在来線最速のスカイライナーだけではない、その特徴とは【就活生向け・決算短信を読む⑬京成電鉄】
成田空港へのアクセスといわれて、ぱっと浮かぶのは成田エクスプレスかスカイライナー、そしてリムジンバス……といったあたりではないでしょうか。
今回は、そんなスカイライナーを運行する京成電鉄の2023年3月期決算短信を取りあげます。この記事では、京成電鉄の決算短信に掲載されている収益の数字や事業構成などを通じ、京成電鉄の今が分かることを目指します。
そして、鉄道業界各社の決算短信については、こちらのリンクから交通新聞電子版の記事が読めます。JR各社や大手私鉄の決算短信について、有料記事を特別に全文公開です!
リンク先では、鉄道業界の様々な企業の決算短信についても分析がありますので、ぜひご参照ください。
京成電鉄とは
京成電鉄は約120社を数える京成グループの中核企業であり、東京都と千葉県に152.3kmの路線を持つ大手私鉄です。
前身の京成電気軌道が設立されたのは1909年のこと。人口の多い東京と、成田山新勝寺を擁する成田を結ぶという志をもって設立された同社は、1912年に初めて路線を開通させます。
その後1930年には成田まで路線が開業。1933年には都心側の上野への乗り入れも果たし、現在に至る路線網の骨格を完成させました。1945年6月には社名を現在の京成電鉄に変更し、まもなく終戦を迎えます。
戦後は他の私鉄各社と同様に輸送力の増強を進め、1960年に開業した都営浅草線とは日本初となる地下鉄との相互直通運転を実現しました。また並行して事業の多角化を進めており、1960年には京成ストアの一号店が開業、流通事業に参入しています。
1970年代には経営危機に直面しましたが、関連会社の整理や資産の売却、人員の削減といった施策を断行したことや、グループ内のオリエンタルランドが東京ディズニーランドの招致に成功したことなどによって徐々に経営を持ち直します。
1978年には成田空港の開港と同時に初代「スカイライナー」などが乗り入れを始めました。当初は成田空港駅が空港から離れた位置(現在の東成田駅)にありましたが、1991年にターミナルビルに直結した新たな成田空港駅に乗り入れるようになって利便性が大きく向上したことや、成田空港の発着数増加により利用者は増加。
さらに2010年には成田スカイアクセスの開業・AE形(3代目スカイライナー)のデビューで最高160km/hの運転が実現され、今では京成電鉄を代表する存在となっています。
営業収益・営業利益・経常利益
まずは基本の数字、ということで京成電鉄の営業収益・営業利益・経常利益について見ていきましょう。
コロナ禍の影響が弱まったことによる移動需要の回復、また持ち分法適用会社のオリエンタルランドの業績が好調であることなどにより、対前期で増収。営業利益・経常利益は3期ぶりに黒字に転換しました。
では、コロナ禍の影響がまだ少ない2020年3月期の数字と比較してみます。
こうしてみると、営業収益・営業利益・経常利益のいずれもコロナ禍の影響からは回復途上であることがわかります。なお2024年3月期については、各セグメントで引き続き需要の回復傾向が続くことなどにより、増収増益を見込んでいます。
【就活生注目】京成電鉄の特徴・事業構成
ここからは、決算短信から読み取れる京成電鉄の特徴を探ってみましょう。まずは事業構成と収益構造からということで、セグメント別の営業収益の割合は以下の通りです。
すぐにわかる特徴としては、大手私鉄では運輸事業の占める割合が比較的高いことです。
例として前回取りあげた小田急電鉄と比較すると、一目瞭然です。
鉄道やバス、タクシーなどで構成される運輸業の割合がここまで高いのは、大手私鉄というよりはJRに近いバランスと言えます。
不動産業では、都内・千葉県を中心に不動産の賃貸や売買を行う京成不動産などがあります。
運輸業に次ぐ割合を占める流通業は、京成線の沿線を中心にスーパーマーケットなどの事業を展開する京成ストア、水戸市で百貨店を運営するなどしている水戸京成百貨店などがあります。
レジャー・サービス業では東京ディズニーリゾートの経営などを行うオリエンタルランド、筑波山でケーブルカー・ロープウェイを運行する筑波観光鉄道、ホテル事業を展開する京成ホテルなどがあります。
京成電鉄の特徴と強み
強み:成田空港輸送
京成電鉄の最大の強みは、なんといっても成田空港アクセス輸送です。
「スカイライナー」は、主要な乗換駅である日暮里から成田空港までの間を最速36分で結ぶ快速っぷり。国内の在来線では最速となる最高速度160km/hを誇り、1日40往復以上が運行される利便性の高さも兼ね備えています。
ライバルは、JR東日本が運行する「成田エクスプレス」やリムジンバスなどです。実際のシェアはどのようになっているのか、成田国際空港株式会社が発表している「成田国際空港アクセス交通実態調査」を見てみましょう。
最新のデータは2018年度のものですが、「空港直行バス」の割合が18.8%と最も高く、次いでJR東日本の運行する「成田エクスプレス」13.8%、3番手が僅差で「スカイライナー」12.9%となっています。
また日本人に限れば「スカイライナー」11.8%、「成田エクスプレス」9.7%と両者が逆転します。
なおグループ会社の京成バスをはじめとしたバス会社も成田空港の輸送サービスを展開しており、都内はもちろん、首都圏の各都市から多数の路線を運行しています。
成田空港アクセス輸送は、鉄道のみならず運輸セグメント全体として全力で取り組んでいる領域なのです。
京成グループ内で京成電鉄以外の鉄道にかかわる企業
京成グループには、多くの鉄道事業者が属しています。例を挙げると、以下の通りです。
新京成電鉄…千葉県に鉄道路線を持ち、京成津田沼駅で京成線に接続し直通運転も行っています。2022年9月1日から京成電鉄の完全子会社となっています。2025年4月1日に京成電鉄へ吸収合併される予定であることが発表されました。
北総鉄道…東京都・千葉県に鉄道路線を持ち、京成線と直通運転を行っています
関東鉄道…茨城県に鉄道路線を持ち、バス事業・不動産事業などを展開しています
小湊鉄道…千葉県に鉄道路線を持ち、バス事業も展開しています
舞浜リゾートライン…ディズニーリゾートラインを運行しています
そのほかにも京成線の安全を支える仕事として、鉄道土木工事などを担う京成建設や、鉄道電気設備工事などを担う京成電設工業といった会社があります。
詳しくは以下の京成グループ企業一覧もご覧ください!
特徴:地元密着の事業展開
京成グループに所属する京成電鉄以外の鉄道事業者もすべて千葉県・茨城県で営業する事業者であることからも分かるように、京成グループの経営資源の多くは、鉄道路線の存在する東京都・千葉県および隣接する茨城県に投下されています。
バスやタクシー、百貨店、スーパーマーケットといった事業だけではなく、不動産事業やホテル事業においても沿線地域が中心であるというのは大手私鉄では珍しいといえます。
それだけに沿線地域では「地元密着」の企業として定着している反面、その外に住んでいる人にとっては成田空港へ移動する際に利用する「スカイライナー」以外での接点が少ないのが特徴です。
オリエンタルランドの存在
東京ディズニーリゾートを経営するオリエンタルランド。京成電鉄はその設立に深くかかわっていた歴史的経緯があり、現在でも72,628株(比率にして22.15%)の株式を所有する筆頭株主です(2023年3月末現在)。
京成電鉄から見ればオリエンタルランドはグループ内の一企業(持分法適用会社)という関係なのですが、そのオリエンタルランドの時価総額は京成電鉄を大きく上回っているという、一般的な企業グループ内の関係とは異なる状態となっています。
とはいえ資本関係や役員の兼任以外に関わりは薄く、現在のところその関係が劇的に変化する兆しもありません。そのため、就活生のみなさんがあまり意識する必要はなく、そのような状態になっている、という知識を押さえておく程度で構いません。
京成電鉄の今後
短期的には、インバウンドの回復を含めたコロナ禍の反動により増収の傾向が続くものと思われます。
中長期的には、営業収益における運輸業が占める割合が高いことにより、他の大手私鉄各社と比べて景気の動向に左右されにくいメリットがあります。1970年代の経営危機を乗り越えた後も、堅実な経営を志向している印象が強い企業です。
その一方で鉄道への依存度が高すぎては、沿線の人口減少や、コロナ禍のような成田空港の利用者減が起きた際に経営への影響が大きく出るのも事実。
長期経営計画で登場する「豊かで健康的な暮らしを創出するまちづくり」という表現は沿線価値の向上を目指しているものと受け取れますが、沿線自治体などと連携して沿線価値の向上を目指す取り組みがどれほど効果を発揮するかが、京成電鉄の将来に関わっているといえそうです。
まとめ
関連リンク
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今後も、鉄道事業者については、売上高の規模の違いなどに留まらず、グループ全体の売上や利益について鉄道事業が占める割合の違いなどに注目して取りあげていきたいと考えています。
もちろん鉄道事業者以外の企業についても取りあげる予定ですので、お楽しみに!
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