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スカイツリーから世界遺産まで:観光地へのアクセスと輸送人員の多さが強み【就活生向け・決算短信を読む⑪東武鉄道】

スカイツリーの建設にかかわり、世界的な観光地である日光へのアクセスも担う鉄道会社はどこでしょうか。
今回取りあげるのは、その答えである東武鉄道の2023年3月期決算短信です。この記事では、東武鉄道の決算短信に掲載されている収益の数字や事業構成などを通じ、東武鉄道の今が分かることを目指します。


東武鉄道とは

東武鉄道は東武グループの中核をなす鉄道事業者です。浅草~伊勢崎間を結ぶ伊勢崎線、東武動物公園~東武日光間を結ぶ日光線、池袋~寄居間を結ぶ東上線といった路線を中心に、東京、千葉、埼玉、栃木、群馬の1都4県に463.3km(営業キロ)もの路線を保有しています。

東武鉄道が創立されたのは1897年、最初に路線が開業したのは1899年のことで、区間は現在の伊勢崎線の一部にあたる北千住~久喜間39.9kmでした。
その後は他社の買収なども行いつつ北関東を中心に路線を広げていき、戦中に総武鉄道(現:東武野田線)を買収したところで現在の路線網が概ね完成します。

戦後は、中断していた特急列車の運行を1949年に再開。日光への送客を国鉄(現:JR)と競い、豪華車両「デラックスロマンスカー」を投入するなどサービス面の改良、そしてスピードアップを重ねました。その後も日光方面への特急列車には東武鉄道の顔となる車両が投入され、1990年には「スペーシア」、そして2023年7月には新型特急車両「スペーシアX」がデビューしています。

また、通勤需要への対応として、1974年には伊勢崎線で関東の私鉄で初となる複々線化を実現。その後も10両編成化や北千住駅の3層化、複々線区間の延長などを遂行し、混雑の緩和を図ることとなります。

一方、平成に入ると新たな東武の顔が誕生しました。
それが、2012年に伊勢崎線の旧業平橋駅の貨物駅跡地に開業した東京スカイツリーです。
東京スカイツリーの建設や周辺商業施設の開発は東武グループが事業主体となっており、完成した東京スカイツリー及びその直下の商業施設、東京ソラマチは東京の観光名所としてにぎわっています。

営業収益・営業利益・経常利益

まずは基本の数字、ということで営業収益・営業利益・経常利益について見ていきましょう。

営業収益:6,148億円(対前期21.5%増)
営業利益:567億円(対前期129.2%増)
経常利益:548億円(対前期100.0%増)

東武鉄道「2023年3月期決算短信」より

いずれの数字も対前期で大幅に改善しています。
コロナ禍の行動制限が撤廃されたことによる需要回復や固定費の抑制によって運輸事業は増収増益、レジャー事業、流通事業ではセグメント利益が黒字に転じるなど、複数の事業で回復基調が見られました。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響が比較的軽微だった2020年3月期と比べてみると、以下の通りとなりました。

「2023年3月期決算短信」「2020年3月期決算短信」より編集部作成

コロナ禍の影響からの回復は途上であるものの、営業収益の減少幅と比較すると営業利益・経常利益の減少幅は少なく、固定費削減の効果が出ているものとみられます。

2024年3月期は営業利益・経常利益ともにいずれも対2023年3月期で減収減益を見込んでおり、2023年8月2日に公開された2024年3月期第1四半期決算短信においても通期の業績予想は据え置かれました。
なお2024年3月期第1四半期では、営業利益、経常利益などの数値でそれぞれ過去最高を更新しています。

【就活生注目】東武鉄道の特徴・事業構成

ここでは、決算短信から読み取れる東武鉄道の特徴を探ってみましょう。まずは事業構成と収益構造からということで、セグメント別の営業収益の割合は以下の通りです。

ここまで紹介してきた大手私鉄各社同様、極端に割合の多い事業のないバランス型の収益構造です。特徴としては、営業収益においてレジャー事業の割合が高く、不動産事業の割合が低めなことがあげられます。

僅差で最多となったレジャー事業は、東京の観光名所であるスカイツリーの運営をはじめとして、ホテル運営、旅行業などを行っています。
日光で著名な宿泊施設である日光金谷ホテルもここに属します。

運輸事業では、祖業である鉄道事業のほか、バス、タクシーなどの営業を行っています。

東武百貨店に代表される流通事業では、百貨店、スーパーマーケット、コンビニエンスストアなどの営業を行っています。

不動産事業では、駅ビルや駅付近のビル、住宅を中心とした賃貸事業を展開するほか、「Solaie(ソライエ)」ブランドで分譲住宅事業を展開、また子育て支援やサテライトオフィスなどを提供する生活サービス支援事業も行っています。
営業収益ではグループ全体に占める割合は多くないですが、実は利益率が最も高いセグメントです。

鉄道事業の特徴と強み

特徴:豊富な輸送人員と多彩な性格の路線網

東武鉄道は1都4県にわたる広い範囲に路線を保有し、現在も近鉄に次いで2位の路線長を誇ります。
また、長さだけではなく輸送人員も多いため、大手私鉄の中では鉄軌道事業の営業収益が東京メトロに次ぐ2位です(2022年度)。

その路線網は本線系統と東上線系統の2つに大別され、その中にも様々な性格の路線があるのが特徴の一つです。

  • 通勤・通学輸送がメインで最長10両の列車が行き来する伊勢崎線南部(愛称:スカイツリーライン)や東上線

  • 観光輸送がメインで特急「スペーシアX」やSL列車も運行される日光線・鬼怒川線

  • ビジネス利用がメインで特急「りょうもう」が運行される伊勢崎線北部

伊勢崎線には私鉄最長の複々線区間が建設されたほどの輸送量を持ち、東上線もほとんどの区間で10両編成を実施するなど、通勤・通学輸送の旺盛な需要が存在します。
一方、長大な路線網の中には輸送量が少ない区間もあることから、ワンマン運転の導入や駅の無人化といった合理化にも取り組んでいます。

強み:日光など観光資源を豊富に抱えた地域へのアクセス

そんな東武鉄道のもう一つの特徴であり強みであるのは、世界的な観光地である日光へのアクセスを担っていることです。日光へは看板列車である「スペーシアX」が運行されるほか、鬼怒川線と合わせてSL列車が運行されており、東武の顔として、またレジャー事業との関わりにおいて重要な意味を持っています。

ただ、現状では日光へのアクセスはマイカーが優勢です。
少し古いデータですが、2015年度に日光市が実施した「日光市観光振興計画に基づく観光実態調査」では、日光市までのアクセスについて、日本人観光客では日帰り・宿泊共にかなりの割合でマイカーが優勢となっているのがわかります。

「日光市観光振興計画(改訂版)」より引用

この状況に対し、2021年にサービス開始した環境配慮型・観光MaaS「NIKKO MaaS」では、公共交通機関の環境優位性や、きっぷと観光地のチケットがスマホ一つで買える利便性などをアピールしており、鉄道利用の増加や、日光への観光需要の掘り起こしに挑んでいます。
新型特急車両「スペーシアX」のデビューと合わせ、今後の需要増加につながるかが注目です。

一方、外国人観光客に目を向けると、そのほとんどが鉄道を利用しているのがわかりますが、こちらではJRがやや優勢です。

都心への所要時間で優れる東武鉄道がJRに劣っているのは、訪日外国人向けの割安なJR企画きっぷの存在などが原因と推測されますが、コロナ禍明けの訪日外国人の増加も考慮すると、今後このシェアをどこまで奪えるか、というのも日光へのアクセスを考えるうえで重要なポイントでしょう。

補足:2019年に実施された「日光市観光振興計画に基づく観光実態調査」ではより新しいデータが示されていますが、大まかな傾向が変わらないこと、そして外国人観光客のデータが乏しいことより古いデータを引用しました。

東武グループ内で東武鉄道以外の鉄道にかかわる企業

鉄道の土木・建築・軌道工事などにかかわる東武建設東武谷内田建設、電気や通信にかかわる工事を担う東武電設工業、鉄道車両のメンテナンスを担う東武インターテック、駅での業務を担う東武ステーションサービスといった子会社があります。
詳しくは東武鉄道のWebサイトにある「グループ会社一覧」のページもご覧ください。

鉄道事業とそれ以外の事業の関わり

ここまでは、東武鉄道の中でも鉄道事業を中心に取りあげました。ここからは鉄道事業とそれ以外の事業の関わりを解説します。

レジャー事業

日光線の開業した戦前より、日光、そして隣接する鬼怒川温泉の開発は東武鉄道にとって一大事業でした。

近年では、2016年に日本で最初のリゾートホテルといわれる日光金谷ホテルを買収、2021年には社内に「観光事業推進部」を新たに設立し、先述した「NIKKO MaaS」をリリースするなど、レジャー事業の発展には積極的な姿勢を見せています。

流通事業

決算短信でも触れられているように、近年の施策の中では、ECサイト「TOBU MALL」のオープンや、グループの共通ポイント「TOBU POINT(トブポ)」といった囲い込みの施策も講じられています。

就活生の皆さんとしては、これまで鉄道就活応援隊で紹介してきたJR東日本の「JRE POINT」やJR西日本の「WESTERポイント」同様、鉄道を利用する顧客をはじめとしたグループ顧客の囲い込み、顧客情報の蓄積およびその活用といった狙いがあることを押さえておきましょう。

また、流通事業でいえば、伊勢崎線の起点である浅草駅には松屋浅草が直結、東上線の起点である池袋駅には東武百貨店があります(ただし、株式会社松屋には東武鉄道の出資はあるものの、東武グループではありません)。

東武百貨店の業績もコロナ禍で落ち込みましたが、決算説明会で株主から「百貨店事業は現状のまま継続するのか」と問われ

グループの主力事業として業態の変更なく続けていく。(中略)沿線の付加価値向上の面においても、多くのお客様に商品提供をする百貨店事業は鉄道を始めとする当社グループにとって重要な役割を担うものと考えている。

「2022 年度 決算説明会 主な質疑応答」より

と答えたとおり、百貨店単体の収益力だけではなく、鉄道事業との関係性についても重視しているようです。

不動産事業:池袋駅周辺再開発と沿線価値向上

その東武百貨店でも最大規模の店舗がある池袋駅西口では、現在再開発の計画が進行中。東武鉄道も参画する池袋駅西口地区市街地再開発準備組合による事業と、東上線の鉄道敷地内の東武鉄道単独事業、2つの事業の計画が進められています。

完成すれば、池袋駅周辺地域の回遊性が上がり、町としての価値がさらに向上するものとされています。
この事業計画については東武鉄道の採用サイトでも取りあげられているので、再開発に興味のある方はぜひご覧ください。

また、不動産事業では「Solaie(ソライエ)」ブランドで分譲住宅事業を展開するほか、サテライトオフィス事業を展開するといった新たな世情にも対応した動きを取り入れており、他の私鉄同様、沿線価値の維持向上に取り組んでいることがわかります。

決算短信から読む東武鉄道の今後とまとめ

鉄道事業についていえば、まず短期的には他社と同様にコロナ禍で一時的に減少した需要の回復傾向がしばらく続くと思われます。

長期的には、地方路線を中心とした利用者の減少に向き合いつつ、

  • 不動産事業を通じて沿線地域の価値を維持向上することによる通勤利用者の維持

  • 日光やスカイツリーなど観光地としてポテンシャルの高いエリアを沿線に持つメリットを最大限に活用した観光需要のさらなる発掘

この両輪で収益の維持ができるか、といった点がポイントになるものと思われます。

関連リンク

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今後も、鉄道事業者については、売上高の規模の違いなどに留まらず、グループ全体の売上や利益について鉄道事業が占める割合の違いなどに注目して取りあげていきたいと考えています。

もちろん鉄道事業者以外の企業についても取りあげる予定ですので、お楽しみに!

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