沿線観光のポテンシャルと不動産業が強み【就活生向け・決算短信を読む⑳京阪電気鉄道】
「京阪のる人、おけいはん」
CMや市中の広告でこのフレーズを見かけて、「おけいはんってなんだろう……」という思いを抱いたこと、ありませんか?
この記事では、そんなユニークな広告でも知られる京阪電気鉄道の親会社、京阪ホールディングスの決算短信に掲載されている収益の数字や事業構成などを通じ、京阪電気鉄道の今が分かることを目指します。
そして、鉄道業界各社の決算短信については、こちらのリンクから交通新聞電子版の記事が読めます。JR各社や大手私鉄の決算短信について、有料記事を特別に全文公開です!
リンク先では、鉄道業界の様々な企業の決算短信についても分析がありますので、ぜひご参照ください。
京阪電気鉄道とは
京阪電気鉄道(京阪電鉄・京阪電車)は、京阪グループの中核を担う企業であり、大阪の淀屋橋から京都の三条までを結ぶ本線を中心に、京都・大阪・滋賀の2府1県に総延長91.1km(営業キロ)の路線を持つ鉄軌道事業者です。
京阪電気鉄道が設立されたのは1906年のこと。
1910年に最初の路線を開業した後は、電力事業などの周辺事業に進出したり、琵琶湖エリアに進出したりと事業基盤を拡大させ、徐々に発展していきます。以前阪急阪神ホールディングスの記事で取りあげたように、戦時中には阪急電鉄の前身である阪神急行電鉄と合併、京阪神急行電鉄となりました。
戦後は1949年に京阪神急行電鉄から分離、改めて京阪電気鉄道として再出発すると、さっそく1954年には特急の一部車両にテレビ受像機を取り付けたテレビカーの運行を開始。日本国内でのテレビ本放送は前年に始まったばかりで、画期的な取り組みでした。
鉄道以外の事業では主に沿線の開発に努め、大阪府枚方市で自社初の大規模ニュータウンとなる「くずはローズタウン」の分譲開始(1968年)、商業施設「くずはモール」の開業(1972年)といった不動産業・流通業一体となった開発を進めました。
近年では不動産業において沿線外の地域にも積極的に進出しています。
2016年には京阪ホールディングスを設立して持株会社制に移行し、今に至ります。
営業収益・営業利益・経常利益
まずは基本の数字、ということで京阪電気鉄道の営業収益・営業利益・経常利益について見ていきましょう。
コロナ禍の影響からの回復によって運輸業やレジャー・サービス事業において大幅な増収があり、流通業や不動産業での減収があったもののグループとしては対前期で増収増益を達成しました。
なお、コロナ禍の影響が少なかった2020年3月期と比べると以下の通りです。
営業収益・各利益ともにコロナ禍による落ち込みからは回復途上であることが分かります。
なお、直近で発表された2024年3月期第三四半期の決算短信によると、営業収益・各利益は対前期で増加しており、通期の見通しとしても増収増益を見込んでいます。
【就活生注目】京阪電気鉄道の事業構成
京阪電気鉄道のセグメント別営業収益の割合は以下の通りです。
営業収益については約4割を占める不動産業が最多で、それに次ぐ運輸業も3割を占めています。大手私鉄では一般的なバランス型の構成ではありますが、その中にあって不動産業の占める割合が大きいのが特徴的です。
いままで鉄道就活応援隊で紹介してきた中で比較的近いのはJR九州でしょうか。
ここからはセグメント別に詳細を見てみましょう。
不動産業は、営業収益で見ても、営業利益で見ても最も「稼いでいる」セグメントです。関西圏を中心に首都圏などにおいても不動産開発・販売・賃貸事業などを展開しています。
運輸業も、営業収益・営業利益ともに不動産業に次いで「稼いでいる」セグメントです。鉄道事業やバス事業のほか、「ひらパー」の通称で親しまれる「ひらかたパーク」の運営などを行っています。
流通業では、沿線に京阪百貨店5店舗を展開する百貨店業のほか、小売店、ショッピングモールの経営などを行っています。
レジャー・サービス業ではホテル事業、琵琶湖などでクルーズ船を運航する観光船事業のほか、京都駅前のシンボル「京都タワー」といったレジャー施設の運営などを行っています。
その他のセグメントでは、クレジットカード事業などを行っています。
京阪電気鉄道の鉄道事業の特徴
線形のハンデを乗り越える工夫
京阪本線は、いわゆる「路面電車」に近い規格で開業したこともあり、現在のJR線や阪急京都線と比較すると、カーブが多い線形が特徴です。
市街地を多く経由するためといった事情があったのですが、一方で速達性の面ではハンデともなります。
そこで京阪グループでは、この課題に対して様々な営業努力を行ってきました。
戦前には、沿線への誘客のため香里遊園地(移転を経て現在のひらかたパーク)を開業したり、土地などを寄進して寺院を勧請したりといった施策を実行。沿線の魅力向上というテーマは、後年見られた流通業や不動産業が一体となった沿線開発と共通するものです。
戦後は運賃のみで乗れる特急専用車両の導入、先述したテレビカーの導入を行ったほか、2階建て車両の導入(1995年)、追加料金を支払って座席指定ができる特別車両「プレミアムカー」の連結開始(2017年)といったサービス面の充実に継続して取り組んでいます。
プレミアムカーについてはコロナ禍による落ち込みを除けば導入以来順調に利用者数が増加しており、新たなサービスとして定着しつつあることが分かります。
沿線の観光資源が豊富
世界的な観光地である京都を営業エリアに持つだけに、京阪沿線には数多くの観光資源があります。
京都市内では世界遺産のある東山エリアへ近く、京都駅方面から京阪本線への乗換駅となる東福寺駅や、その先にある伏見稲荷駅はいずれも著名な観光地である東福寺、伏見稲荷駅の間近。
宇治線の沿線には平等院鳳凰堂や宇治上神社といった世界遺産があります。
グループ会社である叡山電鉄を利用すれば、世界遺産の下鴨神社や鞍馬方面、比叡山方面へのアクセスも便利です。
2023年3月に発表された京阪グループ長期経営戦略においても重点施策の一つとして「新たな観光拠点の開発」があげられており、複合文化施設の設置・運営や、東山エリアへの拠点となる三条駅周辺の再開発、グループ所有である京都タワーの再整備などがうたわれています。
JR西日本など他の交通事業者との競合もありますが、コロナ禍の影響から回復傾向を見せるインバウンド需要を取り込むポテンシャルがあるだけに、鉄道利用者の確保において重要なポイントと言えます。
京阪電鉄以外の京阪グループで鉄道に関わる企業
京阪グループには、「嵐電」の愛称で親しまれる嵐山線・北野線を運営する京福電気鉄道、鞍馬方面や比叡山方面へのアクセスを担う叡山電鉄といった鉄軌道事業者があり、いずれも地域輸送と観光地への輸送を担っています。
また、土木、軌道、電気通信設備の保守などを担う京阪エンジニアリングサービスがあります。
詳しくは京阪グループのWebサイトもあわせてご覧ください。
京阪グループとしての強み
堅実な不動産業
京阪電鉄では、先述した「くずはローズタウン」の整備以降も、大型の不動産開発を多く手がけてきました。滋賀県大津市の「びわこローズタウン」や京都府の京田辺市と八幡市にまたがる地域での「京阪東ローズタウン」などです。
バブル崩壊後は土地価格の下落が見られたことから、小規模な開発やマンションの分譲などの短期的に回収できる領域へ移行し、関西圏にとどまらず首都圏においても展開するようになりました。
また、近年では新たな展開も見られます。
京阪本線の淀車庫の拡張用地として保有していた土地がインターチェンジ至近であることに着目して物流施設を整備・開業(2016年)したほか、中期経営計画においては三大都市圏以外の地方中核都市においても開発用地・賃貸物件の取得を推進していくとしています。
長期経営計画における主軸戦略のひとつとして掲げている「沿線再耕」に象徴されるような沿線の開発を進めつつ、それ以外の地域でも積極的な事業展開を行っている不動産業は、今後も京阪グループの大きな収益源となり続けるでしょう。
決算短信から読む京阪電気鉄道の今後
短期的にはコロナ禍の影響が低減することで、運輸業やレジャー・サービス業を中心に増収が見込まれます。
中長期的には、多くの鉄道事業者にとって共通の課題である沿線人口の減少による影響を受けますが、
鉄道事業においてはワンマン運転の導入や、メンテナンスコストの削減につながるCBMの推進といった効率化を進めつつ、インバウンド需要や、大阪・関西万博などの需要を取り込む
収益の柱である不動産業の拡大強化による沿線の魅力向上と、沿線街での収益確保
主にこの2つが京阪グループの今後において重要な点となるでしょう。
まとめ
ちなみに「『おけいはん』は京阪グループのキャラクターです。」とのことでした。
関連リンク
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今後も、鉄道事業者については、売上高の規模の違いなどに留まらず、グループ全体の売上や利益について鉄道事業が占める割合の違いなどに注目して取りあげていきたいと考えています。もちろん鉄道事業者以外の企業についても取りあげる予定ですので、お楽しみに!
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