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「最大想定1万3500人を安全に運ぶために」JR北海道 プロ野球観客輸送に対応した列車ダイヤの提供に向けた取り組み

鉄道というサービスにおいて、きわめて重要な要素の一つがダイヤ設定です。もうすぐ花火大会や夏祭りの時期ですが、沿線でそのような大規模イベントが開催される際には、特にイベント終了後の時間帯に集中する乗客を安全に、かつ最大限効率よく輸送することが求められます。

それはプロ野球の試合開催時も同じです。
2023年3月から使用が開始された新球場「エスコンフィールド北海道」のオープンにあたっては、JR北海道が試合当日ダイヤの策定はもちろんのこと、最寄りとなる北広島駅の改良に全額自己資金で9億円を投じるなど、安全・安心かつ便利で快適な観客輸送を実現するために様々な施策を講じてきました。

今回は、情報誌『JRガゼット』2023年6月号に掲載された、JR北海道の鉄道事業本部 運輸部 輸送課 副課長 加藤真一さん執筆の記事を一部編集・転載して、安全・安心を前提に便利さと快適さを追求する鉄道輸送のリアルをご紹介します。

他ではなかなか読めない、実際に輸送の担当者として業務にあたっている方の文章です。それでは、どうぞ!


はじめに

2023年3月に誕生した「北海道ボールパークFビレッジ」内にあり、北海道日本ハムファイターズの新たな本拠地となる新球場「エスコンフィールド北海道」(写真1)において、開幕戦が3月30日に行われました。

写真1 新球場「エスコンフィールド」北海道外観
写真1 新球場「エスコンフィールド」北海道外観

同球場は札幌市の南東に隣接する北広島市にあり、千歳線新千歳空港〜札幌間のほぼ中間に位置し、快速「エアポート」の停車駅である北広島駅が最寄駅となります(図1)。同駅から約1.5㎞離れた新球場までは、駅前からシャトルバスで結ばれています。

図1 札幌圏の路線図と新球場の位置。北広島駅が、札幌と新千歳空港の中間に位置していることが分かります。
図1 札幌圏の路線図と新球場の位置。北広島駅が、札幌と新千歳空港の中間に位置していることが分かります。

千歳線には新千歳空港〜札幌間の空港アクセスを担う快速「エアポート」のほか、函館方面や帯広・釧路方面と札幌を結ぶ都市間特急、本州との物流を担う貨物列車も乗り入れるなど、JR北海道随一の過密線区となっているため、当初から列車の大幅な増発は難しいことが大きな課題となっていました。

球場の観客が満員の3万5000人となった場合、北広島駅の利用者は1万3500人(分担率約39%)との試算が出ており、JR北海道としては、この人数を運び切れる輸送力を確保する必要がありました。

とくにナイトゲームでは最終列車までの時間的余裕がなく、輸送力も限られることから、最大限の臨時列車を設定することが求められるなか、空港アクセス輸送も担う千歳線でどのようにダイヤの検討を行ったのか、エスコンフィールド北海道の観客輸送に対応する列車ダイヤの提供に向けた取り組みについて紹介します。

他社のプロ野球観客輸送の研究

2018年3月、北海道日本ハムファイターズから、本拠地の移転先を北広島市に決定したことが発表されました。
最寄りとなる北広島駅は2面4線(ホーム2面と線路4本)を備え、快速「エアポート」と普通列車の乗り換えが可能な駅となっており、通常は1日で6000人規模の乗車人数を数え、JR北海道では10番目のご利用人数です。

また同駅は札幌と新千歳空港の中間に位置しているものの、沿線人口は札幌市が197万人と圧倒的に多く、北広島市は5万7000人、千歳市と恵庭市を合わせて17万人という状況から、千歳線を利用する観客の85%が札幌方面からのお客様と想定されていました。

そのなかで、当時、JR西日本広島支社がMAZDA Zoom–Zoomスタジアム広島(マツダスタジアム)の観客輸送で実施していた臨時列車「赤ヘル号」が、試合終了時間に合わせたパターン運転をしているとのことで、お忙しいなか、ナイトゲーム当日の広島駅と指令室のオペレーションを見学させていただくことができました。この同社広島支社での臨時列車の運転の考え方を、JR北海道における試合ダイヤの検討のベースとしています。

千歳線の輸送力強化と試合ダイヤ

(1) 快速「エアポート」の増発

インバウンド需要の増加に対応するため、2020年3月ダイヤ改正では、快速「エアポート」32本の増発・毎時5本化を実現しました。
これにより、空港アクセスの輸送力は3割増強と大幅に改善し、この増発はエスコンフィールド北海道の観客輸送にも役立っています。

(2)北広島駅の設備改修

①札幌方面ホームの延伸(図2)
エスコンフィールド北海道での試合開催日には、最大限の臨時列車を設定することで検討を進めましたが、北広島駅のホームは長さ135m、幅6.2mと、定期列車の6両編成までが停車できる構造となっていました。

ホーム上には階段とエスカレーター、エレベーターがあり、部分的に狭くなっていることから乗車待機できる面積が少なく、一度に多くのお客様にお待ちいただくことができないため、ホームを千歳方面に88m延伸し、4番線の快速「エアポート」6両編成を試合開催時に階段の手前に停車させ、3番線の普通列車と停車位置をずらすことで、ホーム上で最大限のお客様が乗車待ちできるようにしました。

図2 試合開催日の北広島駅札幌方面延伸ホームの使用方法
図2 試合開催日の北広島駅札幌方面延伸ホームの使用方法

②改札機増設とエレベーター改札口の新設
ほかにも、狭かったラッチ内(改札内)の滞留スペースを拡大するため、自動改札機の位置変更や増設を行うとともに、これまでの北広島駅のエレベーターは必要なお客様が駅に申告をして、駅員が対応しなければご利用いただけませんでしたが、エレベーターの手前に自動改札機を新設することで、必要なお客様がスムーズにご利用いただけるようにしています。

(3)ナイトゲーム開催日の運行計画

臨時列車による輸送力増強は帰りのお客様が集中し、最終列車までの時間的余裕が少ないナイトゲームの復路輸送に重点的に取り組み、最大限の列車を設定しました(図3)

図3 ナイトゲーム開催時の北広島駅札幌方面列車時刻表
図3 ナイトゲーム開催時の北広島駅札幌方面列車時刻表

①普通列車の6両編成化
千歳線の快速「エアポート」はすべて6両編成ですが、普通列車は3両編成と6両編成が混在していたため、混雑が想定される16時以降をすべて最大の6両編成として、基本ダイヤの輸送力増強を図っています。

そのなかで、22時台には東室蘭発札幌行きの2両編成の普通列車を運転していますが、ナイトゲーム開催時には途中の千歳駅で乗り換えとなり、同時刻で6両編成の臨時列車として運転することで輸送力を確保しています。

②特別快速「エアポート」の北広島臨時停車
ナイトゲームの復路時間帯である21時台と22時台には、北広島駅を通過する速達タイプの特別快速「エアポート」をそれぞれ1本ずつ設定しています。通常時は同駅を通過しますが、停車が可能な余裕時分を付加したダイヤとしており、ナイトゲーム開催時に同駅に臨時停車させています。

③臨時快速列車を6本運転
ナイトゲームは試合終了から最終列車までの時間的余裕がなく、延長戦などで試合終了が遅くなる場合も想定し、限られた列車本数で運び切ることが求められます。

しかしながら、千歳線は車両を待機させられる箇所も限られ、1時間に2本程度しか臨時列車を設定できないため、あらかじめ決まった時刻に運転する臨時列車の設定を基軸に、検討を進めました。

また、波動輸送(通常の輸送ではなく、特定の日や期間の需要に対応する輸送)に使用できる通勤形電車の予備車両は持ち合わせておらず、夕通勤時間帯に運用した後、翌日に向けて早い時間からしまい込む車両を、試合開催日に北広島駅まで臨時回送のうえ運用の間合い使用とすることで、車両を確保しています。

ナイトゲーム開催日にはこの捻出した2編成を運用して、21時からおおむね30分ごとに運転する北広島始発の札幌行き臨時快速列車5本を設定しました。

また、お客様が集中する時間には最大限の輸送力を必要とするため、試合展開に合わせてピーク時間帯に運転させる臨時快速も1本追加で設定することとしました(写真2)

写真2 ナイトゲームの試合展開に合わせて運転する臨時快速列車
写真2 ナイトゲームの試合展開に合わせて運転する臨時快速列車

これも、間合い使用で捻出した1編成を北広島駅の隣駅である島松駅まで臨時回送して同駅に待機させておき、試合終了時刻での北広島駅長の判断により運行管理センターに連絡し、あらかじめ設定した5パターンのうち有効な時間に運転するものです。

これは、先述したJR西日本広島支社見学の際に実施していた、近隣の駅に車両を待機させておき、試合展開に合わせて「赤ヘル号」をパターン運転する手法を参考にさせていただいています。

これらの臨時列車を設定することで、21時台・22時台は1時間当たり千歳線最大の列車本数を設定しており、臨時列車の設定ができるように定期列車の特急列車を含めた前後列車のダイヤを全体的に見直し、遅延対策も含めた調整を2023年3月ダイヤ改正で実施することで、プロ野球観客輸送に対応できたのです。

おわりに

この原稿を執筆したのは、開幕3連戦が終わったばかりの4月ですが、プロ野球観戦を終えた満員のお客様を無事にお運びすることができて安堵しています。

とくに、開幕戦のナイトゲームはセレモニーが行われた後、通常よりも30分遅い18時30分の開始となるため、最終列車までに輸送を終えることができるのかが懸案となっていたことから、時刻表に掲載せずお客様には事前周知しない前提で、最終列車以降にも臨時列車を手配して万全を期していました。

実際の試合は21時31分に終了しましたが、球場から徒歩で北広島駅に向かったお客様の行列が駅の外まで連なり、最終列車まで残り4本となった23時近くになっても改札口までお待ちいただく状況が発生しました。

そのなかで、乗車できるのか不安を感じながらお待ちいただいたお客様に対し、北広島駅23時31分発の最終列車以降に臨時列車4本を追加することをお知らせしたため、整列乗車にご協力いただき、混乱はありませんでした。
結果として、試合終了の2時間後となる同駅23時31分発の最終列車までには行列もなくなり、すべてのお客様にご乗車いただくことができました。

試合ダイヤについてもこれが完成形ではなく、ようやくスタート地点に立ったばかりです。もっと便利に快適にご利用いただくため、今後とも実態の把握に努め、よりよいダイヤを目指していきたいと考えています。

鉄道就活応援隊編集部より

JR北海道が便利で快適な観客輸送を実現するため、高度な柔軟性を持った列車ダイヤの設定だけでなく、駅施設の改良や車両の手配といった様々な取り組みをしてきたことが良く分かる内容だったのではないでしょうか。

編集部の私も、いつかエスコンフィールド北海道で試合を観戦する機会に恵まれた時には、輸送を裏で支える方々のお仕事に思いを馳せたいと思います。

なお冒頭に記載した通り、今回の記事の内容は、運輸交通業の"今"が分かる専門情報誌、『JRガゼット』2023年6月号に掲載された、JR北海道 鉄道事業本部 運輸部 輸送課 副課長 加藤真一さんの「プロ野球観客輸送に対応した列車ダイヤの提供に向けた取り組み」から内容を一部編集し、転載したものです。

列車のダイヤを含めた内容は記事執筆時点のものですので、実際に現地でご利用される方は最新の時刻表および駅のご案内、JR北海道のWebサイトをご覧ください。

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