エリアが広い会社でも採用形態によってエリアを限定した配属になる場合もあります。

会社選びの際、勤務地に関しては募集情報をよく確認しましょう。

鉄道事業の収益性

営業エリアは広ければいいというわけではなく、その沿線がどれほどの人口密度か、そしてどれだけの人に利用してもらえるかが大事です。

特に、鉄道事業はとにかく「施設の維持に費用のかかる事業」です。線路などの施設をすべて自前で維持する必要がある鉄道事業では、同じ運輸業の中でもバス事業などと比べると運行距離に対してかかるコストが重く、そのため沿線の人口密度が収益性に直結します。

この弱点も、人口密度が高く鉄道を利用する人が多い都市部を中心に路線を持つ大手私鉄(特に大手私鉄)ではまだ問題になりづらいです。

ところが、人口が少ない地方に路線を持つ中小私鉄やJRにとっては大変重要な問題となります。
利用者の少ないローカル線で生まれた赤字を、JRでは「新幹線や大都市圏の輸送で挙げた収益で補填する」、中小私鉄では「鉄道以外の事業で補填する」という構図が長く続いています。

たとえばJR東日本は線区別収支を公開していますが、これを見ると分かる通り地方には収支が赤字の路線が数多くあるのです。JR東日本では、首都圏や新幹線の輸送で生み出した利益でこの赤字をカバーしてきました。

これは私鉄とJRというより、都市部の大手私鉄と地方に路線を抱える中小私鉄およびJRの違いになるわけですが、鉄道事業単独で見た場合の収益性について

大手私鉄・JRの都市圏>中小私鉄・JRのローカル線

となってしまうのは鉄道という事業の構造上、仕方のないことでもあるのです。

とにかく、就活生のみなさんは営業エリアがどこなのか、というのは鉄道事業の収益性を測るうえで大変重要になる、という点を押さえておきましょう。

地方路線の維持のための工夫

とはいえ鉄道は公共交通機関であるため、収益性が悪ければ即廃止、とはいきません。

観光需要の掘り起こしといった利用促進の他にも、先ほど取りあげた「施設の維持に費用のかかる事業」という鉄道事業の弱点を克服するために様々な工夫がなされています。

その一つが、鉄道施設の維持にかかる費用から鉄道事業者を分離する上下分離方式の導入です。詳しくは以下の記事をご覧ください。

JRと私鉄の違い③ 事業構造

JR→鉄道中心 私鉄→幅広く

ざっくり言えば、このような違いになります。

これはJRの前身である国鉄が「本業」である運輸事業以外の事業に進出するのに厳しい制限があったことに由来しています。

国鉄は国の関与が深い公共企業体であり「運輸事業以外に手を出すのは民業圧迫になりかねない」という理由から、不動産事業や流通事業といった関連事業にはほとんど進出できませんでした。

1987年4月の分割民営化後でその枷から解き放たれたJRはさっそく運輸事業以外の領域に乗り出しましたが、歴史で言えば多角化は私鉄の方がはるかに先行しています。
結果、最初に挙げたような傾向がいまだに続いているわけです。

例として、JRからJR東海、私鉄からは東急を挙げて比較してみます。セグメントごとの割合を比較する視点で捉えてください。

比べてみると一目瞭然ですが、JR東海は運輸業(その中でも鉄道、特に新幹線)の占める割合が圧倒的に高い「鉄道偏重型」に見えます。
ただし、ここまで極端に差が出る原因は「鉄道事業以外の売上高が少ない」というよりは「東海道新幹線の売上高が圧倒的に多い」ことにあるので、捉え方の問題ともいえます。

一方、東急では生活サービス事業(東急百貨店や東急ストアといった小売業など)の占める割合が高くなっており、そのほかの事業も一定の割合を占める「バランス型」となっています。
これについても、「鉄道事業の売上高が乏しい」わけではなく、「鉄道事業以外も売上高が多い」といった捉え方が正しいです。

なお、この2社について詳しく内訳や強みを見ていきたい方は以下のリンクからご覧ください!

もちろんJRの中でも、JR九州のように、売上高のうち鉄道事業が占める割合の低い「バランス型」の会社もあります。
「JR=鉄道中心・私鉄=幅広く」という構図はあくまでざっくりとした傾向です。個別の企業に関しては実態をしっかりと調べておきましょう。

鉄道に関わる仕事にこだわるなら鉄道会社以外の選択肢も

事業構造が鉄道偏重型の会社なら、あなたが入社した後にも鉄道に関わる仕事に就く確率が高いですし、バランス型ならその逆です。

もしあなたが鉄道に関わる仕事にこだわるなら、鉄道会社ではなく、鉄道会社から業務を受託しているグループ会社に就職するという選択肢もあります。

たとえば、鉄道就活応援隊でも紹介している東海交通事業はJR東海グループの企業で、JR東海からJR東海管内の駅管理業務などを受託しています。

自分が志望する会社の事業構造は良く調べて、自分が担当する可能性がある仕事にはどのようなものがあるか、しっかり確認しておくことが大事です。

会社の事業構造については、会社説明会の資料や、上場企業ならWebサイトにある決算短信で知ることができます。
また以下のリンクからは、実際に鉄道業界の数社の決算短信を分析し、強みなどを明らかにした記事が読めます。ぜひ読んで参考にしてください!

JRと私鉄の違い④ 給与

これについては就活生のみなさんもかなり気になるところかと思いますが、「会社の規模にもよる」というのが実際です。JRの間でも違いがあり、また私鉄各社の間でも違いがあります。

相次ぐ初任給・基本給の引上げ

就活生のみなさんにとっては良いことに、鉄道業界では初任給や基本給の引上げに関するニュースが相次いでいます。

直近では、2023年3月の社長会見でJR九州が2024年度から大卒の初任給を182,200円から212,200円に引上げ、あわせて基本給も引上げると発表。
関東の大手私鉄、小田急電鉄も2023年度新卒入社者の初任給を大卒総合職で236,660円に引上げました。
他のJR・私鉄各社も続々と初任給や基本給の引上げを発表しています。

鉄道業界としてはコロナ禍で減少した利用者数が戻り切らない厳しい状況下ではありますが、少子化の進む中で人材確保へ危機感を募らせていることや、物価高への対応から給与の引上げに踏み切っています。

就活生の気になる平均年収について

上場企業の場合は、法律で公開が義務付けられている有価証券報告書に平均年収が記載されています。
例えばJR東日本の場合は以下のリンクから確認ができ、2022年度の有価証券報告書によると6,393,202円と記載されています(賞与・基準外賃金を含む。以下同じ)。

なお、よく比較される本州3社を並べると、
JR東日本:6,393,202円
JR東海:6,871,006円2022年3月期有価証券報告書より)
JR西日本:5,667,009円2022年3月期有価証券報告書より)
となります。

一方、非上場企業のほとんどには有価証券報告書の公示義務がなく、また就職サイトにも企業ごとの平均年収は掲載されていない場合が多いです。
しかし、そんな場合にも平均年収を知る手段はあります。

それは国土交通省のWebサイトで公開されている鉄道統計年報です。

上記のページから最新のデータである「令和2年度」をクリックし、その先にある「(18) 職員数及び年間給与額表」をクリックすると、Excelで開くことのできるxlsx形式のファイルがダウンロードできます。

ファイルを開くと、会社ごとに1人あたり・1か月あたりの平均給与が、基準賃金・基準外賃金・臨時給与の3種類で分かります。これらの3つを足して12をかければ、おおよその平均年収が分かるというわけです。

【用語解説】
有価証券報告書
…業績や設備など企業の内容をまとめた資料。上場企業をはじめとした一部の企業は、有価証券報告書を事業年度ごとに作成することや外部へ開示することが金融商品取引法により義務付けられている。
基準賃金…所定労働時間を勤務した際に必ず一定額が支給される賃金。基本給や役職手当など
基準外賃金…時間外労働などによって支給額が変動する賃金。時間外労働手当など
臨時給与…月や週などの決まった期間で支給される賃金とは別に、一時的・突発的な理由で支払われる賃金。いわゆるボーナスなど

令和2(2020)年度の鉄道統計年報から1人1年の平均給与を計算し、一万円未満を四捨五入すると、本州3社では以下の通りになります。

JR東日本:585万円
JR東海:732万円
JR西日本:594万円

なお、貨物も含めたJR平均では601万円となります。

大手私鉄ではどうでしょうか。同様に1人1年の平均給与を計算し、高い方から5社並べてみると、

阪急電鉄:769万円
東京地下鉄:720万円
東急電鉄:716万円
相模鉄道:710万円
京王電鉄:688万円

と続きます。ちなみに、大手私鉄の平均は656万円中小私鉄の平均は513万円です。

鉄道統計年報で見る限りは、平均給与は大手私鉄>JR>中小私鉄となります。
大手私鉄の平均給与が高い傾向にあるのは、路線を多く持っている都市部は鉄道事業の収益性が高く、また地方に比較して他社の給与も高く対抗する必要があるためと考えられます。

このほか、たとえば「自分は電気系統の技術職に進みたいけれど、技術職の中でもどの程度の割合が電気系統なのだろう」ということを知りたい場合、会社説明会で質問してもいいのですが、鉄道統計年報でも調べられます。

鉄道統計年報の「(18) 職員数及び年間給与額表」では、本社部門と現業部門の人数比や、現業部門の構成比(運輸・工務・電気・車両・建設に分かれる)も分かるためです。

給与以外にも様々な情報が詰まっていますので、一度は見ることをおススメします。

まとめ

なお、ここまでJRと私鉄の違いに関して説明してきましたが、実際に会社を選ぶ際に大事なのは

  • JRと私鉄の違いだけではなく、会社ごとの事業構造や強みといった違いを理解すること

  • 給与だけでなく、会社の目指す方向性や希望する仕事ができる可能性、勤務地といった様々なポイントを比較検討すること

です。鉄道に関わる会社の事業構造や強みを分析する記事は、以下のリンクからどうぞ!

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※2023年6月1日 タイトル画像と一部画像を修正しました。
※2024年2月13日 一部画像を修正しました。
※2024年2月21日 画像の修正に合わせ、一部のテキストを修正しました。

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