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ロマンスカーのブランド力と不動産事業に特徴のある鉄道会社【就活生向け・決算短信を読む⑫小田急電鉄】

関東在住なら一度は見たことのあるロマンスカーのテレビCM。特徴のある車体のデザインと沿線風景を合わせた映像は、見た人に「ロマンスカーに乗って旅行に行きたいな」と思わせるようなものばかりですよね。
今回は、そんなロマンスカーを運行する小田急電鉄の2023年3月期決算短信を取りあげます。

この記事では、小田急電鉄の決算短信に掲載されている収益の数字や事業構成などを通じ、小田急電鉄の今が分かることを目指します。

そして、鉄道業界各社の決算短信については、こちらのリンクから交通新聞電子版の記事が読めます。JR各社や大手私鉄の決算短信について、有料記事を特別に全文公開です!

>>交通新聞電子版「決算」検索結果

リンク先では、鉄道業界の様々な企業の決算短信についても分析がありますので、ぜひご参照ください。


小田急電鉄とは

小田急電鉄は小田急グループの中核企業であり、新宿と小田原を結ぶ小田原線を中心として、東京都と神奈川県に120.5kmの路線を持つ大手私鉄です。

そんな小田急電鉄の前身、小田原急行鉄道が設立されたのは1923年。小田原線が開業したのは1927年のことです。その2年後には江ノ島線も開業しています。
1941年には社名を小田急電鉄に改称し、戦中には東京横浜電鉄(現在の東急電鉄にあたる会社)との統合などを経て、戦後の1948年にはふたたび新たな小田急電鉄として独立します。

独立間もない1950年には芦ノ湖で観光船を運航する箱根観光船を設立し、さらには小田原線から箱根登山鉄道への乗り入れを開始するなど、箱根エリアの観光開発に乗り出します。
そのほか、流通業や不動産業をはじめとした事業の多角化を進めました。新宿に小田急百貨店本店が開業したのは1962年、小田急不動産が設立されたのは1964年のことです。

鉄道業では、1957年に特急列車用の車両として3000形(SE)がデビュー。革新的な外装と高速性能を兼ね備えた車両として小田急ロマンスカーの名を高めました。その後も小田急ロマンスカーには数々の名車がデビューしており、2018年には最新の70000形(GSE)が登場しています。

複々線区間を走る最新型のロマンスカー70000形(GSE) 撮影:交通新聞クリエイト ※プライバシーに配慮し画像の一部を加工しています。

他方では、通勤輸送の需要が増加。対応として、ターミナル駅である新宿駅の改良や、列車の長編成化といった輸送力の増強が進められました。
1974年に多摩線が開業、1978年には営団地下鉄(現東京メトロ)千代田線との直通運転を開始したところで現在の路線網が完成しました。

その後、長い年月を費やしながらも2018年には悲願だった複々線化が完了。朝ラッシュ時のダイヤが改善されたほか、特急列車の所要時間も短縮されました。
現在は、箱根や江ノ島などの観光地へのアクセス路線の顔と、沿線での通勤・通学輸送を担う路線の顔、2つの顔を持ち、多くの利用者を運んでいます。

営業収益・営業利益・経常利益

まずは基本の数字、ということで小田急電鉄の営業収益・営業利益・経常利益について見ていきましょう。

営業収益:3,952億円(対前期10.1%増)
営業利益:266億円(対前期332.4%増)
経常利益:251億円(対前期434.5%増)

小田急電鉄「2023年3月期決算短信(連結)」より

行動制限の撤廃による鉄道やバス、ホテルの利用増などにより、対前期で増収増益となりました。では、コロナ禍の影響が軽微だった2020年3月期の数字と比較すると、どうでしょうか。

「小田急電鉄 | 決算資料」掲載の各決算短信より編集部作成

比較すると、営業収益・営業利益・経常利益のいずれもコロナ禍の影響からは回復途上であることがわかります。

なお2024年3月期については、鉄道やホテルなどで利用者数の回復を見込んでいるほか、バリアフリー設備に必要な財源を確保するために運賃に一定額を上乗せする「鉄道駅バリアフリー料金制度」を適用したことなどにより増収増益を見込んでいます。

【就活生注目】小田急電鉄の特徴・事業構成

ここからは、決算短信から読み取れる小田急電鉄の特徴を探ってみましょう。まずは事業構成と収益構造からということで、セグメント別の営業収益の割合は以下の通りです。

運輸業を中心としながらも、多くの大手私鉄同様バランスの取れた構成となっています。新宿~小田原間の輸送などで競合するJR東日本と比較すると、その違いが一目瞭然です(JR東日本では営業収益ではなく売上高という表記になっています)。

「東日本旅客鉄道株式会社 | 2023年3月期決算短信」より作成。

営業収益の3分の1強を占める運輸業小田急電鉄江ノ島電鉄箱根登山鉄道による鉄道事業、小田急線沿線のみならず高速バスでも路線を展開するバス事業、タクシー事業などがあります。

流通業は、新宿に本店を構える小田急百貨店の百貨店事業や、沿線の住民向けのスーパーマーケットや、フランチャイジーとしてセブンイレブンの店舗を展開する小田急商事などがあります。

不動産業は、小田急線沿線を中心に不動産の分譲・賃貸などを行う小田急不動産、住宅事業やマンション管理事業などを行う小田急ハウジングなどがあります。
営業収益では全体に占める割合が約2割ですが、セグメント利益は約180億円あり、最も多くの利益を生み出すセグメントです。

その他の事業には、上記のセグメントに含まれない事業が入ります。たとえばホテル業、レストラン飲食業、旅行業、ゴルフ場業、鉄道メンテナンス業などです。

鉄道事業の特徴と強み

強み①「小田急ロマンスカー」のブランド力と箱根エリアの観光開発

小田急といえば、という質問で「小田急ロマンスカー」が答えにあがる人は多いでしょう。
見た人の記憶に残るデザイン、快適な車内、そしてテレビCMをはじめとした広告などにより小田原、そして箱根へのアクセス手段としての地位を確立していると言えます。

また、箱根エリアにある周遊コースのひとつ「箱根ゴールデンコース」を構成する「箱根登山電車→箱根登山ケーブルカー→箱根ロープウェイ→箱根海賊船→箱根登山バス」はすべて小田急グループの事業者です。このほか箱根エリアには小田急グループの運営するホテルもあります。

箱根は年間1,736万人もの入込観光客数を誇る一大観光地(2022年。出典は箱根町Webサイト)ということもあり、都心からのアクセスやエリア内の観光需要を受け止められるのは小田急グループにとっての強みなのです。

強み②距離あたりの運輸収入が上位

沿線に多くの観光地があり、ロマンスカーのイメージが強いと少し意外かもしれませんが、関東大手私鉄で比較すると、距離あたりの運輸収入では上位に食い込みます。

上位に来ている原因としては、沿線に多くの中核都市を分散して抱えるために輸送人員が多く、また平均輸送距離(乗客1人が利用する距離の平均)が14.4km(2020年度)と関東の大手私鉄では最長であることが挙げられます。

旅客運輸収入の総額や鉄道事業の営業利益(2023年3月期で約86億円)も多く、鉄道事業が小田急グループの柱の一つであることがわかります。

小田急グループ内で小田急電鉄以外の鉄道にかかわる企業

小田急グループには、小田急江ノ島線と藤沢駅で接続している江ノ島電鉄、小田急小田原線と小田原駅で接続している箱根登山鉄道、そのほか小田原線沿線の観光地である大山でケーブルカーを運行する大山観光電鉄といった鉄道事業者があります。

また、小田急線を中心に、鉄道施設や車両のメンテナンス、土木・建築の設計・コンサルタントなどを担う小田急エンジニアリングがあります。
なお「鉄道ゲンバ最前線」シリーズでは、小田急エンジニアリングの電気・軌道2部門の社員の方にインタビューした記事が公開中です。ぜひご覧ください!

鉄道事業とそれ以外の事業の関わり

ここまでは、小田急グループの中でも鉄道事業に着目して取りあげてきました。ここでは鉄道事業とそれ以外の事業の関わりを挙げます。

海老名駅周辺の開発(不動産業)

近年小田急グループが力を入れてきたプロジェクトの一つが、海老名駅周辺の開発です。

海老名駅があるのは新宿駅と小田原駅の中間付近。小田急線のほかに相鉄線、JR相模線が乗り入れる交通の結節点であるため、ポテンシャルの高い立地であったといえます。

海老名駅には2004年に小田急線の快速急行が、2016年には一部のロマンスカーが停車するようになったほか、2019年には相鉄線とJR線の直通運転が、2023年には相鉄線と東急線の直通運転がはじまったこともあり、さらに利便性が向上しています。

2002年には東口に小田急SCディベロップメントが運営する大型の複合商業施設「ビナウォーク」が、2014年には同じく複合商業施設の「ビナフロント」がオープン。
また、小田急・相鉄線の海老名駅とJR相模線の海老名駅との間では大規模開発プロジェクト「ViNA GARDENS(ビナガーデンズ)」も進行中です。
2023年2月には、小田急電鉄の本社機能が一部新宿から移転しました。

海老名駅周辺の価値向上に向けた取り組みはまだまだ続いています。

決算短信から読む小田急電鉄の今後とまとめ

短期的には、インバウンドの回復を含めたコロナ禍の反動により増収の傾向が続くものと思われます。

一方、中長期的なことに目を向けると、小田急電鉄は不動産事業を収益の第一の柱となるように成長させ、2030年度には営業利益を300億円にまで増やすことを目標としています(2022年度は約180億円)。

「小田急電鉄 | 経営ビジョンの実現にむけた具体的方針および中期経営計画」より引用

具体的には、従来の駅前商業施設の開発のみにとどまらず、まちづくりやコミュニティの活性化といったエリアマネジメントを実施したり、市街地の再開発に参入したりといった施策が想定されており、それらによって沿線にとどまらない、中核都市の地域全体を持続的に成長・発展させることを目指しています。

不動産事業の成長が成功すれば、鉄道・バス・流通などにも好影響を与えることでしょう。
小田急電鉄の今後は、この不動産事業の成長、そして新規領域として挙げられているデジタル領域での挑戦によって決まるものと思われます。

関連リンク

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今後も、鉄道事業者については、売上高の規模の違いなどに留まらず、グループ全体の売上や利益について鉄道事業が占める割合の違いなどに注目して取りあげていきたいと考えています。

もちろん鉄道事業者以外の企業についても取りあげる予定ですので、お楽しみに!

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