「若手には、一人でも多く、現場に信頼される存在になってほしい」後進を育てるベテランが語るゲンバの未来【社員インタビュー:小田急エンジニアリング・電気設備工事の施工管理】
鉄道に関わるお仕事に携わっている方へインタビューを通じて、その仕事についてのお話を伺う「鉄道ゲンバ最前線!」。第11回となる今回は、株式会社小田急エンジニアリングへお邪魔しました。
株式会社小田急エンジニアリングは電気設備や軌道設備の保守、車両の整備・リニューアル、鉄道施設の設計・コンサルティングなどを担っており、小田急線をはじめとした鉄道路線の安全と快適性を守る「縁の下の力持ち」の会社です。
その中でも今回は電気設備を担当する電気部統括工事所統括所長の越田学さんへインタビューしました。
ゲンバのトップである超ベテランの所長から、ご自身の体験をもとに鉄道業界に貢献してきた道のりと若手への期待を熱く語っていただきました。越田さんの言葉には人生を貫いてきた仕事のやりがいと責任感、そして誇りを感じます。
これから鉄道業界を目指す方には、仕事に接する姿勢と自分の職人としての未来像が見えること間違いなしです。
それではどうぞ!
自己紹介と入社のきっかけ
――本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、自己紹介と入社のきっかけをお聞かせください。
越田 こちらこそ、よろしくお願いいたします。株式会社小田急エンジニアリング 電気部統括工事所 統括所長 越田学(こしだまなぶ)です。59歳になりましたが、実は入社は9年目ですね。でも35年間、電気関係の仕事に携わっています。
――9年目ということは、その前のキャリアが長いのですね。良ければ入る前のことも教えてください!
越田 経歴は話せば長くなるのですが良いですか? 実は高校を卒業して最初の仕事に選んだのは、海上自衛官だったんです。設計の仕事と迷っていたのですが、その仕事の面接と自衛隊の二次試験の日付が被って……迷った末に、自衛官になる道を選びました。
――自衛官ですか! 珍しい経歴だと思いますが、そこからどうして小田急エンジニアリングに来たのか気になるところですね。
越田 自衛官は7年続けましたが結婚を機に辞めて、電気関係の仕事に就きました。
電気設備関係の部署には長い事在籍し、工事を担当する部署として様々な工事に携わりました。
その中で、小田急電鉄の変電所工事に携わる機会がありました。
50歳くらいの時だったのですが、小田急エンジニアリングの当時の鉄道電気部長から「変電所工事所の責任者兼若手の教育係になって欲しい」と声を掛けていただきました。それをきっかけとして、小田急エンジニアリングに移って、今に至るわけです。
現在の電気部 統括工事所 統括工事所長としての業務について
――なるほど、ありがとうございます。現在の業務はどのようなものですか?
越田 主な業務は変電所の設計や新設、保守などの作業を監督・統括する責任者です。
入社時から部署が変電工事所だったので変電所一筋と言ったところでしょうか。
ちなみに変電所は受変電設備と言って、電力会社から受電した特別高圧の交流電力を列車運転用の直流1500ボルトに変換したり、駅や信号施設などでの使用に適した電力に変換する設備です。
ただ現在は「施工管理グループ」だけでなく、自ら施工を手掛ける「テクニカルグループ」や首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)などのメンテナンスを担う「つくば電気管理センター」、多摩都市モノレールのメンテナンスを担う「多摩電気管理センター」の業務管理を兼務する統括所長ですので、小田急線だけでなく幅広く鉄道の電気に関わる様々な管理・監督をこなしています。
施工管理グループでも箱根登山鉄道や江ノ島電鉄など小田急グループ全体のメンテナンス事業を担っています。
そして経歴でも話した通り、若手を現場主任、そして監督へと育てる教育係としての仕事もあります。
――幅広い業務がありますね。責任者としては、具体的にどのような業務をしていますか?
越田 小田急線沿線には変電所が30ヶ所ありますが、変電所ごとに敷地の形が違うので、その変電所に合わせた更新工事や修繕のプランニング、そして進行スケジュールの考察をしています。
また工事責任者として現場に立ち、進行スケジュールにそって協力会社さんの作業員への指示や作業管理をすることが主な業務になります。
安全第一でいかに効率良く作業を進めることができるか、これが私たちに求められます。
――変電所関連や電気設計、工事関連に携わる上で必要な知識や資格は?
越田 我々は現場で直接作業するのではなく、施工管理といって工事を安全に進めるよう作業員に指示したり、作業計画を立てたりする責任者としての業務が主になりますので、まずは安全衛生関係の知識を勉強してもらいます。
その後は小田急線内の工事に必要な工事責任者や列車監視員といった資格、そして1級電気工事施工管理技士の取得も目指すことになります。
他にもテクニカルグループと言って自分たちで架線を張り替えたり、ケーブルを敷設したりする技術職のグループもあるので、電気工事士(電気設備の仕事・取り扱いの際に必要な国家資格)を始め、溶接などのありとあらゆる資格が必要になりますね。私はそれらを含め、たぶん30個くらいは資格を持っています。
もちろん社員が業務に必要な資格を取得するにあたっては、会社が受験費用やテキスト代、講習費等の サポートをしてくれます。その他、資格取得に応じた褒賞金や、毎月のお給料にプラスされる資格手当など、資格取得における支援制度が充実しています。
現場責任者に必要なこと――現場に行って分かること
――統括所長として考える現場責任者に必要なことは?
越田 KY(危険予知)やリスクアセスメント(職場の潜在的な危険性や有害性を見つけ、前もって取り除いたり低減したりすること)が何より大切です。
「安全に進めるためにはどういうところを見張るべきか」「作業中に規則を守らせるにはどうすべきか」といったリーダーシップ的な感覚を養うことが求められると思いますね。
――その点を若手にはどのように教えているのですか?
越田 私のように現場で長くやって来た人間は当たり前にわかっていても、新卒でやって来た若い人はその作業が良い事なのか、悪い事なのか、さらには何をやっているか、初めのうちは分かりません。
資格は勉強したり講習を受けたりすれば取れます。
ですが現場での実地体験をするのは感覚的にとても大事だと思っています。
机にかじりついて参考書を読んだりすることで電気設備工事の勉強はできますが、私たちは現場を監督する立場ですので、現場で感じる危なさや状況判断をする感覚は現場でしか分からないんです。
――なるほど。現場ではどういったことが分かるのでしょうか。
越田 私は現場で直接教えるために、実作業を担当する協力会社さんに頼んで、作業員が引っ張っているケーブルを若手にも一緒に引かせ、その重さや部品の繊細さ、作業する時の危険性を経験させたりしています。
その経験こそが現場責任者として必要なことだと思うんです。
現場の主任として動けるようになるのもそれなりに時間はかかります。
はじめのうちは作業責任者の補助として現場での経験を積み、資格の取得を目指していきます。経験と実力を兼ね備えた監督となるとやはり10年くらいはかかると思います。
私はそういう人材を育てるべく昔からそのやり方で教育していますが、現場によって内容が大きく変わるので教育方法については毎回悩みどころです(笑)
――それを踏まえて若手に「こうなってほしい」というところは何ですか?
越田 最初にも言いましたが、30ヶ所ある変電所は敷地の形が違ったり、アプローチする道路の形状が違ったりと同じ条件のものは一つとして無いんです。作業の流れというのは変わらないのですが、一つのパターンとして教えられるものでもないので、現場に応じた対処の仕方を覚えてもらうしかありません。
作業の基礎はもちろん身に付けてもらって、それを各変電所で活かす応用力を付けてもらいたいです。
また、責任者として現場の状況をどう受け取るかは個人差が有りますし、個性もあります。結果をすぐに求めるのではなく、長い目で見て責任者としての経験を積み上げてほしいですね。
働き方と部署の雰囲気
――休日と夜勤、残業について伺いたいのですが。
越田 電気部の休みは年127日です。残業は月平均23時間ぐらいです。夜勤についてですが電気部全体で平均10回前後です。時期によって工事件数が変わるので夜勤の回数も変わります。
また変電所工事が架線への給電に影響する場合は夜間の作業になりますが、機器を運んだり、設置までの準備作業をしたりする場合は列車の運行には差し支えないので日中作業の方が多くなります。
朝8時に出社するところからはじまって……スケジュールの例としてはこういった形ですね。
――施工管理グループの雰囲気はいかがですか?
越田 良い雰囲気だと思います。早く一人前の主任や監督になってもらおうと、教育係として私自身が熱くなってしまうことはありますが(笑)
施工管理グループでのクラブ活動というのはありませんが、個人間の趣味的な交流はあるようです。例えば野球好きの人たちの間で好きな球団のことなどを楽しそうに話しているのが聞こえますから。
――私も野球ファンなのでそれは羨ましいです(笑) ちなみに越田所長ご自身の休日の過ごし方は?
越田 昔からスポーツ好きでしたが、今はスポーツを見て楽しむことが多いです。例えば好きなバスケット選手を応援したりしています。
またホームシアターがあるので映画を見たり、スカイダイビングやラフティングにも挑戦しました。プラモデルなどの模型作りも好きで、時間を忘れて没頭することがあります。
休日にしっかりリフレッシュをすることが、仕事を続けていくには大切なことだと思いますよ。
仕事のやりがい、そして今後の目標
――大変なこと、そしてやりがいや達成感を感じるときはどんな時ですか?
越田 施工管理は、変電所に機器を配置するための図面を起こすところから担っています。
また工事に関しても、主な施主である小田急電鉄の工事計画やスケジュールに合わせて工事時期や日数、コストなどを考え、それを踏まえて協力会社さんに人員などの調整をお願いするなど、やることが多いというのが大変ですね。
変電所工事の場合、昼作業と夜作業の調整が難しいと感じることもあります。
やりがいを感じる時ですか……1つの変電所で機器の更新工事が完了するのに3年くらいかかるんですが、建屋や機器などが徐々に新しく綺麗になっていきますし、施工前と施工後が全く違って見えるところにやりがいを感じますね。
もちろん更新工事は1ヶ所だけでなく、複数箇所を同時進行しているので、やりがいも同時に複数感じます(笑) 今年も同時に4ヶ所で大きな工事を並行していますよ。
――複数感じられるのはお得かもしれませんね(笑) 小田急エンジニアリングに入社して良かったと思うことは?
越田 以前の会社では、小田急線以外にも電力会社や下水道関連工事など、公共・民間も問わず何でも仕事をしていました。それが小田急エンジニアリングに入社してからは、得意な電気関連で小田急線の変電所工事に専念できることになったんです。それが一番良かったと思いますね。
――様々な経験を積まれてきた越田さんが、統括所長として目指していることはありますか?
越田 小田急エンジニアリングの若手に一人でも多く、現場で信頼される主任になってもらえるように技術の伝承をしていきたいです。
やはり現場で信頼が得られるようになると自信にも繋がります。若手が自信をもって良い仕事ができるようになるために、自分の持っている知識や経験を伝えていきたいです。
また、変電工事所という部署ができてまだ9年目ですし、施工管理についてはまだまだなところがありますので、定年を迎えるその日まで、現場に若手を連れていくというスタイルは続けていきたいですね。
学生の方へのメッセージ
――就職活動をしている学生さんへのメッセージをお願いします。
越田 学生さんは自分自身、何が得意で何が不得意かを見極めることが大切です。不得意なところがわかっていれば目指す職種というのが少し絞られますよね。
「自分が何者か」を理解し、得意分野の職種に進んだ方が伸びしろも増えると思います。
私の施工管理グループに関して言えば、前に言った通り機器や設備の設計から更新工事の完了までには年月がかかり、その分だけ達成感も大きいです。その達成感にやりがいを感じる人には良い職場だと思いますよ!
――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
終わりに
日本の鉄道は安全で快適、そして正確な公共交通機関であることは世界的にも有名です。そして「安全」「快適」「正確」のすべてを満たすには電気が欠かせません。電気は列車を動かす動力源としてはもちろん、安全で正確な運行を実現する信号・運行システムや快適な駅・沿線環境を作り出すエネルギーなのです。
小田急線は越田さんを始め、多くの人々の高い技術力とたゆまぬ努力によって支えられたエネルギーによって今日も走り続けています。越田さんの話を伺い、高い技術力や判断力というのは長年の経験や努力が培ってきた結晶であるということを強く感じました。
そしてその経験を一人でも多くの若い人に継承していきたいという越田さんの強い思いもひしひしと伝わってきました。技術者としての誇りと自信は自分だけでなく人の人生をも支えます。志の高い技術者が多く所属する株式会社小田急エンジニアリングは素晴らしい会社だと感じた取材でした。
なお、鉄道就活応援隊では同じ小田急エンジニアリングで軌道部門の方に取材した記事を公開しています。あわせてぜひ!
今回紹介させていただいた会社
小田急エンジニアリング
小田急線の安全で快適なモビリティを担う小田急グループの鉄道関連工事会社です。電気事業、軌道事業、車両整備事業、設計・コンサルティング事業の4分野を持ち、豊かな経験によって培われた高い技術力と実績で交通インフラを通して社会に貢献しています。今回は株式会社小田急エンジニアリング本社にお邪魔し、取材させて頂きました。
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2023年7月取材
聞き取り・撮影:助川康史(マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズ)
企画・構成:交通新聞社
※記事中の情報は、この記事を公開した当時のものです。
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※2023年9月1日 電気部の1day仕事体験の追加日程を記載しました。
※2023年10月25日 1day仕事体験の内容を更新しました。
※2023年11月6日 1day仕事体験の内容を更新しました。