【就活生向け 鉄道ひとくち解説その19】貨物鉄道輸送と「物流の2024年問題」
みなさんは「物流の2024年問題」について聞いたことはありますか?
実は、この「物流の2024年問題」を乗り越えるにあたり、注目されているのが貨物鉄道輸送です。また、貨物鉄道輸送は環境にやさしい輸送手段としても再評価されており、いま脚光を浴びています。
政府としても、地球温暖化対策計画などにおいて、貨物鉄道輸送の取扱量増加について具体的な数値目標を示しているところです。
しかしみなさんにとっては、乗客を乗せて走る旅客列車と比較すると貨物列車はなじみが薄いかもしれません。乗ることはできず、また深夜に運転されることも多いため、目にする機会が少ないからです。
そこで、今回は「物流の2024年問題」の概要や、いま注目を浴びる貨物鉄道輸送との関係を取りあげます。
就活生も必須の知識「物流の2024年問題」とは
「物流の2024年問題」とは、2024年4月1日から、時間外労働の上限規制(年960時間)が自動車運転業務にも適用されるようになることによって発生する諸問題を指します。
具体的には、トラックドライバーの総労働時間が短縮されることで一度に運べる距離が短くなったり、輸送できる荷物の総量が減少したりすることが想定されています。
下の図に示すように、日本国内の貨物輸送においてはトラックが営業用・自家用を合わせて9割超と非常に高い分担率となっているため、物流業界に与える影響が懸念されています。
これにより、既存の輸送効率化に留まらず、代替の手段、とりわけ中長距離帯においては貨物鉄道輸送に注目が集まっているというのが現状です。
貨物鉄道輸送の長所
貨物鉄道輸送は、名前の通り鉄道を利用する貨物輸送です。輸送形態としてはコンテナを利用するコンテナ輸送とそれ以外の車扱輸送の2つに分かれ、近年は特にコンテナ輸送が中心となっています。
実施主体は大きく分けて3種類があり、旅客各社(JR東日本やJR東海など)に線路利用料を支払って線路を利用する形で貨物列車を運行する形態が主であるJR貨物のほか、京葉臨海鉄道など自社が所有する線路での貨物輸送を主とする臨海鉄道各社、旅客収入に匹敵する貨物収入を誇る秩父鉄道などの私鉄各社があります。
そんな貨物鉄道輸送ですが、トラックなどと比較して以下のような長所があるとされています。
環境優位性
国土交通省が公開している資料によると、貨物輸送における輸送量当たりの二酸化炭素の排出量は、輸送手段ごとに以下の通りです。
旅客輸送同様、貨物輸送においても鉄道は輸送量当たりの二酸化炭素の排出量が最も少ない輸送手段となっており、環境優位性がよく分かることと思います。
理由としては旅客輸送と同様、大量輸送が可能なことが大きく、たとえばコンテナ輸送では最大でコンテナ車を26両連結した列車を運転しており、主力である12フィートコンテナを130個も積載できます。この場合、10トントラック換算で65台分の荷物を一度に輸送できることになります。
この輸送効率は、環境問題以外にもドライバーの労働力不足対策としても効果的なものです。
また、貨物鉄道輸送の利用が増えれば幹線道路における道路渋滞の改善にも繋がるため、道路を通行する自動車が温室効果ガス排出量削減にも間接的に貢献することになります。
貨物鉄道輸送が優位な場面
運ぶ品目によっては、特に貨物鉄道輸送が優位なものがあります。その一つが危険品輸送です。
たとえば内陸県への石油輸送においては、製油所や港から距離があること、一部の道路で危険品の通行制限区間があること、といった理由により、安全面で信頼性の高い貨物鉄道輸送が特性を発揮しており、群馬県や長野県、栃木県などで高いシェアを占めています。
そのほか、北海道から本州への農産物輸送などでも貨物鉄道輸送は旺盛な需要を支えています。
貨物鉄道輸送の直面する課題
ここまで、貨物鉄道輸送が2024年問題への対応としての代替輸送手段として、また環境優位性などを備えた輸送手段として優れていることを解説してきました。
国内の各企業も自社の扱う原料や商品の輸送における温室効果ガス削減に積極的になる中、貨物鉄道輸送の長所が発揮される場面は多いはずです。
しかしながら、全体で見ると国内の貨物輸送において鉄道の担っている割合はいまだ低いのが現状です。
2019年度の国内貨物輸送における各交通輸送手段ごとの分担率では、トラックが91.9%、内航海運が7.2%に対して鉄道がわずか0.9%(航空は0.02%)となっています。
貨物鉄道輸送が得意としている長距離帯においても、900km以上でトラックに対して約半分のシェアに留まるのが現状です。
いったいなぜなのでしょうか。
国土交通省の設置した有識者検討会では、貨物鉄道輸送のシェアが低い原因として、以下のような課題を抱えていることが示されています。
旅客列車と同じ線路を利用するために生じるダイヤ上の制約
駅から駅への輸送しかできない性質上、トラックとの積み替えが不可避
トラックなど他の輸送手段の連携が限定的
災害発生時に長期にわたり途絶する等の脆弱性への懸念
1.については、JR貨物だけが線路を自由に使える区間はごく一部に限られていることが原因です。同じ線路を走る旅客列車や、深夜帯に列車を止めて行う保線作業時間との兼ね合いがあります。これにより、荷主の希望する時間帯や頻度に応えられるだけのダイヤ設定が難しいケースが生じています。
2.については鉄道輸送の性質上仕方のないものですが、3.については改善の余地があります。たとえば、トラックで鉄道コンテナを配送するには、コンテナを固定するための専用の装置を備えたトラックが必要であり、集配に使うトラックの供給力が不足してボトルネックとなっている現状があるとされています。
また、鉄道におけるコンテナ輸送は、従来12ftコンテナが中心でした。一方で10tトラックと同等の内容積である31ftコンテナや国際海上コンテナ(40ftコンテナ)を使用した輸送、低温・定温輸送への対応は限定的となっています。
4.については、近年激甚化する災害によって運休本数が増加傾向にあることが指摘されています(今後の鉄道物流のあり方に関する検討会 説明資料より)。
JR貨物の対応策
こうした課題に対して、貨物鉄道輸送の大手、JR貨物においては
ダイヤ設定の工夫(旅客会社と調整しながら、荷主にとって使いやすいダイヤの設定を目指す)
一部でトラック輸送も活用した高頻度の輸送の展開(オフレールステーションの活用など)
効率的な積卸作業が可能なE&Sタイプの貨物駅を増やすことによるリードタイムの短縮
10トントラックの輸送量に相当する31フィートコンテナの配備(荷主の負担軽減)
といった対策を進めてきたほか、代行輸送力強化に向けた内航船の共同発注や、新たな荷主の開拓に向けた実証実験といった新たな取り組みを積極的に実行しています。
ダイヤ設定やE&Sタイプの貨物駅の増加などの施策については以下の記事・プレスリリースもご覧ください。
しかし、線路を旅客会社と共用している以上、貨物鉄道輸送の改善についてJR貨物単独での改善が困難な事象もあります。
今後は、国を含めた様々な関係者を巻き込むことで貨物鉄道輸送の利便性向上と利用促進が実現され、「物流の2024年問題」を乗り越える一助となることが期待されます。
まとめ
関係する会社・記事
JR貨物の輸送サービス向上への取り組みについて取りあげた記事
鉄道用貨物コンテナを設計する、総合車両製作所和歌山事業所の社員の方にインタビューした記事
また、ここまでに取りあげたJR貨物、総合車両製作所、臨海鉄道各社や私鉄各社のほかにも、貨物鉄道輸送にかかわる会社は多く存在します。
JR貨物などの輸送会社と荷主の間に立って輸送のコーディネートを行う鉄道利用運送事業者もそうです。かつては通運事業者と呼ばれ、業界最大手の日本通運などがそうですが、「○○通運」という社名になっている事業者の多くはこの鉄道利用運送事業者にあたります。
貨物鉄道輸送にはこうして数多くの会社が関係しています。就活生のみなさんもぜひ調べてみてください!
おわりに
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