「貨物鉄道輸送150年、その先へ」JR貨物 貨物列車ダイヤの特徴と輸送サービス向上への取り組み
突然ですが、あなたは「日本で1日にどれだけの貨物列車が運行されているか」知っていますか?
日本における貨物鉄道輸送の最大手、JR貨物は1日に400本以上の貨物列車を運行し、様々な品目を運んでいます。
ただ貨物列車は深夜に運行されることも多く、また鉄道輸送はレールの上でのみ提供される特性上、消費者の家に直接届けることができません。
そのため、トラック輸送などに比べると、学生のみなさんがその存在を意識する機会は少ないかもしれません。
しかし貨物鉄道輸送は、トラック輸送や内航海運、航空輸送といった他の様々な輸送手段とある場面では競合、ある場面では連携しながら、今日も日本の物流を支えています。
特に近年では、トラック輸送に対する環境優位性や、2024年問題といった社会課題の面からも注目されています。
そこで今回は、そんな貨物鉄道輸送の果たす役割の大きさが垣間見えるダイヤや、その輸送サービスを支えるダイヤ設定担当者の工夫、そして現在も進行する輸送サービス向上の取り組みについて取りあげます。
前回同様、情報誌『JRガゼット』2023年6月号に掲載された記事の中から、JR貨物の鉄道ロジスティクス本部 運輸部 輸送グループ グループリーダー(当時) 八木克敏さん執筆の記事を一部編集・転載して、2023年に150周年を迎えた貨物鉄道輸送のダイヤの特徴や、今後を見据えた近年の取り組みをご紹介します。
はじめに
当社、JR貨物は全国規模で貨物鉄道輸送を行っており、1日に400本以上の貨物列車を運行し、北海道から九州まで各地を結んでいます。
主力であるコンテナ輸送と、内陸地域のライフラインを担う石油列車をはじめとする車扱輸送を取り扱い、トラックや内航海運などの輸送モードに比べて環境負荷が少ないことから、2050年カーボンニュートラルの達成に向けてさらなる役割を担うことが期待されています。
貨物鉄道輸送は元来、大量・長距離輸送を得意としてきましたが、物流を取り巻く環境が著しく変化する昨今、多様化するお客様のニーズに応えるため、ダイヤ改正などを通じて商品力向上に努めています。
近年は、新型コロナウイルスや世界的な半導体不足に伴う工業製品の生産活動停滞、さらに原材料価格高騰、物価上昇による消費低迷などの影響により、大変厳しい輸送実績が続いています。
その一方で、後述する「物流の2024年問題」を控え、貨物鉄道が果たすべき役割は大きいです。
本稿では、貨物列車全体の8割以上を占めるコンテナ列車について、ダイヤの特徴や近年のダイヤ改正などについて紹介します。
貨物列車ダイヤの特徴について
旅客列車が不特定多数のお客様を運んでいるのに対して、貨物列車は基本的に企業間取引、サプライチェーンのなかに位置付けられ、機能しています。そのため生産・流通とマッチした輸送サービスが求められ、その特徴が列車ダイヤによく表れます。
コンテナ輸送の流れとして、おおむね日中時間帯に生産活動が行われ、午後から夕方にかけて工場などへトラックで集貨し、最寄りの貨物駅へ持ち込まれ、夜間に出発する列車へ積載し、翌日早朝から午前中に消費地の貨物駅へ到着、そこからトラックで配達される……というのが典型的なモデルです。
これに対応するため、夜間から早朝にかけて多くのダイヤを設定しています。
とくに主要幹線である東海道線の深夜帯は、最小4〜5分間隔で貨物列車が行き交い、まさに「貨物銀座」の様相を呈しています(図1)。
また、旅客列車に比べて走行距離が長いものが多く、最長で札幌貨物ターミナルから福岡貨物ターミナルまでの約2100km余りを37時間以上かけて走破しており、これは日本最長距離を走る列車です。
列車体系として、全国の地域間(関東〜九州・関東〜北海道など)を結ぶ「幹線列車」と、各地域の拠点駅を中心に周辺の中小規模駅とを結ぶ「フィーダー列車」があり、これらを組み合わせて輸送ルートを設定し、全国ネットワークを形成しています。
貨物列車にはブロックトレイン*等の一部を除いて愛称名がなく、列車種別(コンテナ列車は高速貨物列車*A・B・Cのいずれか)と列車番号で管理しているためややわかりにくいですが、コンテナ列車のなかでもさまざまな役割があります。
地域間ごとに運行本数は異なりますが、最も多い関東〜九州間を例にとると、おおむね3つのタイプに分類することができます(図2)。
超特急タイプ…拠点間直行列車(途中無停車)
特急タイプ……超特急タイプに準ずる拠点間速達列車(途中数駅に停車)
急行タイプ……途中の複数都市に停車し幅広いニーズに対応する列車
超特急・特急タイプは速達性にこだわり、積合せ貨物(宅配便など)をはじめ、リードタイムを重視する貨物を念頭に設定しています。
最も需要が高まる夜間、とくに深夜に始発駅を出発するものが多数を占める優等列車です(関東〜九州間では運行していませんが、ブロックトレインもこのカテゴリーに該当します)。
一方、急行タイプについては、夜間に加えて日中時間帯に出発する列車もあり、優等列車を補完しつつ、途中の沿線都市に立ち寄りながら、始終着の地域間だけでなく、途中駅の発着ニーズにも対応しています。
また、旅客列車のような停車パターンの規則性はなく、同じタイプの列車でも途中停車駅はそれぞれ異なります。
なお、各駅停車タイプと言うべき、途中の全貨物駅に停車するようなパターンは、幹線列車には存在しません。
コンテナ列車は(写真1)20両編成(12ftコンテナ換算100個分)以上が大半を占め、東海道・山陽・鹿児島線(東京貨物ターミナル〜福岡貨物ターミナル間)では最長26両編成(12ftコンテナ換算130個分)で運転しています。
そのため列車1本を仕立てるには相応の輸送量が必要となり、多くの需要が集まる主要貨物ターミナル駅相互間であれば複数の列車設定が可能ですが、一方面に対して列車単位のまとまった輸送量が集まりにくい中小規模駅の場合は、フィーダー列車とともに急行タイプの列車を活用して輸送チャンネルを確保し、輸送力の弾力的な運用を行っています。
たとえば、東京貨物ターミナル〜福岡貨物ターミナル間の列車が、途中、神戸貨物ターミナルに停車して積卸作業を行えば、東京〜福岡、東京〜神戸、神戸〜福岡と3区間の輸送ルートが利用可能となり、停車駅が増えるとさらにルート設定の選択肢が広がります。
このように、当該地域間の輸送量や輸送品目の特徴などを考慮しながら、最適なダイヤ設定を心掛けています。
とりわけ途中停車駅をどう定めるかは非常に重要なポイントです。
停車駅を増やせばきめ細かなニーズに対応できる反面、貨物駅の作業時間は、貨車の入換作業やコンテナの積卸作業など、概して30分〜1時間程度を要する場合が多いです。
そのため、停車駅が1つ増えるだけで終着までの所要時間が大幅に延びてしまい、リードタイムの悪化につながります。
このバランスをどう取るかが計画者の腕の見せどころであり、ダイヤ改正ごとに試行錯誤を重ねています。
一方でこの弱点を補うため、駅構内での複雑な入換作業を伴わず、本線から直接コンテナホームへ到着し、コンテナの積卸作業を行って、そのまま本線へ発車することが可能な着発線荷役(E&S)方式の駅(写真2)を段階的に増やしています。
現在、東海道・山陽線をはじめ全国で31駅がこの方式に対応、近年では横浜羽沢駅(2019年11月)、南福井駅(2021年10月)が新たにE&S駅としてリニューアルしました。
単に停車時間の短縮だけでなく、スムーズで効率的な作業が可能となり、発送コンテナの締切時刻繰り下げや到着コンテナの引渡時刻繰り上げといった輸送サービス向上に大きく寄与しています(図3)。
近年のダイヤ改正について
当社では2019〜2023年度の5カ年にわたって「JR貨物グループ中期経営計画
2023」を進めており、本年度はその最終年度です。
その間に新型コロナウイルス感染症拡大など、計画策定時には想定し得なかった社会経済情勢の著変に見舞われましたが、そのなかでも重点戦略のひとつである、貨物鉄道輸送の役割発揮とさらなる収益性向上の実現に向け、ダイヤ改正を通じて商品力アップに取り組みました。
以下、直近3年間の主なトピックスを紹介します。
【2021年3月ダイヤ改正】
福山通運㈱ブロックトレイン(安治川口⇔盛岡貨物ターミナル)運転開始
西濃運輸㈱ブロックトレイン(名古屋貨物ターミナル⇔福岡貨物ターミナル)運転開始
同(東京貨物ターミナル⇔東福山)運転開始〈2021年10月〜〉
【2022年3月ダイヤ改正】
越谷貨物ターミナル⇔大阪・神姫地区間に「フォワーダーズブロックトレイン*」設定
東京貨物ターミナル⇔大阪貨物ターミナル間の輸送力増強
福山通運㈱・西濃運輸㈱ブロックトレイン速達化
南福井駅E&S化に伴う停車列車・輸送力増強
【2023年3月ダイヤ改正】
福山通運㈱ブロックトレイン輸送力増強
フォワーダーズブロックトレイン利便性向上
福岡貨物ターミナル→東京貨物ターミナル間の列車速達化
直近3年間のダイヤ改正は、まさにコロナ禍にあり、それまで経験したことのない需要動向の変化と向き合いながら輸送計画を策定しました。
全国各地で緊急事態宣言やまん延防止等重点措置がたびたび発令され、人流・物流ともに大打撃を受けました。
とくに物流においては、工場の操業停止や生産調整、飲食店の営業縮小やアルコール飲料の提供見合わせ等に伴い、工業製品や紙・パルプ、食料工業品などの輸送品目で需要が低迷しました(グラフ)。
一方で、多くの人々が外出を控え在宅時間が増加した結果、いわゆる巣ごもり需要が急拡大し、宅配便やEC(eコマース)のニーズが旺盛となりました。
コロナ禍以前から宅配便などの積合せ貨物は堅調な需要がありましたが、これをさらに押し上げ、ダイヤ改正施策も積合せ貨物、ブロックトレインに関するトピックスが中心となりました。
物流の2024年問題
2020年春から全世界に災禍をおよぼした新型コロナウイルス感染症は、発生から3年を経て産業構造とサプライチェーンの変化をもたらし、人々の生活・行動様式や企業の生産活動に大きな影響をもたらしていますが、もうひとつ、物流業界は来年に大きな転換期を迎えます。
それが「物流の2024年問題」であり、トラックドライバーに対する新たな労働時間規制が本格的にスタートします。
具体的には、2024年4月から働き方改革関連法の施行により、時間外労働時間の上限が年間960時間までに厳しく規制されます。
わかりやすくたとえると、おおむね500km以上(東京〜大阪間など)は今後運転手1人ではトラックを運転できなくなり、ツーマン運転などの運び方の見直しを迫られます。
500km前後の中距離輸送は現状トラックが大きなシェアを占めていますが、従来からのドライバー不足や高齢化といった問題もあり、このままでは2030年頃には約3割の荷物が運べなくなるとの試算も示されています。
物流を維持する観点からも、お客様に貨物鉄道をよりいっそう活用していただくため、従来の強みである長距離のみならず、関東〜関西間など中距離での利便性を高めるべく、ダイヤ・輸送力の両面から輸送改善を加速していきます(写真3)。
今後の展望
当社の2022年度鉄道事業部門は、リーマンショック(2008年)直後を大幅に上回る赤字を計上する結果となりました。
かつてない厳しい事業環境に置かれていますが、ポストコロナ時代においてお客様に選ばれる輸送モードとして役割を果たし、鉄道事業を安定的に運営できる輸送体系を構築することが急務であり、次なる施策に取り組んでいきます。
次期ダイヤ改正に向けては、2024年問題によるトラックドライバー不足の深刻化が引き起こす物流ニーズの変化と、ポストコロナにおけるサプライチェーンの変革への対応、そして昨年7月に国土交通省より発表された「今後の
鉄道物流のあり方に関する検討会(中間とりまとめ)」に基づいて設定したKGI/KPI目標を踏まえ、積載率向上と輸送量拡大を目指して検討を進めています。
おわりに
昨年は鉄道開業150周年にあたり、各地で話題になりましたが、本年は「貨物鉄道輸送150周年」の節目の年です(写真4)。
貨物鉄道輸送はこの長い歴史のなかでさまざまな進化を遂げてきましたが、鉄道輸送という商品にとって、いつの時代も列車ダイヤは最も重要な要素であり、何よりお客様、関係事業者、そして各旅客鉄道会社との緊密な連携と信頼関係によって築かれています。
今後も関係各社のご理解・ご協力をいただきながら、このピンチをチャンスととらえ、さらに価値あるダイヤづくりに邁進する所存です。
鉄道就活応援隊編集部より
コロナ禍の打撃を受けた貨物鉄道輸送ですが、その中にあっても物流の一部を確実に担っていること、そして変化する需要に応えながら輸送サービスの品質を向上するために、貨物駅などの施設改良と併せ様々なダイヤ設定の工夫を行っているのが分かったことと思います。
これをきっかけに、貨物鉄道輸送の果たしている役割や、その課題、そして秘めている可能性について目を向けてもらえると嬉しく思います。
貨物鉄道輸送の実際については、JR貨物のWebサイトにあるこちらのページもおすすめです。
なお冒頭に記載した通り、今回の記事の内容は、運輸交通業の"今"が分かる専門情報誌、『JRガゼット』2023年6月号に掲載された、JR貨物 鉄道ロジスティクス本部 運輸部 輸送グループ グループリーダー(当時) 八木克敏さんの「貨物列車ダイヤの特徴と輸送サービス向上への取り組み」から内容を一部編集し、転載したものです。
また、貨物鉄道輸送には今回の記事の提供にご協力をいただいたJR貨物はもちろん、そのほかの鉄道事業者や鉄道利用運送事業者、そして貨車やコンテナのメーカーをはじめとした多くの企業が関わっています。
ぜひ、どんな企業があるのか調べてみてください。
この記事が役に立ったと思ったり、他の人にも見てほしいと思ったら「スキ」やSNSでのシェアをお願いします!
「鉄道就活応援隊」のnoteでは、この記事の他にも、専門情報誌『JRガゼット』などに掲載された、鉄道に関わる様々な方が書いた原稿を一部編集した記事をまとめています。ぜひご覧ください!
そして鉄道就活応援隊ではX(旧Twitter)アカウントも運営しています。主な内容は、そのときどきのニュースや過去の記事の紹介などです。noteの更新も通知しているので、あわせて見るとより便利です。
ぜひフォローしてください!