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「自分が思い描くとおりにレール溶接の日程がびしっと決められた時は気持ちがいいです」最適な工事日程を導き出す扇の要【社員インタビュー:全溶・工程管理】

鉄道に関わるお仕事に携わっている方へインタビューを通じて。その仕事についてのお話を伺う「鉄道ゲンバ最前線!」。

第10回となる今回は、株式会社全溶の本社へお邪魔しました。株式会社全溶はレール溶接工事の施工や非破壊検査などを主な事業とし、様々な鉄道路線のレールのメンテナンスや新設を数多く手がけています。

インタビューしたのは、全溶 東京支店でレール溶接作業の工程管理を担う山田さんです。レール溶接のスケジュールを司る日々の業務への思いや、思い出深いプロジェクトのお話など、内容盛りだくさんでお送りします。

それではどうぞ!

入社のきっかけと携わった業務

――本日はよろしくお願いします。早速ですが、自己紹介と入社のきっかけを教えてください。

山田 はい、私は株式会社全溶 東京支店で副支店長を務めております山田力です。入社24年目で、現在は工程管理を担当しています。
実は、もともと文系の大学出身で経済学部だったんです。最初の就職先も全く違う業界の一般営業職でしたが、転職を考えた時たまたま全溶にいた知人から紹介されたのがきっかけです。

本社の会議室でインタビューに応じてくれた山田さん。

――レール溶接が主な事業である全溶は、いわば畑違いですよね。入社したいと思った決め手は何だったのでしょうか。

山田 鉄道の仕事にやりがいがありそうだと思いました。特に鉄道好きというわけではないのですが(笑)、前職は自社商品を売る仕事だったのに対し、人の役に立つ、社会貢献できる仕事であると感じましたね。それに、どうせ転職するなら180度違う仕事に就いて一からチャレンジしてみたかった気持ちもありました。

――入社後はどんな業務を行いましたか。

山田 工務部に所属し、2年ほどかけてレール溶接の現場作業をみっちり覚えました。工程管理の仕事は入ってすぐできるわけではなく、まずは会社の仕事を知ることから始めました。実際に線路上でレール溶接を行い、現場を経験しないと、工事をどう回せばいいかもわかりませんし、発注者と打ち合わせすらできませんから。

レール溶接工事の様子。ゴールドサミット溶接と呼ばれる工法で、比較的軽量の機器を使用し、レールが敷設される現場での作業に適している。写真提供:全溶

次に配属された品質管理部では、現場とデスクワークの両方に携わり、9年半の間に社内の品質管理業務を覚えると同時に様々な資格を取得できました。取った資格は一級土木施工管理技士、非破壊試験技術者、溶接管理技術者、第一種衛生管理者などです。

全溶ではレール溶接を施工した後に非破壊検査を行います。主に、超音波探傷検査、浸透探傷検査、磁粉探傷検査の3つの方法で検査を行うのですが、資格はその検査に欠かせません。
仕事の知識を深められ、自分に求められる仕事を増やすことができたと思います。

完成検査の様子。写真提供:全溶

その後は工務部に戻り、工程管理に携わるようになって11年。昨年に東京支店へ異動して工程管理業務を続けながら、東京管内の施工の打ち合わせから施工後の成果物の管理、請求までを担当しています。

全溶の強みは、レール溶接を受注するところから、施工し、完成検査を行うところまでを一社で担えるところです。レール溶接に関して資格はもちろん、様々な知識や経験を得ることができました。

工程管理の仕事とは

――工程管理とはどのようなことをするのでしょう。

山田 工程管理は、営業が受注したレール溶接の依頼に従って、現場に必要な溶接作業員の確保や資機材の調達を行いながら工事計画をまとめる仕事です。

全溶東京支店が1ヶ月に受注するのは平均30ヶ所ほどありますので、まずは工事の月別の計画をひとつに集約することから始めます。
線路工事は一般的な建設工事とは違って、線路内での作業日に限りがあったり、鉄道会社の意向があったりして、制約が多く何事も勝手には決められないのです。

そこで、鉄道会社や元請け会社から提示された作業計画を基にひとつの表に落とし込みます。
作業内容を確認しながら、粘り強くひとつひとつの発注者に連絡を取り合うことも必要になります。また、現場では電気系統など他の工事も重なるため、計画変更も多いです。

さらに鉄道会社のレール検査で緊急性の高い傷が見つかれば、その都度追加工事も発生します。ですから、月間で工程を決めながらも変更と追加の対応に追われます。発注者数が多い月は一手に取りまとめるのにも苦労します。例えるなら、パズルをしているような感覚ですね。

山田さんの執務風景。関係各所と連絡を取りながら、工事計画を組み立てていく。写真提供:全溶
山田さんの仕事の成果であり、全溶の全作業の要となる月間計画表・配置表。貫禄の分厚さだ。

――パズル!? 計画表作りも一苦労ですね。

山田 工程管理の計画表には、発注者、溶接個所数、溶接工法の種別、場所、路線、キロ程、レールの交換延長、レールの種類など、様々な情報を記入します。そしてこれを見ながら作業員の人数を調整して当て込んでいきます。

レール溶接の仕事は圧倒的に夜間が多いので、作業員の集合時間は22時頃、遅いと0時を過ぎることもあります。

作成する時は、溶接種別を色分けするなど、見やすさを意識しますね。
作成した計画表は、紙に出力して社内に貼るだけでなく、データをアップしてそれぞれのスマートフォンでも確認できるようにしています。

日ごと、現場ごとに必要となる人や道具を計算して割り当てて作られた計画表。実物を見せられながら説明を受けると、確かにパズルのような作業だと納得。

仕事のやりがい

――どんなところに仕事のやりがいを感じますか。

山田 相手あってこその仕事なので、こちらの都合だけで計画が決められるわけではありませんが、その分、自分が思い描くとおりに工程がびしっと決められた時は気持ちがいいです。

各工事の仕事量を毎日同じ量に平準化するといいますか、凸凹なくきれいに収めたいんですよね。
でもこれはあくまでも準備段階。この後に施工が始まりますので、施工中も気が抜けません。無事に施工が完了した時、一番安心できますし、やり遂げた達成感があります。

――工程管理の仕事にはどんなことが大事なのでしょうか。

山田 少しでも心配なことや気になることは絶対に確認を取ることですね。そのまま眠らせておくと、たいていそれがトラブルにつながります。発信や確認は怠らず、疑問や不安の種は1つ1つ潰していくことが重要です。

――繁忙期はありますか。

山田 6月から10月にかけてが特に忙しいですね。全溶の溶接は線路内で交換されたレールの両端を溶接するのがメインなのですが、そのレール交換は暖かい時期に行なうことが多いからです。

レールは伸び縮みする性質があり、寒い時期の溶接は縮んだレールに機械で何十トンという力をかけて引っ張り固定するため、それに付帯する作業の施工量が増えて、コストが嵩んでしまいます。
ですから、レールが伸びる暖かい時期にレール交換が集中し、レール溶接も同じ時期に集中するんです。

また、鉄道事業者のルールとして、レールに発生した傷を除去する期限が冬季前となっていることも、レール交換が暖かい時期に集中する要因となっています。

――どちらの鉄道会社のレール溶接が多いのでしょうか。

山田 最も多いのはJR東日本ですね。私鉄も多く、地元である西武池袋線は全線のレール溶接を全溶が担当させてもらっています(全溶本社は西武池袋線石神井公園駅が最寄り駅)。

レールの溶接部の脇に、「ZGS-18-11-2(全溶 ゴールドサミット溶接 2018年11月施工 枝番2)」などとスプレーでペイントしてあるので、駅のホームからも見ることができますよ。

取材後、編集部が石神井公園駅のホームから見える位置に見つけたペイント。左側の盛り上がって見えるのが溶接個所。

――いいことを聞きました。レールを見る楽しみができました! お仕事の証が目に見えて刻まれているんですね。

山田 そうですね。自分の会社が溶接したレールの上を毎日何万人も電車に乗っているんだなあと思うと感慨深いものがありますね。それと同時に「気が抜けないな」と身が引き締まります。

思い出深いプロジェクト

――今までで思い出深いプロジェクトはありますか。

山田 最近ですと、2019年11月に開業した相鉄・JR直通線ですね。工程管理と並行して施工管理の担当技術者として現場に従事したので思い入れがあります。作業員と本社から毎日工事用車両数台に分乗し横浜方面へ通って、新設線で何もない所に一からレールを送り込んで溶接する作業を約2年間見守りました。工程管理のほうは空き時間を見つけては会社に戻って何とかやりくりしました。

JR・相鉄直通線新設工事でのレール溶接の様子。こちらはガス圧接による溶接で、溶接基地での作業に適している工法となる。写真提供:全溶

――重要な仕事を同時進行とは大変でしたね。そのプロジェクトではどんなことに気を遣いましたか。

山田 施工管理の立場としては第一に安全。作業員にケガをさせないことは最も注意しました。そして品質。乗り心地に響かない仕上がりのいいものを提供できるよう、当然ですが妥協は一切せず努めました。

――仕上がりのチェックはどのように行うのですか。

山田 もちろん走行試験もありますが、その前に溶接の仕上がりを数値で確認します。
レールの頭頂面や車輪が当たる部分の仕上がりは0.1mm単位で数値が決まっているんです。それだけでなく、測定器で出来形の形状を測ることもします。

――その一方で工程管理は、誰をどの現場へ配置するかの采配も行うのですよね。作業員の性格や得意分野などもご存じなのですか。

山田 はい、全部把握しています。作業員は東京本社の現場担当だけで80名弱います。
1つのプロジェクトがあればまず責任者を決めるのですが、その鉄道会社の仕事をよく受けている人を選びます。次に、溶接の種類に合わせて有資格者を選び、相性や経験、個性を考慮しながらバランスを取ってメンバーを集めていきます。

チームワークが大事な仕事ですから、人間関係のストレスが仕事に影響しないよう、働きやすさはなるべく重視します。

――そのために山田さんが心がけていることは?

山田 まず挨拶ですね。常に現場に出る作業員の方々とは毎日会えるわけではありませんから、社内で会えば必ず話しかけて、時には仕事以外のプライベートな話もしてコミュニケーションを取るようにしています。

――工程管理は現在何名で行っているのですか。

山田 月単位の工程管理は私一人で全て行いますが、その先の各工事の勤務の采配などは5名で手分けして行っています。その5名でもコミュニケーションは常に密に取っているので、お互いに困ったことがあれば助け合って進行しています。

入社してよかったと思えること

――では、20年以上の職歴を振り返ってみて、入社してよかったと思うことは?

山田 レール溶接は特殊な技術で、全国でも関わる人の数は圧倒的に少ない特殊な業界なんです。そのレール溶接に特化した会社で特殊な技術を身に付けられたことは大きいです。

――仕事の自信とかやりがいにもつながりそうですね。

山田 やりがいはありますね。他にできる人が多ければその中に紛れ込んでしまって自分の価値が見出せないこともありますけど、すごく必要とされている実感がありますね。

――入社してご自身が成長したと思うことは?

山田 若い頃は自分のことだけで視野が狭かったですね。仕事を通じて徐々に広い視野で物事を見ることができるようになり、心に余裕が持てるようになりました。
こちらの都合だけなら自分の思いどおりにできますが、それができないのが工程管理。依頼が集中しすぎて断らざるを得ないこともあるので、そのたびに胸が痛くなります。

でも、できれば断りたくないので「今月は難しいですけど翌月でいかがですか」というような交渉もできるようになりました。それも経験を積んで培った機転や交渉力だと思います。

――趣味や休日の過ごし方は? 

山田 プロ野球観戦が好きです。全溶は福利厚生で西武ライオンズの年間シートがあるのでホームゲームの全試合を観に行けるんです。以前はあまり野球に興味がなかったのですが、利用してからすっかりはまって西武ファンになりました。ビールを飲みながら観戦して、いいリフレッシュになっています。

――今後の目標を教えてください。

山田 キャリアで言うなら、目指せ!支店長でしょうか(笑)。みんなを取りまとめられるような頼れるリーダーになりたいですね。

――では最後に、就職活動に励む学生の皆さんへメッセージをお願いします。

山田 先程も申しましたが、大学での専攻が経済学部だった私でも工業系の鉄道のゲンバに飛び込むことができました。工程管理や溶接について学んだ方ならもちろん、文系の学生さんにもチャンスは多くありますので、興味と熱意があるならぜひ挑んでほしいですね。
うちの会社は入社して一から学べますから、現場に出て経験を積んでいけば、本人の頑張り次第で十分やっていけると思います。

――工程管理の仕事はどんな人に向いていると思いますか。

山田 発注者の数は多いし、その1つのプロジェクトにも多くの人が関わります。計画を進める上でも会話が必要なので、コミュニケーション力はないよりあるほうがいいでしょうね。

ただ、それは入社して様々な仕事を経験すれば自然と身に付くものですし、社内の雰囲気もフランクで上下関係が厳しいわけでもありませんので、気兼ねなく話しやすいと思いますよ。

器用さはあまり必要ありません。それよりも地道にコツコツ続けられる人、努力ができる人でしょうかね。
作業員に安心して仕事をしてもらうためにも、どこまで知識と経験を積み上げていけるかが重要になります。

――本日はお忙しいところありがとうございました。

会議室に掲げられた感謝状。2022年3月の福島県沖地震では常磐線の一部区間が不通となったが、JR東日本や全溶を含めた多くの関係者が協力し、地震発生から約1週間後の3月24日には全線での運転再開にこぎつけた。

終わりに

溶接に必要な道具や人数だけでなく、実際に作業にあたる社員の方々の資格、スキル、更には性格まで把握しながら工事日程の調整を行う山田さん。
一度立てた計画でも必要があれば関係各所と調整しつつ臨機応変に変更し、円滑に工事が進むように差配するその存在は、全溶においてまさに扇の要です。

そんな山田さんも、最初はまったく畑違いの領域からの転職でいまの立場にたどり着いた、というのが驚きですよね。それが可能になったのも、人と技術を地道にコツコツ育ててる風土が全溶にあったからこそではないかと感じました。

みなさんが普段乗っている列車が走るレールの安全も、山田さんのような方や、現場の作業員の方々が「地道にコツコツ」と積み上げてきた成果として保たれています。
レール溶接や鉄道メンテナンスの工程管理について初めて知った、という方も、ぜひこれを機会にして鉄道メンテナンス、そして工程管理の面白さ・やりがいに目を向けてもらえればと思います。

今回紹介させていただいた会社

全溶
高い技術力を活かしたレール溶接をはじめとして、非破壊検査・技術指導・機材のメンテナンスといったレール溶接に係わる一連の業務を行い、鉄道輸送の大前提である安全・安心を支える企業です。前回紹介した東鉄工業の連結子会社でもあります。
今回は東京都練馬区の本社にお邪魔し、取材させて頂きました。

公式ウェブサイトはこちら

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2023年3月取材
聞き取り:下里康子
撮影・企画・構成:交通新聞社
※記事中の情報は、この記事を公開した当時のものです。
※採用についてではなく記事の内容についてのお問い合わせは、交通新聞社HPからお願いいたします。掲載されている企業・個人へのお問い合わせはご遠慮ください。


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