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高密度・高収益の鉄道事業が強み【就活生向け・決算短信を読む⑮東京地下鉄(東京メトロ)】

この記事では、東京地下鉄(東京メトロ)の決算短信に掲載されている収益の数字や事業構成などを通じ、東京地下鉄の今が分かることを目指します。

そして、鉄道業界各社の決算短信については、こちらのリンクから交通新聞電子版の記事が読めます。JR各社や大手私鉄の決算短信について、有料記事を特別に全文公開です!

>>交通新聞電子版「決算」検索結果

リンク先では、鉄道業界の様々な企業の決算短信についても分析がありますので、ぜひご参照ください。


東京地下鉄(東京メトロ)とは

最新車両である17000系と18000系はサービス設備や搭載機器のレベルアップを積み重ねた点などが評価され、ともにローレル賞を受賞しています。 撮影:交通新聞クリエイト

東京地下鉄は、東京都内およびその周辺に銀座線、丸ノ内線など9本、総延長にして195.0km(営業キロ)の路線を持つ鉄道事業者です。多くの人にとっては、愛称の「東京メトロ」の方が馴染み深いことと思います。

その起源は、1925年に設立された東京地下鉄道株式会社。その東京地下鉄道が始めて路線を開業させたのが、1927年12月30日、現在の銀座線の一部にあたる浅草~上野間でした。

1941年に東京市(当時)およびその周辺の地下鉄建設・運営は、新たに設立された帝都高速度交通営団(以下、営団地下鉄と表記)に集約されることになりました。
この段階で、東京地下鉄道や東京高速鉄道といった事業者が保有していた開業済みの路線や、開業前の路線の免許などがすべて営団地下鉄の管理となりました。

戦後には東京都交通局も地下鉄事業に参入し、分担して地下鉄の建設を加速させていきます。営団地下鉄が設立された段階では銀座線の14.3km(営業キロ・当時)のみであった路線長は、1969年の千代田線北千住~大手町間の開業で100kmを超えました。

その後も次々と路線を建設していった営団地下鉄でしたが、1990年代に入り地下鉄路線の建設計画の完了が見通せるようになると、政府から営団地下鉄を民営化する方針が打ち出されます。

その第一段階として2004年4月1日に特殊会社である東京地下鉄株式会社が設立され、愛称である「東京メトロ」が制定されるなど、現在に至る形ができあがりました。

なお設立にあたって制定された東京地下鉄株式会社法においては

「できる限り速やかにこの法律の廃止、その保有する株式の売却その他の必要な措置を講ずるものとする」

東京地下鉄株式会社法(平成14年法律第188号)(抄) 附則 (この法律の廃止その他の必要な措置) 第二条

とされていますが、現在も東京地下鉄の株式は現在でも国が50%強を、残りを東京都が保有しており、完全民営化の具体的な時期は未定です。

営業収益・営業利益・経常利益

まずは基本の数字、ということで東京地下鉄の営業収益・営業利益・経常利益について見ていきましょう。

営業収益:3,454億円(対前期12.5%増)
営業利益:278億円(―)
経常利益:197億円(―)

東京地下鉄「2023年3月期決算短信(連結)」より

コロナ禍の影響から移動需要が一部回復して旅客運輸収入が増加したことなどにより、対前期で増収増益を達成。
営業利益・経常利益は3期ぶりの黒字となりました。

なお、コロナ禍の影響が少なかった2020年3月期と比べると以下の通りです。

営業収益・各利益ともにいまだに差は大きく、コロナ禍からの回復が途上にあることがわかります。
なお、先日公開された2024年3月期第2四半期決算短信によると、営業収益・各利益ともに2023年3月期の数字を上回っています。
移動需要の回復とともに、コロナ禍前との差は徐々に縮まっていくことでしょう。

【就活生注目】東京地下鉄の特徴・事業構成

ここからは、決算短信から読み取れる東京地下鉄の特徴を探ってみましょう。まずは事業構成と収益構造からということで、セグメント別の営業収益の割合は以下の通りです。

運輸事業と流通・広告事業、不動産事業、その他の区分がありますが、運輸事業の占める割合が圧倒的に高いです
鉄道就活応援隊が決算短信分析シリーズで取りあげてきた中では、JR東海以来の高い割合です。

なお東京地下鉄は一般的な大手私鉄と異なり、バス事業やタクシー事業は営んでいません。そのため、運輸事業=鉄道事業といっていいでしょう。

流通業では駅直結の商業施設「Esola池袋」や駅構内の「Echika」などの商業施設を展開しています。

不動産業では、自社路線の沿線を中心にオフィスビルやホテル(ただし保有のみで、運営は他社が行う)、住宅などを展開しています。

鉄道事業の特徴と強み

特徴:営業エリア

東京の路線図を見るとわかりますが、山手線の内側に乗り入れている鉄道路線は、JR東日本の中央線や京成本線といったいくつかの例外を除き、すべて東京地下鉄(東京メトロ)と東京都交通局の路線です。
また、東京地下鉄(東京メトロ)では銀座線と丸ノ内線を除くすべての路線で、郊外へ向かうJR・私鉄各線と相互直通運転を実施しています。

つまり多くの人にとっては、山手線の外側から内側への移動、そして内側の範囲での移動において、自然と東京地下鉄(東京メトロ)の路線を利用するような形になっているのです。

この特徴が、東京地下鉄の強みにつながっています。

強み:鉄道事業のあげる収益

まずは、以下の表をご覧ください。大手私鉄各社の鉄軌道事業の営業収益を多い順から10社並べたものです。

東京地下鉄(表中では東京メトロ)の営業収益が突出して多いことがわかると思います。
距離あたりの運輸収入を比較しても以下の通りです。

都心部に路線を多く持つために高密度かつ多数の利用があり、それがこの収益につながっているのです。

【要チェック!】鉄道利用の促進

このように大きな収益をあげている鉄道事業ですが、コロナ禍で減少した利用客数が完全には戻っていないということもあり、変更後の中期経営計画「東京メトロプラン2024」では鉄道利用の促進についても述べられています。

  • 沿線施設と提携してお得に利用できる企画乗車券を発売するなどの「目的地と連動した移動価値」

  • 「東京メトロmy!アプリ」を介して、人力車など他の移動手段による観光を予約したり、おでかけ情報の入手ができたりする「他サービスと連携した移動価値」

  • 移動頻度に応じたポイント付与サービス「メトポ」の導入などの「頻度に応じた移動価値」

というのが「顧客体験価値の創出に向けたアクションプラン」の内容です。
これらの施策に対し、何か一つでも自分なりの考えを具体的に持っておくと、面接などで役に立つことでしょう。

なお、直近では沿線施設と連携したデジタル企画乗車券を発売するなどの動きがありました。鉄道就活応援隊のX(旧Twitter)でも紹介していますので、最新情報をキャッチしたい方はぜひフォローしてくださいね!

自動運転について

鉄道就活応援隊でも何度か紹介しているように、東京地下鉄(東京メトロ)丸ノ内線では2024年度のCBTC(無線式列車制御システム)導入に向けた実証実験などが行われているほか、将来的には車掌が列車の先頭に乗務して運転する、GoA2.5に相当する自動運転を実現するとしています。

就活生のみなさんとしては直近の話題として押さえておきたいテーマです。
鉄道における自動運転について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

東京メトログループ内で東京地下鉄以外の鉄道にかかわる企業

東京メトログループには、東京メトロ各線の車両検修などを行うメトロ車両や、建築・土木・保線といった鉄道施設に関わる領域の業務を担うメトロレールファシリティーズ、駅設備の管理を担うメトロステーションファシリティーズ、電気設備の保守管理などを担う地下鉄メインテナンスなど、鉄道に関わる多くの企業があります。

詳しくは東京メトログループWebサイトの企業一覧をご覧ください!

鉄道以外の事業

営業収益のうち多くを鉄道事業の旅客運輸収入が占めている東京地下鉄(東京メトロ)ですが、それ以外の事業と鉄道事業の関わりについても紹介します。

流通事業:好立地の商業施設

東京地下鉄(東京メトロ)の流通事業で象徴的なのが、2005年に表参道駅構内でオープンした「Echika表参道」です。

それまでもターミナル駅では駅構内に売店や専門店が出店する例はありましたが、明るく魅力的な空間に様々な店舗を備えた「Echika表参道」は、ともすれば「暗い」「天井が低い」というマイナスのイメージを持たれることもある地下鉄の駅への印象を大きく変えました。

東京メトログループでは、この「Echika表参道」の開業以降にも、「Echika池袋」や、隣接する商業ビル「Esola池袋」などの商業施設をオープンさせているほか、変更後の中期経営計画「東京メトロプラン2024」では、老朽化が進む東西線高架下のリニューアルも掲げられています。

駅およびその周辺の価値向上に向けた流通事業の取り組みには、鉄道の定期外利用増加への貢献という効果も期待されるため、要注目です。

決算短信から読む東京地下鉄(東京メトロ)の今後

地下鉄各線から得られる多額の旅客運輸収入は、今後にわたって東京地下鉄(東京メトロ)の収益の柱であり続けるでしょう。
路線の大半が都心部にあることから、ただちに利用者数が減少するようなリスクも比較的低いとみられるのもプラス要因です。

しかしその鉄道事業についても、長期的な人口減少による将来的な利用減少や、有楽町線・南北線の延伸に要する建設費(ただし建設費用には公的な補助が入ります)、既設路線のホームドアの整備・耐震工事に要する費用といったマイナス要因がないわけではありません。

また、将来的には完全民営化が予定されています。
現在の東京地下鉄(東京メトロ)においても経営の自由度は既に民間企業と近いレベルではありますが、JR各社のように鉄道以外の様々な事業に進出していくのか、という点には今後も要注目です。

まとめ

関連リンク

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今後も、鉄道事業者については、売上高の規模の違いなどに留まらず、グループ全体の売上や利益について鉄道事業が占める割合の違いなどに注目して取りあげていきたいと考えています。もちろん鉄道事業者以外の企業についても取りあげる予定ですので、お楽しみに!
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