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株主総会で野球の話? トップクラスのブランド力が強み【就活生向け・決算短信を読む⑩阪急電鉄・阪神電鉄(阪急阪神ホールディングス)】

阪急電鉄・阪神電鉄といった鉄道事業に加え、エンタテインメント事業など多くの事業を抱える阪急阪神ホールディングスの株主総会では、株主からの質問にも特徴があります。阪神タイガースについて、宝塚歌劇団についてなどなど……

今回は、そんな阪急阪神ホールディングス株式会社(以下阪急阪神HD)の2023年3月期決算短信を取りあげます。

この記事では、阪急阪神HDの決算短信に掲載されている収益の数字や事業構成などを通じ、阪急阪神HDの今が分かることを目指します。

そして、鉄道業界各社の四半期決算については、こちらのリンクから交通新聞電子版の記事が読めます。JR各社や大手私鉄についての四半期決算について、有料記事を特別に全文公開です!

>>交通新聞電子版「決算」検索結果

リンク先では、鉄道業界の様々な企業の決算短信についても分析がありますので、ぜひご参照ください。


阪急阪神HDとは

阪急阪神HDは阪急阪神ホールディングスグループを束ねる持株会社です。
その阪急阪神ホールディングスグループは阪急電鉄、阪神電気鉄道、阪急阪神不動産、阪急交通社、阪急阪神エクスプレスの5社を中核とするグループであり、名前の通り阪急系と阪神系の2つの系統に分かれます。

さらに、阪急阪神ホールディングスグループはエイチ・ツー・オー リテイリンググループ(阪急百貨店、阪神百貨店を中心にした百貨店事業を含む小売事業を展開)、東宝グループ(映画の制作・興行・配信などの映像関連事業を展開)などと同じ阪急阪神東宝グループの中核企業です。

この項目では、阪急電鉄と阪神電鉄それぞれの歴史について軽く触れます。

阪急電鉄について

阪急電鉄は大阪の梅田を中心に、神戸、宝塚、京都などを結ぶ路線を持つ大手私鉄であり、そのルーツは、1907年に設立された箕面有馬電気軌道株式会社です。同社は1910年に鉄道の営業を開始、1918年には社名を阪神急行電鉄と改めました。

経営を主導した小林一三は事業の多角化に努め、あらかじめ取得していた沿線の土地を鉄道開業後に分譲したり、1913年には宝塚唱歌隊(宝塚歌劇団の前身)を結成したり、1929年には梅田駅直結の阪急百貨店を開業したりと、鉄道事業との相乗効果を狙った多くの事業を興しました。
また、1932年には東京に進出。東京宝塚劇場を設立し、これが後に東宝となります。

鉄道事業を中心にして不動産、流通、レジャー、ホテルなどと事業を多角化し収益をあげる小林の経営モデルは、他の私鉄各社にも強い影響を与えました。あの東急電鉄も、小林が助言して多角化した事業経営で成功を収めた例です。

その後、戦時中には京阪電鉄と合併を経験し、戦後の1947年に分離。その際に現在の路線網がおおむね完成しました。その後は冷房車の導入などの設備面・サービス面の改善に努め、1973年には社名を阪急電鉄株式会社に変更。
2005年には持株会社制に移行、阪急ホールディングスが設立され、阪急東宝グループの中核企業の一つとなりました。

阪神電鉄について

阪神電鉄は社名の通り、大戸を結ぶ本線を中心とした40.1kmの鉄道路線を持つ大手私鉄の一つです。ルーツは1899年に設立された摂津電気鉄道株式会社で、1905年には神戸と大阪を結ぶ路線を開業。
1924年には甲子園球場(現在の阪神甲子園球場)を開設、1935年にはのちの阪神タイガースとなる球団を設立、その他の賃貸業や小売業などとあわせ、事業の多角化を進めました。住宅開発や路線敷設で阪急と競合する場面も多かったようです。

戦後は1968年の神戸高速鉄道の開業に伴い山陽電鉄との直通運転を開始、1975年には路線を整理し、阪神電鉄単独時代としては路線網が概ね完成しました。

阪急阪神HDの成立

とあるファンドが阪神電鉄の株式を大量に取得したことに端を発した様々な交渉の末、2006年6月には阪神電鉄が阪急ホールディングスの連結子会社になり、同年10月1日には阪急ホールディングスから改称された阪急阪神ホールディングスの完全子会社となりました。

関西の大手私鉄が統合するのは戦後初めてのことでした。

営業収益・営業利益・経常利益

まずは基本の数字、ということで営業収益・営業利益・経常利益について見ていきましょう。

営業収益:9,683億円(対前期29.8%増)
営業利益:894億円(対前期127.9増)
経常利益:884億円(対前期130.0%増)

阪急阪神ホールディングス株式会社「2023年3月期決算短信」より

いずれの数字も対前期で大幅に改善しています。
主要なセグメントをはじめとした多くの事業で回復傾向であったことに加え、旅行事業で自治体からの自宅療養者の支援業務を多く受託したことや、国際輸送事業で上期を中心に需給の逼迫状況が続いたことなどにより、2期連続の増収となりました。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響が比較的軽微だった2020年3月期と比べてみると、以下の通りとなりました。

営業収益は大幅に増加、営業利益・経常利益は減少していますが、他社と比較するとかなり健闘しているといえます。

ただし、先ほども述べたように2023年3月期の収益増は旅行事業・国際輸送事業における一時的な需要増によるところが多かったこともあり、次期の2024年3月期は営業利益・経常利益ともにいずれも対2023年3月期で小幅の減益を見込んでいます。

なお、営業収益などの主要な数値については過去5年の推移および次期の予想については阪急阪神HDのWebサイトにある「財務ハイライト」のページで見ることができるので参考にしてください。

【就活生注目】阪急阪神HDの特徴・事業構成

ここでは、決算短信から読み取れる阪急阪神HDの特徴を探ってみましょう。

まずは事業構成と収益構造からということで、セグメント別の営業収益の割合は以下の通りです。

ルーツである阪急・阪神ともに事業の多角化が進んでいたこともあり、やはりバランス型の収益構造です。なお、百貨店やスーパーといった小売事業は、阪急阪神東宝グループ内でも別グループとなるエイチ・ツー・オー リテイリンググループで計上されるため、阪急阪神ホールディングスグループの数字には入っていません。

不動産事業は、阪急阪神不動産を中核企業に、阪急電車・阪神電車の沿線を中心に首都圏なども含めた地域で不動産開発・賃貸・分譲を手掛けるほか、近年は東南アジアにも進出しています。
営業収益が最多で、利益ベースでも各セグメント最多の27,851百万円を稼ぐ重要なセグメントです。

旅行事業は、国内外の個人・団体・ビジネス旅行の手配を取り扱うほか、旅行業で培ったノウハウを活かしてコールセンター業務の受託なども行っています。

都市交通事業は、阪急電車・阪神電車を中心に、その沿線でバス・タクシー業やエキナカなどの流通事業、交通広告を展開する広告業などを展開しています。

国際輸送事業は、阪急阪神エクスプレスを中心に、ヨーロッパやアフリカも対象にした国際貨物輸送や通関業を展開しています。阪急・阪神ともに戦後早い時期から航空貨物代理店業務を開始しており、実績のある分野です。

エンタテインメント事業では、長い歴史と高い人気を誇る阪神タイガース、高校野球の聖地として名高く2024年には開場100周年を迎える阪神甲子園球場、100年以上の歴史を持つ宝塚歌劇団の経営を中心に据えているほか、眺望の良い六甲山では多彩なレジャー施設を展開しています。

鉄道事業の特徴と強み

鉄道事業については、阪急電鉄と阪神電鉄の2社が同じグループに所属したことにより、並行した区間に性格の異なる2本の路線が存在していることが最大の特徴といえます。

路線網

京都・大阪・兵庫の2府1県に収まるその路線網は、前回紹介した近鉄と比べるとコンパクトで、大阪(梅田・難波)~神戸(三宮)間を結ぶ太い幹を中心に線形に広がっているようなイメージです。

都市交通事業 | グループの事業領域 | 阪急阪神ホールディングス株式会社」より引用

しかし列車の運行形態としては阪神間にとどまらない広がりがあり、阪急電鉄は十三駅で京都本線への乗り換えで京都方面へ、阪神電鉄は山陽電鉄との直通運転で姫路方面へ、近鉄難波線との直通運転で奈良方面へ向かうことができます。

また阪急電鉄と阪神電鉄は大阪~神戸間の輸送において競合していますが、JR神戸線を挟む形で前者は山側、後者は海側に路線を敷設しており、住みわけがなされています。

強み:ブランドとサービス思想

車両の外装についていえば、「阪急電車といえばマルーン色」の印象が特に強く、これは根強い人気と知名度のあるブランドといえるでしょう。一方で阪神といえば特急・急行用は赤系統、普通用は青系統、とこちらもカラーリングに特徴を備えています。

またサービス面においては、阪急電鉄は駅間が長く、どちらかといえば大阪~神戸間の直通利用における利便性を重視してきた傾向がある一方、阪神電鉄は駅間隔も列車の運転間隔も短く、沿線住民の利便性を重視してきた傾向があります。

短い駅間隔でなるべく多くの乗客を拾うという阪神電鉄のサービス思想は運輸収入にも現れており、距離あたりの運輸収入を関西大手私鉄5社で比較すると阪神電鉄がトップに立ちます。なお2位は阪急電鉄です。

関連事業が多く、セグメントごとのバランスが取れている特徴に加えて、こういった「距離当たりの運輸収入が高い」という特徴があるのは、以前紹介した東急電鉄と似ている、といえるかもしれません。

阪急電鉄・阪神電鉄以外の鉄道にかかわる企業

路面電車の製造で著名であり、車両メンテナンス・改造も行うアルナ車両や、阪神電鉄の車両メンテナンス・改造を行う阪神車両メンテナンス、鉄道電気で培った技術を活かし、情報通信事業やエンタテインメント事業にも進出する阪急阪神電気システムなど、多くの企業があります。

また、千里中央~箕面萱野間の延伸を2024年3月23日に控える北大阪急行電鉄も阪急電鉄の子会社です。

詳しくは阪急阪神HDのWebサイトにある「グループ会社一覧」のページもご覧ください。

鉄道事業とそれ以外の事業の関わり

ここまでは、阪急阪神HDグループの中でも鉄道事業に着目して取りあげてきました。ここからは鉄道事業と、それ以外の事業の関わりを挙げます。

不動産事業

先述の通り、阪急電鉄と阪神電鉄はどちらも早い時期から沿線での不動産開発に積極的でした。
沿線での住宅開発やオフィスビルの所有はもちろん、首都圏や海外での事業も展開しています。

また、近年は「大阪梅田エリア」の開発が活発に続いています。決算短信でも触れられていたように、2022年2月には「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」が全体竣工し、4月には阪神百貨店がグランドオープン。

5月に発表された同エリアの価値向上を目指した構想「梅田ビジョン」では、さきほど触れた「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」を含めた梅田1丁目1番地計画に加え、現在進行中のうめきた2期地区開発プロジェクト、芝田1丁目計画もあわせた3つの大型開発事業に触れられています。

阪急阪神HD・阪急阪神不動産「「梅田ビジョン」 を 発表 ― 世界と関西をつなぐ「国際交流拠点」を目指す ―」より引用

阪急電鉄・阪神電鉄ともに始発駅を置く大阪梅田エリア全体の価値を高め、活性化させていこうとする動きには今後も注目です。

レジャー事業

グループ全体に占める営業収益の割合こそ高くありませんが、宝塚歌劇団と阪神タイガースはともに長い歴史と高い知名度を誇っています。

その存在感は大きく、たとえば阪神タイガースが優勝すると阪神百貨店では優勝セールが行われるほか、阪急阪神ホールディングスの株主総会で球団に関する質問が多く出ることもあり、単なる一事業の面を超えて象徴的な存在となっています。

そして本拠地である阪神甲子園球場へのアクセスにはもちろん阪神電車(および阪神バス)が推奨されており、試合開催日の甲子園駅が多くの乗客でにぎわうのは今も昔も変わらない光景です。

決算短信から読む阪急阪神HDの今後

鉄道事業についていえば、まず短期的には他社と同様にコロナ禍で一時的に減少した需要の回復傾向がしばらく続くと思われます。

長期的には、もとから持っている「距離当たりの運輸収入が高い」という強みは今後もプラスに働くでしょう。
一方で、沿線人口の大幅な増加は望めない上に、コロナ禍で減った利用者が完全には戻りきらず、運輸収入は頭打ちになる、というマイナス要因もあります。

グループ全体でいえば、やはり沿線住民への信頼感、そして知名度と人気の高いエンタテインメント事業といったブランド力は大きな強みであり、また不動産部門の手掛ける大阪梅田エリアの活性化は鉄道事業を含めた他事業にとってもプラスの影響が期待されます。

また、大阪梅田エリアには時期が未定であるもののリニア開業や、阪急電鉄が計画する複数の新線構想(実現に向けた動きはいまだ乏しく、ここで詳しく触れることは控えます)もあり、これらの計画の動きもグループ全体の将来に影響を及ぼすと思われます。

関連リンク

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まとめと今後の更新予定

今後も、鉄道事業者については、売上高の規模の違いなどに留まらず、グループ全体の売上や利益について鉄道事業が占める割合の違いなどに注目して取りあげていきたいと考えています。

もちろん鉄道事業者以外の企業についても取りあげる予定ですので、お楽しみに!

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※2024年3月12日 記事タイトルと見出し画像を修正しました。