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地元密着とグローバル、2つの顔を持つ鉄道会社【就活生向け・決算短信を読む⑲西日本鉄道】

この記事では、福岡を中心に九州で事業を展開しながら、国際的な事業も多く展開する西日本鉄道の決算短信に掲載されている収益の数字や事業構成などを通じ、西日本鉄道の今が分かることを目指します。

そして、鉄道業界各社の決算短信については、こちらのリンクから交通新聞電子版の記事が読めます。JR各社や大手私鉄の決算短信について、有料記事を特別に全文公開です!

>>交通新聞電子版「決算」検索結果

リンク先では、鉄道業界の様々な企業の決算短信についても分析がありますので、ぜひご参照ください。


西日本鉄道とは

最新車両の9000形。 撮影:交通新聞クリエイト

西日本鉄道は、福岡県内に106.1km(営業キロ)の路線を保有する大手私鉄であり、国内外に広く事業を展開する西鉄グループの中核企業です。

西日本鉄道の起源は1908年に設立された九州電気軌道ですが、現在のメインルートである天神大牟田線をはじめとした各線は、戦時中に合併した他の鉄道事業者から引き継いだものです。
九州電気軌道はこの合併直後に商号を西日本鉄道と変更し、現在に残る路線網の骨格が完成しています。なお、後述するバス事業はこのとき既に存在しています。

戦後は、多角的な事業展開を推し進めていきました。

物流業においては、1948年に国際物流事業に参入、1958年には海外向けの混載事業を開始しています。
国際物流事業の拡大が続き、1971年にはアメリカに現地法人としてNNR AIRCARGO SERVICE(U.S.A.)INC.を設立しています。

流通業においては、1961年に福岡駅高架下に「西鉄名店街」が開業(再開発に伴い現在は閉店)、1969年に西鉄ストアが設立されています。

鉄道業においては、現在の天神大牟田線にあたる大牟田線を中心に輸送力の増強を進めていきました。
1959年には特急列車の運転を開始し、翌年には所要時間を5分短縮して福岡~大牟田間70分となるスピードアップを達成しています。
また、輸送量の増加に伴い、1965年には6両での運転も開始しています。

一方で、道路事情の変化などにより、福岡市内や北九州市内に抱えていた軌道線は縮小され、最終的には2000年に事実上全廃となりました。

今日では、福岡県を中心とした九州で鉄道やバス、小売といった地域密着の事業を展開しながら、国際物流事業や海外不動産事業も展開するグローバルな事業展開も行う企業として存在感を発揮しています。

営業収益・営業利益・経常利益

まずは基本の数字、ということで西日本鉄道の営業収益・営業利益・経常利益について見ていきましょう。

営業収益:4,946億円(対前期15.8%増)
営業利益:262億円(対前期150.2%増)
経常利益:279億円(対前期100.0%増)

西日本鉄道「2023年3月期決算短信(連結)」より

コロナ禍の影響からの回復などにより対前期で増収増益でした。
なお、コロナ禍の影響が少なかった2020年3月期と比べると以下の通りです。

2020年3月期比でも増収増益という、「決算短信からわかる!」シリーズで大手私鉄各社を取りあげてきた中でも極めて珍しいパターンです。その原因を探ってみるために、営業収益の推移をセグメント別に見てみることにしました。

西日本鉄道「セグメント別損益の推移(連結)」より作成 ※セグメント間の内部営業収益又は振替高の調整前の数字

グラフを見ると、紫色の物流業において営業収益が大幅に増えているのがわかります(目立たせるために数字を振っています)。グラフではオレンジ色の運輸業がコロナ禍で打撃を受けているのとは対照的です。

これは営業利益においても同様で、コロナ禍の影響が直撃した運輸業が赤字を計上する一方、2022年3月期以降、物流業における利益が不動産セグメントと並んで西日本鉄道の稼ぎ頭となっている構造です。

つまり、2023年3月期における西鉄グループ業績が2020年3月期と比較して増収増益となっているのは、この物流業の貢献が非常に大きいから、ということです。
次の項では、そんな西日本鉄道のセグメントについて詳しく見てみましょう。

【就活生注目】西日本鉄道の特徴・事業構成

西日本鉄道のセグメント別営業収益の割合は以下の通りです。

私鉄によくみられるバランス型の構成ですが、鉄道を含めた運輸業の割合が低く、物流業の割合が高いのが特徴です。

物流業は、営業収益の半分近くを稼ぎだすセグメントです。
西日本鉄道内の国際物流事業本部が担当する国際物流、子会社の西鉄運輸・西鉄物流が担当する国内物流に分かれます。
物流業があげている営業収益のうち、「NNR」のブランド名で認知される国際物流が96%を占めているのが特徴です。

不動産業では、賃貸・分譲の物件の販売・管理などを行っています。国内にとどまらず、海外での開発事業も展開しています。

運輸業では、天神大牟田線などの路線を運営する鉄道業、日本最大級の規模を誇るバス事業などがあります。

流通業では、西鉄ストアが福岡県や佐賀県に「にしてつストア」「レガネット」などの小売店を展開しているほか、インキューブ西鉄が雑貨店を九州・本州に展開しています。

レジャー・サービス業では、複数のブランドでホテルを展開しているほか、だざいふ遊園地、マリンワールド海の中道の2つのレジャー施設を展開しています。

その他のセグメントには、ICカード事業、車両整備関連事業などの事業が入ります。

西日本鉄道の鉄道事業の特徴

福岡市の発展に支えられる旺盛な需要と、筑後地域の魅力発信

以前にJR九州の記事でも取りあげましたが、天神大牟田線の始発駅がある福岡市は、政令指定都市の中で最も高い人口増加率を示しています(2015年~2020年の数値・第21回国勢調査より)。
また、西鉄福岡(天神)駅のある天神エリアは、福岡市における商業の中心地として重要な位置を占めてきました。

近年はやや離れた博多エリアに商業施設が充実してきましたが、当然西鉄グループも手をこまねいているわけではなく。第16次中期経営計画(2023年~2025年)においては「天神ビッグバンを牽引する大型PJの推進」がキーワードとして掲げられ、

九州広域MaaS の構築、国内外からの観光・MICE需要の取込み、福ビル街区建替プロジェクトの完遂、 福岡・天神のまちづくりを牽引する大型プロジェクトなどを着実に推進します。

「西鉄グループ第 16 次中期経営計画(2023 年度~2025 年度)の策定について」より

と天神エリアの魅力維持・向上に強い意欲を見せています。今後も天神エリアの地位が高いものであれば、アクセス路線としての西日本鉄道の路線の価値もまた維持されるでしょう。

一方で、天神大牟田線の終点である大牟田駅のある大牟田市は、基幹産業であった石炭産業の衰退もあり、1959年をピークに人口は減少を続けています。
そのような状況において、西日本鉄道は2019年3月、筑後地域の魅力を発信する列車として、観光列車「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」を運行開始。
車内には窯を備え筑後地域をはじめとした九州の旬の食材を使った料理を提供するなどの工夫が凝らされています。

観光列車「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」 撮影:交通新聞クリエイト

西日本鉄道への入社を考えている方は、路線の一部地域で進む人口減少への対応をはじめとする課題意識もしっかりと押さえておきたいところです。

西日本鉄道以外の、西鉄グループ内で鉄道に関わる企業

福岡県の北九州市およびその周辺で鉄道事業を営む筑豊電気鉄道や、車両や土木、電気、電子通信の4つの部を持ち技術面で安全運行を支える西鉄エンジニアリングといった企業があります。

詳しくは西鉄グループのWebサイトもご覧ください!

西鉄グループとしての強み

強み:地域密着とグローバル事業の両輪

地元福岡では、鉄道に加え「西鉄バス」の印象が強い西日本鉄道。一般路線バスは福岡市内を中心に郊外まで路線網を持つほか、都市間を結ぶ高速バスも展開。
グループ会社もあわせると、保有台数や輸送人員、走行距離は全国トップクラスの規模を誇ります。

一方、ここまで触れてきた通り、西日本鉄道の収益に大きく貢献しているのが国際物流事業です。グループ内で国際物流事業が大きな営業収益をあげているのは、以前紹介した近鉄グループと近鉄エクスプレスの関係に近いものがあります。

グローバルな事業であるだけに価格変動や政治的な諸問題の影響を受けやすいという弱点はあるものの、今後も不動産事業と並んでグループの稼ぎ頭として存在感を発揮していくことでしょう。

鉄道会社として、またバス事業者、流通業者、不動産業者などとして地元密着の事業を展開しながらも、国際物流事業でグローバルな事業展開をする二面性が、西鉄グループの特徴であり強みと言えます。

決算短信から読む西日本鉄道(西鉄)の今後

短期的にはコロナ禍の影響が低減することで、運輸業、レジャー・サービス業を中心として増収が見込まれるところです。一方、国際物流事業においては高騰していた販売価格が落ち着くことから、2024年3月期決算は減収減益が見込まれています。

中長期的には、運輸業や流通業を中心として、他社同様に沿線地域での人口減少によるマイナスの影響が予測されます。
利益を生み出している不動産事業や物流事業においては収益を維持・向上しつつ、鉄道業やバス事業などにおいて構造改革と収支改善を継続していくことができるかが西鉄グループの今後において重要な点となるでしょう。

まとめ

関連リンク

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今後も、鉄道事業者については、売上高の規模の違いなどに留まらず、グループ全体の売上や利益について鉄道事業が占める割合の違いなどに注目して取りあげていきたいと考えています。もちろん鉄道事業者以外の企業についても取りあげる予定ですので、お楽しみに!
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