中部地方で圧倒的な存在感。地域密着かつ幅広い事業展開の鉄道会社といえば【就活生向け・決算短信を読む⑱名古屋鉄道】
スカーレットの車両が走り、空港に向かう「ミュースカイ」が走る。名鉄の通称で知られる中部最大の私鉄といえば、名古屋鉄道です。
この記事では、そんな名古屋鉄道の決算短信に掲載されている収益の数字や事業構成などを通じ、名古屋鉄道の今が分かることを目指します。
そして、鉄道業界各社の決算短信については、こちらのリンクから交通新聞電子版の記事が読めます。JR各社や大手私鉄の決算短信について、有料記事を特別に全文公開です!
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名古屋鉄道とは
名古屋鉄道は、愛知・岐阜の両県に444.2km(営業キロ)の路線を保有する大手私鉄であり、国内外に広く事業を展開する名鉄グループの中核企業です。
その起源は、1894年に設立された愛知馬車鉄道に求めることができます。2年後に社名を名古屋電気鉄道と改めると、1898年には笹島(名古屋駅前)~県庁前間において日本で2番目となる電車運行を実現しました。
その後、名古屋電気鉄道は名古屋市内の路線を充実させ、郊外にも路線を開業していきます。
1935年には、豊橋方面・常滑方面に路線を開業していた愛知電気鉄道と合併。その際に、社名を名古屋鉄道(実はそれ以前にも『名古屋鉄道』は存在していますが、詳細は割愛します)と改めます。
地方私鉄の統合が相次ぐ中で、名古屋鉄道も近傍の中小私鉄を吸収しながら路線網を拡大していきました。
戦後になると、鉄軌道事業の質的な充実に奮闘します。
1948年には悲願であった豊橋方面と岐阜方面の直通運転を実現し、1959年には5500系をデビュー。これは、当時としては画期的な料金不要列車向けの冷房車でした。
そして、1961年には長らく名鉄の象徴的な存在であった「パノラマカー」7000系をデビューさせました。
名鉄グループとしては事業の多角化を進め、戦後から続けてきた不動産事業のほか、流通業においては1954年の新名古屋駅ビル建設に伴う名鉄百貨店の開業があり、文化・レジャー事業においては1965年に明治村が「開村」するなど、グループの事業が拡大していきました。
バブル崩壊後には業績が悪化した時期もありましたが、スーパーマーケット事業からの撤退など、グループ内の事業や不採算路線の整理を進めることで乗り越えました。
2005年には愛知万博開催・中部国際空港の開業という大きな出来事があった中で空港線を開業、空港アクセスを担うようになり、新たな看板列車である「ミュースカイ」の運行を開始しました。
中部地区の私鉄では最大、日本全体でも私鉄3位の路線長を誇る鉄軌道事業者として現在に至ります。
営業収益・営業利益・経常利益
まずは基本の数字、ということで名古屋鉄道の営業収益・営業利益・経常利益について見ていきましょう。
コロナ禍の影響からの回復による交通事業やレジャー・サービス事業における増収、不動産事業における分譲マンションの引渡戸数の増加などにより、対前期で増収増益でした。
なお、コロナ禍の影響が少なかった2020年3月期と比べると以下の通りです。
営業収益・各利益ともにいまだに差は大きく、コロナ禍からの回復が途上にあることがわかります。
なお、先日公開された2024年3月期第2四半期決算短信によると、営業収益・各利益ともに前期(2023年3月期第2四半期)を上回っており、通期の予想も増収増益の見込みです。
【就活生注目】名古屋鉄道の特徴・事業構成
ここからは、決算短信から読み取れる名鉄の特徴を探ってみましょう。まずは事業構成と収益構造からということで、セグメント別の営業収益の割合は以下の通りです。
突出して割合が高いセグメントはなく、私鉄によくみられるバランス型の構成といえます。
そして、事業展開の幅広い私鉄の中でもセグメントの数が多いことがわかります。特に「航空関連サービス」は、鉄道会社の事業としては珍しいです。この事業の幅広さが名鉄の特徴の一つといえます。
運送事業では、名鉄運輸などの企業が、他社とも業務提携をしながら幅広いエリアで物流事業を展開しています。また、名古屋~仙台~苫小牧間を結ぶ定期航路の運航も行っている太平洋フェリーもここに入ります。
交通事業では、鉄軌道事業、バス事業、タクシー事業を展開しています。名古屋鉄道だけではなく、グループ内には豊橋鉄道など複数の鉄軌道事業者が存在します。
不動産業では、名鉄都市開発が中心となり、主に沿線の住宅やオフィスの賃貸・分譲を行っています。
レジャー・サービス事業では愛知・岐阜両県を中心に各地で展開するホテル業、沿線に多くの施設を持つ観光施設事業、名鉄観光による旅行業があります。
流通事業では、名鉄生活創研がフランチャイズを中心とした小売事業を展開するほか、名鉄百貨店が百貨店を運営しています。
航空関連サービス事業では、中部国際空港における空港地上業務の受託などを行っています。
その他のセグメントには、ビルメンテナンスなどの事業が入ります。
名古屋鉄道の鉄軌道事業の特徴
ライバルが多い地域だからこそ、グループとしての強みを生かす
名鉄の路線網は広域にわたりますが、その中でも豊橋と名古屋、名古屋と岐阜など、名古屋周辺でも特に輸送量の多い区間ではJR東海の路線とも競合しながら、多くの乗客を運んでいます。
しかし、そんな名古屋鉄道のおひざ元と言える愛知県は、全国屈指の車社会でもあります。
都道府県別自動車保有台数で全国トップ(2023年10月末時点・自動車検査登録情報協会調べ)、道路の長さを示す実延長も全都道府県中4位(2022道路統計)があります。
人口が集中していながらも鉄道会社にとって優しい環境とはいえない名古屋圏で生き残るために、名鉄は列車種別や停車駅などダイヤ設定に工夫を凝らしたり、レジャー・文化施設を沿線に開発したりしてきました。
それに加えて、名鉄グループの中期経営計画「Turn-Over 2023 ~反転攻勢に向けて~」においては、鉄道事業について
ワンマン運転の拡大
窓口業務など駅業務の効率化
新技術の活用などによる施設保守の効率化
駅ナカ空間のさらなる有効活用などの積極策
を掲げており、また鉄道事業以外においても
名古屋都心部における開発
名鉄岐阜駅や東岡崎駅などの沿線拠点駅における再開発
沿線である犬山エリアの観光開発沿線開発
といった沿線・地域の活性化を目指す施策を複数掲げています。こうした施策は鉄道の利用者増加にもつながる動きでもあり、鉄道事業単独ではなく、グループとしての強みを活かしたグループ全体での収益力強化を図っていることがわかります。
この姿勢自体は、様々な鉄道事業者においてみられる動きでもあるので、就活生のみなさんはしっかりと頭に入れておきましょう!
中部国際空港へのアクセス
三大都市圏にある他の国際空港(羽田空港、成田空港、関西国際空港)と比較すると、中部国際空港には「鉄道のアクセスが1社しかない」という特徴があります。
たとえば羽田空港へのアクセスであれば東京モノレールと京急がライバルとしてしのぎを削っているところ、中部国際空港の場合は乗り入れている鉄道事業者が名鉄だけです。これは、名鉄にとってアドバンテージと言えます。
中部国際空港の年間旅客数は減少が続いた時期もありましたが、2012年度からは増加に転じ、コロナ禍前の2019年度には開港当初の年間約1,200万人まで戻りました。
そして、今後も中部国際空港の旅客数は中長期的に増加する予測が立てられています(中部国際空港将来構想推進調整会議『中部国際空港の将来構想』より)。
名鉄にとって、空港アクセスの重要性は今後さらに増していくものと思われます。
名古屋鉄道以外の、名鉄グループ内で鉄道に関わる企業
「名古屋鉄道とは」で少し触れましたが、名鉄グループには豊橋鉄道、北陸鉄道といった名古屋鉄道以外の鉄軌道事業者が複数存在しています。
また、鉄道を含めた様々な施設の電気設備、受変電設備、情報通信設備などの施行を行う名鉄EIエンジニアのような企業もあります。
詳しくは名古屋鉄道のWebサイトもご覧ください!
名鉄グループとしての強み
強み:不動産事業を中心とした地域に根差した事業展開
「鉄軌道事業の特徴」でも少し触れましたが、名鉄グループの強みは地域密着の事業展開です。
名古屋市中心部の開発のほか、自社線の駅を核とした住居・飲食・物販・モビリティサービスの提供といった沿線の活性化策実施、観光施設の価値向上といった打ち手を実施しています。
中部地方唯一の大手私鉄として幅広い事業を展開している名鉄グループならではの強みと言えます。
決算短信から読む名古屋鉄道(名鉄)の今後
短期的にはコロナ禍の影響が低減することで増収が見込まれるところではあります。
中長期的には、鉄道事業において中部国際空港アクセスの利用者増は見込まれる一方、他社と同様に沿線地域での人口減少が予測されます。
ほかの事業においては、安定した利益を生み出している不動産事業を中心として、グループの強みを活かした地域密着の事業展開でいかに沿線の価値を維持していくかがカギとなりそうです。
まとめ
関連リンク
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今後も、鉄道事業者については、売上高の規模の違いなどに留まらず、グループ全体の売上や利益について鉄道事業が占める割合の違いなどに注目して取りあげていきたいと考えています。もちろん鉄道事業者以外の企業についても取りあげる予定ですので、お楽しみに!
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