「激甚化する災害に備える」JR九州における鉄道構造物の防災・減災対策
近年、前線の停滞による豪雨や台風、そして地震など、自然災害の激甚化が進んでいるといわれています。
インフラが被害を受け、鉄道が長期間不通になるような事態も相次いでいます。そのような状況にあって、もちろん鉄道事業者も手をこまねいているわけではありません。
従来様々な対策を講じて、防災・減災に努めてきたほか、IoT技術も活用して、災害時の機能維持や安全確保においてさらなる進展がみられています。
今回も『JRガゼット』2023年8月号に掲載された、JR九州 鉄道事業本部 工務部 工事課 林真一郎さんの「JR九州における鉄道構造物の防災・減災対策」から内容を一部編集・転載して、鉄道構造物の防災・減災にはどのような対策が取られているかについて紹介します。
はじめに
九州地方は、地理的な条件により季節風や台風の影響を受けやすい地域であり、これまで幾度となく豪雨災害や台風災害に見舞われ、ライフラインや公共交通の遮断など甚大な被害を受けてきています。
また、地震活動が活発な地震帯にも属しているため、豪雨・台風災害と地震災害への備えが恒常的な課題となっています。
JR九州では、毎年のように大小さまざまな自然災害に見舞われており、令和2年7月豪雨災害や2016年熊本地震災害などの激甚災害においては、路線の一部区間で長期運転中止を余儀なくされました。
本稿では、近年、激甚化が進む自然災害に対して、JR九州が取り組んでいる鉄道構造物の防災・減災対策について紹介します。
豪雨・台風災害への取り組み
(1) 斜面対策
斜面の崩壊や落石による運転支障を防止するため、日頃の検査業務や、社外専門能力の活用等により、斜面の健全度評価を実施し、国等の補助事業を活用しながら、措置が必要な箇所に対しのり面防護工や待受工*等のハード対策を実施しています(写真1、2)。
また、減災を目的とした簡易落石止め柵(単管造りやPCフェンス等)の設置を進めており、一般的な落石対策工(落石止柵、擁壁等)と比較し、工期は短く、施工単価が安価であるため、短期間で広範囲に設置することが可能で
す。
中小落石の捕捉と落石のエネルギー緩和が期待できるとともに、連続的に設置することで獣の線路内進入に対しても一定の効果が得られています(写真3)。
そのほか、落石や斜面崩壊のリスクが高い区間では、落石検知や斜面崩壊検知のシステムを導入し、異常を検知した際には信号現示を停止にし、列車の進来を防護する対策も実施しています(写真4、5)。
(2)橋脚洗堀対策
河川橋りょうにおいては、局所洗堀*による橋脚の沈下・傾斜等を防止するため、河床調査や衝撃振動試験等により橋脚基礎部の健全度の評価を行っています。措置が必要な橋りょうに対しては、国等の補助事業を活用しながら、根固め工等のハード対策を実施しています(写真6)。
そのほか、橋脚の洗堀に注意が必要な橋りょうに対しては、橋脚に水位計や傾斜計を設置し、センシングによる監視を行っています(写真7、8)。
(3)倒木・倒竹対策
倒木・倒竹による運転支障を防止するため、外注・直轄作業による伐木・伐竹を行っています。対象樹木の選定にあたっては、樹木医による沿線樹木の診断を行い、危険木の抽出を行っています。一部の竹林に対しては、竹林防護工等のハード対策を実施しています。
そのほか、沿線の森林管理者等に対しては、森林の適切な管理と鉄道近接工事の手続きに関する啓蒙活動を行うなど、用地内・用地外問わず、樹木や竹林の管理に努めています。
(4)運転規制(降雨・風)
降雨の観測のため、おおむね10〜15km間隔で全136カ所に雨量計を設置しており、線区ごとに設定した雨量特性図により、時雨量と連続雨量を用いて沿線環境に応じた運転規制を実施しています。
また、一部区間では、斜面対策を集中的に実施し、防災強度を高めることで、運転規制の緩和を行なった事例や、被災後に当該区間の運転規制を強化した事例など、適宜、適切に運転規制の見直しを行っています。
そのほか、局所豪雨をとらえる目的で、一部路線の一部区間で解析雨量による運転規制を導入しています。
地震災害への取り組み
(1)耐震補強及び落橋防止対策
国が定める省令や通達に基づき、南海トラフ地震で震度6強以上が想定される地域や、1日当たりの平均片道断面輸送量が1万人以上の線区における、高架橋や橋りょうについて優先的に耐震補強や落橋防止対策等のハード対策を実施しています(写真9)。
(2)津波対策
南海トラフ地震による津波が予測される路線においては、津波警標を整備し、津波発生時に浸水想定エリアに列車を停車させない、または進入させない対策を実施しています。
そのほか、お客さまや乗務員が安全に避難するための避難経路や避難場所の整備(写真10)を行うとともに、有事の際にお客さまと乗務員が迅速に避難できるように、関係自治体等と連携した避難訓練を定期的に実施しています(写真11)。
(3)運転規制(地震)
地震波を計測するため、おおむね20km間隔で全48カ所に地震計を設置しています。
地震動の大きさを加速度で表したガル値が閾値に達した場合と、緊急地震速報が発令された場合に、当該区間に在線の全列車に対し、一斉に緊急停止の措置を行っています。その後、計測震度の値に応じて、適切な運転規制を実施しています。
おわりに
鉄道構造物の老朽化が進む一方で、激甚化する自然災害に対応していくためには、日頃の構造物検査において健全度を適切に評価し、補修・補強工事等の必要な措置を講じ、維持管理のPDCAサイクルを適切にまわしていくことが重要です。
一方で、不測の事態への備えとして、あらゆるIoT技術等を駆使し、危険なときに列車の運行を中止させる措置を講じることも重要であり、気象観測技術やモニタリング、センシングの技術により、安全・安定輸送のさらなる高度
化を実現し、地域のみなさまの豊かな暮らしを支える企業としてたゆまぬ努力を続けていきたいです。
鉄道就活応援隊編集部より
今回の記事の提供にご協力をいただいたのはJR九州ですが、ほかの鉄道事業者においても、災害への備えとしては類似・共通の取り組みが多いです。線路への被害を最小限にとどめ、異常があった際には列車を止め、乗客の安全を確保するための様々な取り組み・取り決めがなされています。
日ごろ鉄道を利用する私たちの目には直接触れないところでも、安全を守るために多くの工夫が施されているのが分かっていただけたことと思います。
そして、減災・防災のための取り組みについては、運行の主体となる鉄道事業者はもちろん、鉄道土木に強い土木会社など、多くの企業が安全を守るために様々な知恵を出しながら取り組みを行っています。ぜひ、どんな企業があるのか調べてみてください。
また、以下の記事では、鉄道施設の業界にはどのような企業があるのか、タイプ別の分類や、JR東日本エリアに関しては実際の企業の名前についても取りあげています。ぜひ参考にしてみてください!
なお冒頭に記載した通り、今回の記事の内容は、運輸交通業の"今"が分かる専門情報誌、『JRガゼット』2023年8月号に掲載された、JR九州 鉄道事業本部 工務部 工事課 林真一郎さんの「JR九州における鉄道構造物の防災・減災対策」から内容を一部編集(注釈を入れるなど)し、転載したものです。
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