球団にホテルに観光に 多彩な顔を持つ鉄道会社【就活生向け・決算短信を読む⑭西武鉄道】
この記事では、西武鉄道が所属する西武グループの持株会社、西武ホールディングスの決算短信に掲載されている収益の数字や事業構成などを通じ、西武鉄道の今が分かることを目指します。
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西武鉄道とは
西武鉄道は西武グループの中核企業であり、西武新宿と本川越を結ぶ新宿線、池袋と西武秩父を結ぶ池袋線・秩父線を中心として、東京都と埼玉県に176.6kmの路線を持つ大手私鉄です。
その生い立ちはやや複雑ですが、源流は1892年に設立された川越鉄道、そして1912年に設立された武蔵野鉄道に求めることができます。その後、様々な事業者の合併を経て、戦後間もない1946年に現在の西武鉄道が誕生しました。
戦後は遅れていた複線化を急ぎながら輸送力強化に取り組み、1963年には私鉄初の10両編成運行が開始。1968年には、西武特急の代名詞であった初代「レッドアロー」5000系が運行開始しました。
1950年代から60年代にかけては「プリンスホテル」のブランドでホテル事業がめざましく成長。1970年代には不動産分譲が拡大、1978年にプロ野球球団を傘下に収める(西武ライオンズ)など、関連事業が発展を続けました。
1971年には西武百貨店などの流通事業が別グループ(のちのセゾングループ)に分かれるという出来ごともありましたが、西友ストアーが出店する際は西武鉄道が土地を貸し、ライオンズが優勝した際には西武百貨店が優勝セールを実施するなど、友好的な関係は続きました。
しかし、2004年には有価証券報告書の虚偽記載が発覚したことなどをきっかけとして経営陣が交代、最終的に西武鉄道は上場廃止に至りました。東証一部上場企業でもある西武鉄道の不祥事、そしてその後の上場廃止は社会に衝撃を与えました。
そのような厳しい状況の中で、西武グループは内部統制の強化、西武ホールディングスを設立して持株会社方式に移行するなどのグループ再編、財務体質の改善などにより再建を果たし、2014年に西武ホールディングスとしての上場を達成しました。
営業収益・営業利益・経常利益
まずは基本の数字、ということで西武鉄道の営業収益・営業利益・経常利益について見ていきましょう。
新型コロナウイルス感染症の影響による行動制限の解除により対前期で増収増益となり、3期ぶりの黒字転換を達成。セグメント利益についても、全セグメントで黒字となりました。
コロナ禍の影響がまだ少なかった2020年3月期と比べると以下の通りです。
コロナ禍で受けた打撃からの回復は途上であるものの、営業収益の減少幅と比較すると各利益の減少幅は小さく、決算短信の「当期の経営成績の概況」で述べられているような「車両運用の見直しや業務の内製化などの固定費削減につながる取り組み」などによる支出削減が実を結んでいるものと思われます。
ただ鉄道利用において、定期利用の戻りが悪いのは今後を考えるとやや気になるところです。
なお2024年3月期については、各セグメントで引き続きの増収、不動産セグメント以外で増益を見込んでいます。
【就活生注目】西武鉄道の特徴・事業構成
ここからは、決算短信から読み取れる西武鉄道の特徴を探ってみましょう。まずは事業構成と収益構造からということで、セグメント別の営業収益の割合は以下の通りです。
ホテル・レジャー事業の割合が大きいこと、そしてもう一つの特徴としては、ほとんどの大手私鉄に見られる流通業のセグメントがないことです。これは「西武鉄道とは」で先に触れたとおり、1971年に当時の西武グループの流通事業がまとめて別グループ(後のセゾングループ)に分離したためです。
営業収益ではトップのホテル・レジャー事業はプリンスホテルをはじめとするホテル事業、ゴルフ場・スキー場経営などのリゾート事業を展開しています。
都市交通・沿線事業には、鉄道事業やバス事業、タクシー事業のほか、駅ナカ店舗の「TOMONY」、沿線のレジャー施設である「西武園ゆうえんち」などが含まれます。
不動産業は、不動産賃貸事業などを展開しています。営業収益では全体に占める割合が約2割にも満たないですが、営業利益ベースでは最も多くの利益を生み出すセグメントです。
その他のセグメントにはプロ野球球団である埼玉西武ライオンズなどが含まれます。
鉄道事業の特徴と強み
強み:秩父方面への観光輸送
西武線は、地元に密着した通勤・通学利用の路線としての顔だけではなく、沿線に観光地を複数抱える観光路線としての顔も持つ路線です。
そんな西武鉄道の看板列車として存在感を発揮しているのが「ラビュー」の愛称で親しまれる001系でしょう。
球形ガラスを採用した先頭部分や座席横の天地方向に大きな窓などが印象的な同車は、観光地である秩父方面への特急「ちちぶ」などで運行されており、とても目を引く存在です。
また、同じく秩父方面には「旅するレストラン」と題される観光列車「52席の至福」も運行されており、こちらは落ち着いたインテリアの車内で人気シェフの監修する料理を楽しめる専用列車として人気を博しています。
秩父市が公表している観光入込客数はコロナ禍前の2019年で5,375,700人と、世界遺産を抱え国際的な知名度の高い日光市の日光地域(6,258,445人)と比較しても遜色ない数字です。
都心から秩父エリアへのアクセスを担っているのは、西武鉄道にとって大きな強みと言えます。
秩父エリア以外にも観光地としては川越や飯能があり、また、西武園ゆうえんち、としまえん跡地に開業した「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京」といったレジャー施設が多いのも西武鉄道沿線の特徴です。
近年目立つ特徴:鉄道業界の他社と協力
近年の西武鉄道では、他の鉄道事業者と協力する動きが目立っています。
たとえばJR東日本との間では、2020年12月には西武鉄道とJR東日本が包括的な連携を開始することを発表し、西武線沿線への「STATION WORK」導入やハイキングイベントの共催といった営業面での協力を進めてきました。
それに加えて2022年9月には鉄道技術分野での協力も発表しています。
また、2023年9月には東急電鉄・小田急電鉄から約100両の車両を導入することが発表され、近年では珍しい大手私鉄同士の車両授受として注目されました。
車両を新造するよりコストが抑えられるほか、消費電力の少ない制御方式を採用した車両を導入することで、旧式の制御方式を採用した車両を置き換え、使用電力の削減につなげるのが狙いです。
技術開発や新設備を導入する際のコスト削減、環境負荷の低減など、他社との協力には様々なメリットがあります。
西武鉄道だけに見られる動きというわけではありませんが、ここ数年の西武鉄道の特徴の一つとして、他社との協力にも積極的である、ということを頭に入れておいて損はありません。
西武グループ内で西武鉄道以外の鉄道にかかわる企業
西武グループには、神奈川県・静岡県に路線を持つ伊豆箱根鉄道、滋賀県に路線を持つ近江鉄道といった鉄道事業者があり、いずれも西武鉄道からの譲受車が活躍するなどのつながりがあるほか、鉄道電気工事などを担う西武電設工業があります。
詳しくは西武グループWebサイトの企業一覧をご覧ください!
西武グループとしての強み
ここまでは、西武グループの中でも鉄道事業に着目して取りあげてきました。ここではグループとしてみたときの強みについて取りあげます。
①豊富な不動産資産
西武グループは、その歴史的経緯から不動産事業の強い大手私鉄です。
グループ内の不動産会社として存在したコクド(2006年に解散)は戦前から軽井沢や万座、箱根といった地域で積極的に不動産を取得し、開発に乗り出しています。宅地分譲にも取り組み、沿線にとどまらず鎌倉などでも大規模な建売住宅の販売を行いました。
現在でも不動産事業は西武グループにおいて最も多くの営業利益を稼いでいるセグメントであり、またホテル・レジャー事業も保有する不動産によって支えられているビジネスであったといえます。
しかしそんな西武グループにおいても、コロナ禍を経た近年は保有する資産(アセット)を圧縮する傾向が見られます。
とあるように、2023年3月期においてもホテルなどの売却がありました。
従来国内のホテル事業は所有と運営が一体である経営が中心でしたが、近年では所有と運営を分離して、それまでのホテル事業者が運営に専念する動きが相次いでおり、西武グループの資産売却もこれに追随するものであるといえます。
保有する不動産を整理しつつ、いかに収益に結び付けられるか、今後に注目です。
②プリンスホテル・埼玉西武ライオンズのブランド力
品川プリンスホテルなどの知名度の高いホテルが複数所在するプリンスホテル、そしてプロ野球球団の埼玉西武ライオンズ。
鉄道会社、しかも大手私鉄とあっては沿線で知られているのは当然にしても、このように全国的に知名度の高いブランドを複数保有している鉄道会社は珍しいです。
知名度の高さは、販売促進や人材獲得などにメリットを発揮します。これは西武グループにとってもう一つの強みです。
決算短信から読む西武鉄道の今後とまとめ
短期的には、インバウンドの回復を含めたコロナ禍の反動により増収の傾向が続くものと思われます。ただ、鉄道利用において定期乗車の戻りが悪いのはやや気になるところです。
一方、中長期的なことに目を向けると、他社同様に沿線人口の大幅な伸長は難しい状況です。
西武鉄道においては、秩父方面への観光需要を含めた沿線価値の維持向上、西武グループとしては主力のホテル・レジャー事業のさらなる収益力強化が達成できるか、という点がポイントとなると思われます。
関連リンク
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また「鉄道ゲンバ最前線」では、西武鉄道沿線に本社が所在し、池袋線のレール溶接工事を請け負っている全溶の社員の方にインタビューした記事も掲載中です。ぜひご覧ください!
今後も、鉄道事業者については、売上高の規模の違いなどに留まらず、グループ全体の売上や利益について鉄道事業が占める割合の違いなどに注目して取りあげていきたいと考えています。もちろん鉄道事業者以外の企業についても取りあげる予定ですので、お楽しみに!
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