「VSEが初めて定期検査で入場したときは大変でした」幅広く経験を積み、ゲンバを支える職場長【社員インタビュー:小田急エンジニアリング 鉄道車両の整備】
鉄道に関わるお仕事に携わっている方へインタビューを通じて、その仕事についてのお話を伺う「鉄道ゲンバ最前線!」。
第14回目となる今回も株式会社小田急エンジニアリングにお邪魔しました。
今回お話を伺うのは、小田急電鉄をはじめとする車両の保守や修繕を担う、車両部 大野事業所 電機職場長の矢後実さんです。
矢後さんは現場一筋で積み上げてきた経験を活かし、部下であるゲンバの技術者を束ねる職場長。少し照れ屋で物静かな雰囲気ですが、部下の信頼は厚いと社内からも声が上がる程の職人です。
矢後さんが歩んできた技術者の道は、学生の皆さんが歩む将来の道にも重なりなす。是非自分が目指す将来の姿を想像しながらご覧ください。
それではどうぞ!
自己紹介と入社のきっかけ
――本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、自己紹介と入社のきっかけなどをお聞かせください。
矢後 今日はよろしくお願いします。株式会社小田急エンジニアリング 車両部 大野事業所 電機職場 職場長 矢後実(やごみのる)です。車両整備をする車両部の中にある電機職場という部門で、主に管理監督をする事務系の作業をしています。
この職種を選んだきっかけからお話しますね。父親が建設機械の整備関係の仕事をしていたこともあって、身近にあったせいか子供の頃から重機が好きで、夢はバックホー(油圧ショベル)のオペレーターになることでした。
高校生になっても機械関係の仕事をしたいと思っていて、専門学校ではヘリコプター整備科を選んだんです。なんかヘリコプターってかっこいいと思って(笑)。
――そこから鉄道に関わる仕事を選んだ経緯も教えてください!
矢後 本当は専門学校で学んだことを活かすためにヘリコプター整備の仕事をしたかったのですが、そういう仕事の求人は無かったんです。
自分に合った仕事を探しながらアルバイトをしている時、小田急電鉄グループの車両整備を担っていた小田急車両工業(車両整備部門を現在の小田急エンジニアリングが継承)の求人を見つけました。
――就職時に特に決め手となったことはなんですか。
矢後 元々鉄道には興味は無かったのですが、「小田急」というブランドに惹かれたことと、鉄道車両の整備が私のやりたかった機械関係の仕事であることが一致して、当時の小田急車両工業に入社する決め手になりましたね。
入社以来から現在に至るまで
――入社以来からどのような部署を経験してきましたか?
矢後 最初は今と同じ電機職場で、コンプレッサー(空気圧縮機)やMG(電動発電機:車両内のサービスや列車制御に使用する電気を生み出す発電機)の組み立てや整備をする補助回転機器班、電車のモーターを担当する主電動機組立班などに配属されました。
次に車輪の編摩耗を修正する機械職場 車輪削正班、車両整備全般をこなす検車職場の海老名車体整備班(現在は無し)、大野に戻り再度、電機職場の機器班(主にPT*・クーラー(空調装置)・コンプレッサー・SIV*装置)などの現場の技術職をこなしました。
その後、小田急電鉄に出向し、検査職場(1年)・喜多見事務所(2年)へ所属しました。
それから小田急エンジニアリングに戻って、工事・検査職場工事担当の事務職を経て現在の電機職場の職場長になりました。
ざっくり分けると、現場が22年、事務職が8年です。
――かなり幅広く経験されているんですね!
矢後 異動の頻度などは適性などを見て社員ごとに異なりますが、私の場合は色々な班(職場)を経験しました。
実を言うと、若い頃はちょっと飽き性なところがあって、この仕事が長続きするかどうか心配だったんです。ただ何度か職場を異動していく中で、新しい職場や作業を覚えることが刺激になって、だんだん仕事が楽しくなってきたことが、今まで仕事を続けられた理由の一つです。
それに、電機職場以外の所属員に質問されても答えられるのが強みですね。親会社である小田急電鉄へ出向した経験もあります。
――小田急電鉄への出向で経験したことや学べたことはありますか?
矢後 小田急電鉄への出向は車両部では私が初めてだったと思いますが、小田急電鉄の若手技術者との技術交換・勉強を目的としたものでした。
私たちの現場は車両から下ろした状態の部品を整備することがほとんどですが、出向1年目は装置や機器類を車体に取り付けた状態で総合的な試験をする全く違う職場でした。
試運転の列車にも乗って、私たちが整備した機器類が実際に走行する時どのように作動しているか、異常の有無をチェックすることもありました。
その後の2年間は喜多見事務所で初めての事務職となり、パソコンやメール対応、メーカーや業者様との交渉方法などを学びました。出向の3年間で得た経験が現在の仕事にも生きていることは間違いないですね。
車両部 電機職場での仕事・やりがい
――それでは、現在の業務はどのようものですか?
矢後 まず車両部全体の業務から説明すると、大まかには鉄道車両の整備ですね。その中でも担当個所によって、電機職場、機械職場、工事機動職場の3つに分かれています。
私がいる電機職場は電車を動かす主電動機やパンタグラフ、SIV装置などを担当し、機械職場は台車や軸受、車輪削正など足回りを担当し、工事機動職場は車体のリニューアル工事や車体の塗装や洗浄を担当しています。
私はというと、今は現場での作業はほとんどなく、電機職場の業務について管理監督をする事務系作業が主な業務ですね。具体的に言うと、労務管理、職場各班の活動や災害事例研究に対してのコメント、安全関係の管理などです。
他には、車両の定期検査や特別入場関連の見積もりや納品、請求書の作成、さらには検査記録のチェック、品質管理と必要部材の発注管理、受注業務拡大に向けた検討など、デスクワークが多いです。
取引先との会議も月に何度かありますので、そのための資料作りや会議への参加となんでもやります。今でも現場作業は好きなので、もし現場からサポート要請が来たら喜んで行きますけどね(笑)
――今感じる仕事の魅力ややりがい、楽しさは何ですか?
矢後 やはり作業一つとっても新しいことを発見できて新鮮な気持ちで仕事に取り組めることでしょうか。それは私の様な異動が多い人で強く感じますが、適材適所ということでほとんど異動しない人もいます。
その場合は担当部門で誰にも負けないプロフェッショナルな職人になれることも魅力の一つですね。
そして何より私たちが整備した車両が故障することなく定時で運行されて、お客様のインフラを支えているという点にやりがいを感じますね。
やっぱり現場の声を聞いても、担当した車両の箇所を乗車時にチェックして、調子の良さを実感するそうですよ(笑)
――入社前に想像していた業務と、入った後のギャップはありましたか?
矢後 鉄道車両整備業務は目指していたヘリコプター整備とは違うわけですが、機械いじりが好きな私にとって入社前の想像と実際の業務にギャップを感じたことは無かったと思います。
逆に今の方がギャップを感じているかもしれませんね。今は職場管理の事務職が多いので、現場で作業を見ていると「私もやりたいな」と思うこともあります(笑)
――この仕事をする上で必要な資格やそれを取るための会社の支援はありますか?
矢後 自動車の整備とは違って電車の整備自体には免許がありませんので、作業に応じて必要な資格については、計画的に講習を受けてもらい資格を取得します。
現場からの意見でその他必要な資格があれば検討し取得させる場合もあります。
私の場合は、フォークリフト運転資格や玉掛け(クレーンに荷を掛けたり外したりするための資格)、床上操作式クレーンの資格(5t以上)を持っています。
もちろん、そのための講習受講や資格試験の費用、交通費まで会社が負担してくれるので心配はありません。
記憶に残る仕事 VSEとの思い出
――特に思い入れのある仕事はありますか?
矢後 特急ロマンスカー50000形VSEが初めて定期点検で入場した時ですね。その時は主にクーラーを担当する機器班という部署にいました。
通常の車両は屋根上にクーラーが搭載されていて室外機と室内機が一体の構造となっていますが、VSEではほとんどの車両で室外機と室内機が分かれているセパレートタイプが採用されました(一部は屋根上に搭載)。
その室内機は主に出入り口のあるデッキの上に組み込まれている、特殊なタイプでした。
洗浄するためにはこれを車体から取り外さなければならないのですが、初めての作業だったのでどのように作業するか本当に悩みました。
参考にするために車両製造時の動画も入手しましたが、製造途中の段階と、完成後の車両での整備作業とでは状況が違っていて、現場で様々な道具や機械を使うなどして試行錯誤の連続でした。
車内に傷を付けず、なんとか室内機を取り外すことに成功し、それを洗浄整備して無事に設置することができました。
点検期日は決まっているので本当に大変でしたが、手法を変えたり、新たに整備専用の治具を作ったりして、徐々に迅速かつ丁寧に効率よく作業ができるようになりました。
そういった意味では、私たちが整備方法を生み出し確立したと言っても過言ではないですね(笑)
――学生時代から成長したと感じるところは?
矢後 どんな学生だったかはあまり覚えていません。ただ職場長となっても大なり小なり新たな困難に直面することもありますが、それを解決して乗り越えるごとに成長しているなと感じていますね。
働き方や職場の雰囲気
――休日と残業について伺いたいのですが。
矢後 2023年度の休日は年110日です。スケジュール通りに進む仕事が多いため、予定外の作業が入った時でなければ残業はあまりないですね。トータルで見てもそう多くはありません。
電機職場(現場作業)としての残業は2022年度実績で月平均約15時間で入場車両数や車形により増減します。
――車両部 大野事業所 電機職場の雰囲気はどうですか?
矢後 優しい先輩ばかりだと思いますよ。一人でやる作業もありますが、複数人のチームで作業する箇所もあるのでチームワークを大切にしていますね。
20歳代前半から半ばくらいの若い人が一番多く、50歳代もいますが上下関係は無くて言いたいことが言える職場です。終業後も帰らずに食堂で話が盛り上がっていることもあるのを見ると、仲が良いなと思います(笑)
――若い方も多いんですね。新人や若手の教育はどのように行われていますか?
矢後 鉄道車両整備業務という特殊な仕事ですが、機械関係が未経験だったり鉄道に興味が無かったとしても継続できる仕事だと思います。もちろん最初から難易度の高い作業はできないとわかっていますし、簡単なことから積み上げていくことでできるようになっていきます。この業界に就職したい人も特に心配することは無いと思います。
具体的な教育としては小田急電鉄さん主催で車両の構造や電気回路などの基礎知識を学ぶ車両基礎教育に参加させてもらったり、現場で上司や先輩から実務を勉強するOJT教育、ヒューマンエラー研修や社会人としての基礎的な知識を学んだり、研修先で学んだことを活かしたプレゼンをする若手社員研修など、新人や若手向けに様々なプログラムを考え、実践し人材の育成に取り組んでいます。
矢後さんの思い
――職場長として目指したいことは?
矢後 電機職場は私と副職場長、所属員17名の計19名です。そのうち12名がパンタグラフやクーラー、戸閉め機械、コンプレッサー、SIVなどの5つに分類され機器班を構成しているのですが、担当箇所の技術はプロフェッショナルであっても、別担当の技術についてはまだ弱いところもあります。
属人化を防止するためにも、複数の業務を担当できるレベルにまで技術習得できるよう進めていきたいですね。
――小田急エンジニアリングに入社して良かったと感じることは何ですか?
矢後 小田急電鉄以外にも同業会社で整備業務を請け負っているモーターやコンプレッサー、クーラーなど、小田急電鉄系以外の鉄道車両の整備にも携わることができる高い技術力と信頼関係が築けることが誇りです。
小田急エンジニアリングに入社して良かったことは、先ほども話しましたが上下関係が厳し過ぎず、若い人でも意見を言いやすい職場ということですね。
あと個人的に良かったことは休暇が取りやすくて自分の趣味の時間を大切にできることです(笑)
――それは大事ですよね! 休日はどのように過ごされていますか?
矢後 休日は妻と山をトレッキングしたり、趣味のオートバイの整備をしたり、ソロツーリングしたりします。最近は山中湖まで高速道路を使わずにのんびりツーリングすることが楽しみなんですよ。
――いいですね、これからの時期は気持ちよさそうです。お仕事の話に戻りますが、今後もどのように仕事をしていきたいか、マネジメントする立場としての目標はありますか?
矢後 自分自身については電機職場長になって2年目になりますが、今後は機械職場や工事・機動職場を経験して大野事業所内のあらゆる職場に精通していきたいなと思っています。また新たな現場管理職やプロパー社員(正社員として会社が採用した社員)の管理職を育成していきたいですね。
現場の職人も良いですが、管理職にも興味を持ってもらえるよう、声掛けや1on1を通して継続的にコミュニケーションをとっていきたいです。
――新人や若手にはどのようなことを期待していますか?
矢後 与えられた仕事だけでなく、自分で考えてあらゆることにチャレンジしてほしいですね。そうすることで自身の成長にもつながると思っているので。
学生の方へのメッセージ
――小田急エンジニアリングの電機職場や車両整備の仕事を目指す若者に「これをやっておくと良いよ」というアドバイスはありますか?
矢後 私たちの仕事は体が資本の作業が多いので、学生のうちに運動などである程度身体を鍛えていたほうが良いと思います。また私自身、つくづくやっておけばよかったことが勉強ですね!(笑)
――最後に就職活動をしている学生さんへのアドバイスをお願いします。
矢後 自分が希望する会社や職種に就けるよう頑張ってください。それでも希望する仕事に就けない場合もあります。
でもどんな仕事でも自分なりにやりがいを見出すことができれば、仕事は必ず楽しくなるはずですよ!
――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
終わりに
今回は小田急電鉄 大野総合車両所内にある大野事業所にお邪魔するということで、広い工場内の一部を案内してもらいました。
部品ごとに職場が分かれている様子や、それぞれの職場で社員の方が真剣に向き合う姿勢を見てきましたが、編集部の私がもっとも印象に残ったのは矢後さんの取材を見守る周囲の社員の方々の、気さくさでした。
矢後さんが慕われていること、職場の雰囲気がいいことが言葉にせずとも伝わるようで、いい職場なのだな、と感じたことを覚えています。
これは海老名にある本社オフィスで取材してきたときもそうでしたが、小田急エンジニアリングのオフィスは明るく風通しのいい職場で、同僚が私たちの取材で撮影されているのを楽しそうに見守っている目線のあたたかさは印象に残るものでした。
興味を持った学生の方はぜひ採用ページを見てみてくださいね!
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今回紹介させていただいた会社
株式会社小田急エンジニアリング
小田急線の安全で快適なモビリティを担う小田急グループの鉄道関連工事会社です。電気事業、軌道事業、車両整備事業、設計・コンサルティング事業の4分野を持ち、豊かな経験によって培われた高い技術力と実績で交通インフラを通して社会に貢献しています。今回も株式会社小田急エンジニアリング大野事業所にお邪魔し、取材させて頂きました。
2023年9月取材
聞き取り・撮影:助川康史(マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズ)
企画・構成:交通新聞社
※記事中の情報は、この記事を公開した当時のものです。
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