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「副所長という今の立場になっても、日々勉強です」鉄道の快適な旅と社会インフラを支える軌道のゲンバ【社員インタビュー:小田急エンジニアリング・軌道工事の施工管理】

鉄道に関わるお仕事に携わっている方へインタビューを通じて、その仕事についてのお話を伺う「鉄道ゲンバ最前線!」。

第12回は、前回と同じく株式会社小田急エンジニアリングへお邪魔しました。小田急エンジニアリングや、前回取りあげた電気のプロフェッショナルについて気になる方はこちらの記事をご覧ください。

今回お話を伺ったのは、線路や、線路に付帯する設備を担当する軌道部 海老名軌道工事事務所副所長の深澤匡さんです。深澤さんは軌道工事で技術や知識を身に着けてきた、経験豊富なベテランです。

そんなベテランの深澤さんが若い頃に仕事上で経験したことや感じたこと、そしてこれからの目標や、学生のみなさんへのメッセージなどを伺いました。そこには将来の輝く自分を見つけるヒントがありました。

それではどうぞ!


自己紹介と入社のきっかけ

――本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、自己紹介と入社のきっかけをお聞かせください。

深澤 よろしくお願いいたします。株式会社小田急エンジニアリング 軌道部 海老名軌道工事事務所 副所長 深澤匡(ふかざわただし)です。現在47歳です。

本社の会議室でインタビューに応じてくれた深澤さん

父親が建築工事の施工管理をしていて、子供の頃に何度か現場事務所に連れて行ってもらったこともあり、同じような仕事をしてみたいと思ったのが、最初のきっかけです。
その影響で建築系の専門学校を卒業し、最初は東京都内の建築土木系の会社に就職しました。

――子供のころの経験が原点なのですね。建築系から軌道工事の分野に来た経緯を教えてください!

深澤 就職した会社で測量などの技術を学んだのですが、たまたま当時小田急線の軌道保守管理部門のあった小田急建設株式会社とご縁があって、系列会社に入社したというのが経緯です。

そこから小田急建設株式会社に派遣という形で軌道工事に携わっていたのですが、そのまま小田急建設に転籍して、その後系列会社間での業務の分割承継などで改めて小田急設備株式会社、現在の小田急エンジニアリングに入社し今に至っています。

気付けば23年間、軌道工事一筋です(笑)

若手時代の苦労、信頼を勝ち取るまで

――なるほど、ありがとうございます。若手時代はどのような業務内容でしたか? 

深澤 基本は上司や先輩の補佐でした。2年目以降は徐々に軽微な工事を担当させてもらい、3~5年目以降は一担当として工事を任せてもらいました。
かつて建築土木を経験していたとはいえ、軌道工事では新たに覚えることも多く、最初は本当に右も左もわからないことばかりでした。
もちろん、測量作業や小規模構造物の構築など、建築工事や土木工事での経験が役に立つ時は今でもあるのですが。

――なるほど、軌道工事は独自の知識が必要になることが多いのですね。それは苦労もありそうですが。

深澤 当時は年間200件程の工事を事務所全員でこなしていたのですが、現場で見て携わる機会を上司や先輩からたくさん作ってもらいました。
現場に出ても、作業員のみなさんの方が知識も経験もある状態です。少しでも認めてもらえるよう、できないなりにも必死に頑張りました。

そのおかげか、少しずつ先輩方から指名されて現場についていく機会が増えてきたときは、認めてもらえたようでとても嬉しかったです。

徐々に知識や技術が付いてきて、現場責任者として作業員の方と信頼関係を築けたのは30歳代前半でしたね。
その後40歳代になって一つの工事全体を統括する主任になったという感じです。

――主任になった今、過去の自分と比べて成長したな、と思うようなことはありますか?

深澤 その時に直面していることに一生懸命取り組む、という基本姿勢は変わらないですね。それでも様々な経験を通じて、先を見据えたペース配分が上手くなったことや、より良い仕事をしようと心がけるようになったのは、成長と言えるかもしれません。

現在の軌道部 海老名軌道工事事務所 副所長としての業務について

――現在の業務はどのようなものですか?

深澤 業務は小田急線全般の線路設備工事の管理・計画・調整・補佐・所属員労務管理など、その名の通りレールやバラスト、踏切や橋梁など軌道全般に関わる工事施工管理を一手に引き受けています。

管理の仕事がメインの一方で、現場に赴く機会も多いとのこと。左から三番目が深澤さん。写真提供:小田急エンジニアリング

小田急線沿線には5社ほど作業をお願いする関係会社があるのですが、その会社さんの立地だけでなく、各会社の特徴や得意分野などを考慮して、お願いする作業を割り振ったり調整したりします。現場責任者として軌道工事の現場に赴くことも多いですね。

――業務の大変なところは?

深澤 現場責任者という立場柄、所員の統制を取ることや意見をまとめ集約することが大変です。また施主様から前もって発注スケジュールの連絡はあるのですが、例えば下期に予定した軌道工事区間で検査中にレールの傷が発見され、工事が前倒しになることもあります。

――予定通りにはいかないこともある、ということなんですね

深澤 はい。そうなると作業の優先順位を入れ替えたりするのですが、のちのちの作業スケジュールに影響することもあります。その都度工事の計画や各部署と作業員の調整や管理が必要になり、大変です。

そういったこともあって9月以降には忙しくなりがちなのですが、その時期に作業が集中することにはならないよう施主様と協議するなど、作業の平準化には気を遣っています。

――この仕事をする上で必要な資格やそれを取るための会社の支援はありますか?

深澤 小田急電鉄認定制の工事指揮者という資格が必要になります。これは大学で土木を修めていれば3年目で受験できます。高卒や短大卒、大卒でも土木に関係ない専攻だと5年目で受験できます。

当社でも受験資格の年数になったら工事指揮者の資格を取得できるように支援してくれます。工事指揮者の認定をもらえれば現場での責任者になれるわけです。
また国家資格の1級・2級土木施工管理技士を取れば施工管理上の技術責任者として認められ、大きな工事にも携われるようになります。

必要な資格を取得するにあたっては、会社が受験費用やテキスト代、講習費などの費用面をサポートしてくれますよ。
その他、国家資格を取得すると褒賞金がもらえたり、毎月のお給料に資格手当がプラスされるので、モチベーションを維持して資格の取得に取り組むことができます。

取得した資格に応じて、 毎月の給与がアップ!! 画像提供:小田急エンジニアリング

――今感じる仕事の魅力やりがいは何ですか?

深澤 綿密な打ち合わせをして自分が決めた時間通りに工事が進んで無事に終了した時ですね。
軌道工事の性質上、始発電車が走り出す前に作業を終わらせるというのは当たり前のことですが、やはりスケジュール通りにきっちり終えることができた気持ち良さは毎回感じます。
これがこの仕事の魅力だと思います。

またその作業の後に施主様から感謝された時は、とても嬉しいですし、周りの所員から頼られたりするとしっかり応えてあげたいと感じます。これらもやりがいの一つですね。
家族と小田急線に乗った際に「ここを直したんだよ」と言っても反応がやや薄いのは残念ですが……(笑)

働き方と部署の雰囲気

――休日と夜勤、残業について伺いたいのですが。

深澤 軌道部の休みは年127日です。残業は月平均23時間ぐらいです。軌道工事は概ね列車の無い夜間にやるので日勤業務の後に休憩時間を挟んで夜勤になります。夜勤は平均月10日前後くらいですね。日勤の後が夜勤になるので翌朝以降は明けというのが基本パターンです。

1日のスケジュールとしてはこのような形です。

1日のスケジュール例。日勤と夜勤でワンセットとなるパターン。

――職場の雰囲気はどうですか?

深澤 海老名軌道工事事務所は、とても明るくてメリハリがありますね。ただ、年齢差がある社員もいるので、会話の中にギャップを感じることもありますね(笑)

思い出深い工事、そして今後の目標

――今までで、特に思い入れのある仕事はありますか?

深澤 初めて主担当として携わった、小田急小田原線の和泉多摩川駅~向ヶ丘遊園駅間改良工事*です。多摩川に架かる多摩川橋梁の架け替え、複々線化の軌道新設と線路切り替え作業を行いました。
それまでも同様の新設工事は他の現場で経験しましたが、それらはすべて先輩の指示を仰ぎながら行っていました。初めての主担当、分からないことも多い中で進めなければなりません。

*小田急小田原線の和泉多摩川~向ヶ丘遊園間改良工事…多摩川橋梁の老朽化対応と共に、東京都内で実施していた複々線化工事の効果を最大化するため実施した大規模改良工事。

――初めての主担当が一大プロジェクトという緊張は察して余りありますね。やはり大変なことも多かったですか?

深澤 新しくできた橋に、上り線を移設する作業が大変でした。規模の大きな工事ということもあってスケジュール通りにいくのかな、という不安があり、自分の不甲斐なさと葛藤する日々が続いていました。

試行錯誤しつつ工事に挑んだのですが、上司や先輩方、協力会社の職長や作業員の方々など、総勢160名が一致団結して粘り強く協力してくれました。そのおかげで終わってみれば当初の想定より余裕をもって作業を終えることができました。卒倒しそうなくらいホッとしましたし、達成感がありました(笑)

機械化も進んだものの、今も昔も現場に関わる多くの人の協力で工事は成り立っているのは変わらないのだそう。写真提供:小田急エンジニアリング

――軌道工事で長年キャリアを築いてきた深澤さんですが、今後の目標というのはあるのでしょうか。

深澤 副所長という今の立場になっても、日々勉強だということを感じます。部下に聞かれたことには何でもすぐに答えられるように、より周りから頼られる上司であるために、今後も精進していきたいです。

学生の方へのメッセージ

――就職活動をしている学生さんへのアドバイスをお願いします。

深澤 学生時代には部活動やサークル活動、アルバイトをぜひとも経験して欲しいです。部活動やサークル活動は好きなことを追求したり、楽しんだりできます。

アルバイトは、お金を稼ぐのが目的にはなるかもしれませんが、その中で社会人として常識的なことやビジネスマナー、先輩や後輩と世代を超えたコミュニケーションを学ぶことができます。社会に出てから必要になってくる先輩やお客様への気遣いなど、授業以外で学べることも重要です。

また現代は様々な事柄に省力化が進んでいますが、単純に人から聞いてそのまま近道を模索するのではなく、自分なりに考えて道筋を立てることが大切だと思います。
時には遠回りすることになるかもしれません。でも、その経験や反省をもとに次はどうするべきか考えるきっかけにして欲しいです。
人からの指示を待つのではなく、自分で発信、行動をするようにしてもらいたいですね。

そしてとにかくまずは努力して、自分のスキルを身に付けること。
時代の流れとしてキャリアアップも選択肢にあるかもしれませんが、自分がどんなスキルを身に付けたいかに重きを置いて努力することが大事です。

私もまだまだ目指す先があり、それに向かって努力し続けることでさらに大きな自信へと変わります。その魅力とやりがいが味わえるのがこの仕事です。この業界を目指す人は長く続けるよう、がんばってくれると嬉しいです。

――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

本社オフィスのすぐそばで、小田急線をバックに。

終わりに

取材で伺う時に小田急線に乗ったのですが、線路から伝わる振動は少なく、バラストがまるで絨毯のように滑らかで美しく整備されていたのが印象的でした。
鉄道車両が快適に走行するためには車両の性能だけでなく、レールやバラストなどの軌道設備の品質が重要になります。工事にはもちろん機械を使うこともありますが、最も頼れるのは人の目と感覚、そして経験に裏付けられた技術力であると深澤さんに伺いました。

まさに鉄道の「足元」を支えているのが深澤さんや軌道部所員、そして作業員の方々です。作業内容は現場ごとに様々で複雑。だからこそ工事に携わる多くの人々とのコミュニケーションが何より大切であるということも改めて感じました。

「軌道」という舞台で、誰一人かけても成立しない「人間力」が生み出すゲンバ。深澤さんを始め、熱い思いを持って責務を全うする小田急エンジニアリングの人々が今日も小田急線の安全を支えています。

今回紹介させていただいた会社

小田急エンジニアリング

小田急線の安全で快適なモビリティを担う小田急グループの鉄道関連工事会社です。電気事業、軌道事業、車両整備事業、設計・コンサルティング事業の4分野を持ち、豊かな経験によって培われた高い技術力と実績で交通インフラを通して社会に貢献しています。今回は小田急エンジニアリング本社にお邪魔し、取材させて頂きました。

公式ウェブサイトはこちら

小田急エンジニアリング公式ウェブサイト

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2023年7月取材
聞き取り・撮影:助川康史(マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズ)
企画・構成:交通新聞社
※記事中の情報は、この記事を公開した当時のものです。
※採用についてではなく記事の内容についてのお問い合わせは、交通新聞社HPからお願いいたします。掲載されている企業・個人へのお問い合わせはご遠慮ください。
※2023年9月1日 電気部の1day仕事体験の追加日程を記載しました。
※2023年10月25日 1day仕事体験の内容を更新しました。
※2023年11月6日 1day仕事体験の内容を更新しました。