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【鉄道ひとくち解説 その23】踏切の安全を守る装置・関わる企業【就活生向け】 

多くの人が行き交う京成船橋駅近くの踏切。高架化に伴い現在は廃止されました。※プライバシーに配慮し一部をぼかしています。

鉄道の線路と道路が平面交差する踏切。線路に人や車両などが立ち入る場所とあって、安全に関して特別な注意が必要な場所であります。

しかし身近に存在する場所でありながら、その安全を守るために、どのような企業がどのように関わっているか、鉄道業界に関わる仕事を探している学生の方でも知る機会は意外と少ないかもしれません。

そこで今回の記事では、

  • 鉄道において踏切事故の防止がいかに重要か

  • 踏切の安全を守る装置「踏切保安装置」

  • 先端技術の導入

  • 【就活生必見】踏切の保安に関わる会社

について解説します。


鉄道の安全における踏切事故防止の重要性

踏切事故の状況

まずは踏切の安全を守ることの重要性を知るために、日本国内における踏切事故の実態を整理しましょう。
国土交通省の鉄道局が発表した鉄軌道輸送の安全に関わる情報 (令和4年度)によると、踏切事故の件数および死傷者数は長期的に減少傾向にあります。

国土交通省「鉄軌道輸送の安全に関わる情報 (令和4年度)」より引用。

これは立体交差の整備による踏切の廃止や、踏切への警報機・遮断機の設置といった安全対策の推進によるものです。鉄道の安全が進化してきた成果のひとつとも言えます。
しかし、それでも踏切事故は年間195件(2022年度)を数え、これは平均して2日に1回以上のペースです。また、年間に発生する鉄道運転事故の件数のうち約3割を占めています。

踏切直前横断と定時運行

国土交通省「東京圏の鉄道路線の遅延「見える化」(平成30年度)」によると、東京圏の調査対象45路線において平成30年(2018年)11月の平日21日間に発生した10分未満の遅延のうち、6.3%が踏切直前横断によるものとされています。

「東京圏の鉄道路線の遅延「見える化」(平成30年度)」より引用

半分近くを占める乗降時間超過(48.3%)や急病人(13.3%)と比較すれば少ないものの、無視できない数字であることが言えます。また、踏切直前横断は先ほど挙げた2つの要因と異なり、ともすれば事故に直結しかねない危険性をはらんだものです。

つまり、踏切における安全の確保は鉄道における安全確保、そして定時運行において重要なテーマであることがわかります。

そして、踏切における安全の確保の究極の解決策は、踏切を廃止することです。しかし単純に廃止しただけでは沿線住民の利便性が低下する問題があり、また連続立体交差の実現にしても、実現に要する費用、また線路周辺の状況によっては必ずしも現実的な解決策とならないこともあります。

そのため、踏切を残しつつ安全を守るべく様々な装置が開発されており、踏切保安装置と総称されます。
踏切保安装置は連動して一体的なシステムとして運用されている場合もあり、主に電気・通信領域の企業がその開発・製造に携わっています。ここでは、それらの装置の紹介、そしてその製造にあたる企業を一部ですが紹介します。

踏切保安装置①障害物検知装置

障害物検知装置とは

障害物検知装置の例。レーザー光によって主に大型の障害物を検知するタイプのものです。

踏切事故の防止には、「列車の接近時に踏切内に人や車などが進入していないこと」が必要です。
警報機や遮断桿は人や車に列車の接近を知らせ、危険な進入を防ぐために設置されていますが、最終的に踏切を列車が安全に通行可能であることを担保するために設置されるのが、踏切内の支障物を検知する障害物検知装置です。

障害物検知装置は、赤外線やレーザー光、ループコイルなどによって、人や車などの進入を検知する仕組みになっており、列車の接近時にそれらの進入を検知した場合には接近する列車の乗務員に知らせたり、ATC(自動列車制御装置)と連動して列車を停止させたりするようになっています。

障害物を検知する仕組みについては様々なパターンがあり、例を挙げれば

  • 受発光器の組み合わせで「線」で感知する基本的な仕組みのもの

  • 2Dレーザー光によって「面」で感知するもの

  • 3Dレーザー光によって三次元的な測定・速度の測定を可能にしたもの

  • 踏切道に埋め込まれたループコイルの上を金属の塊(自動車など)が通過して生じる磁界の変化で感知するもの

などがあります。基本的には上にあるものほど単純な仕組みで、
検知する精度を向上させたり、以前は自動車を対象にしていて人の検知が難しかったのを解決したりと、進化の歴史があります。

踏切障害物検知装置の例。3Dレーザー光によって三次元的な検知が可能なタイプのものです。

障害物検知装置の進化 AIの活用によって人を検知する仕組み

先日公開した11月分プレスリリースまとめの記事から紹介します。

名古屋鉄道が発表したのは、新たな障害物検知の仕組みです。

名古屋鉄道ほか-「AI 画像解析装置を導入した踏切監視システムの運用を開始し、 踏切道の保安度向上を図ります」

グループ会社の名鉄EIエンジニアに加えて、踏切機械などの保安設備を扱う東邦電機工業、さらには異業種のトヨタシステムズと協力して開発した踏切監視システムは、AIによる画像解析を活用し、踏切だけではなく、その周辺に至るまでの監視を実現したのが画期的です。

なお、AIによる画像解析を活用すること自体についてはすでに導入実績があり、一部を以下に取りあげます。

(1)山陽電気鉄道の事例

2021年に山陽電気鉄道が運用を開始したのは、踏切内を撮影した映像をAIにより画像解析し、列車の接近時に「人」 が検知された場合には乗務員や運転指令に知らせるシステムです。
AIによる画像解析を活用した人の検知と信号保安装置を連動させたシステムの実運用は山陽電気鉄道が初めてとされています。

オプテージ、K4 Digital、山電情報センターと協力して開発し、実証実験を経て2021年7月より2ヶ所の踏切へ本導入され、2022年度にも新たに2ヶ所の踏切に設置されました(安全報告書2023より)。

山陽電車-「「人特化型踏切障害物検知システム」を導入します ~AI時代の安全性を踏切に~」(2021年6月29日)

(2)西武鉄道の事例

こちらも「人」を主な検知対象とした踏切異常検知システムで、低照度カメラで撮影した映像をAIによって画像解析し、列車接近時に人の進入が検知されると、連動した特殊発光信号機で乗務員に知らせるなどの対応を取るものです。
2022年度は5ヶ所の踏切に設置し、2023年度も2ヶ所の踏切に新設予定です(2023年度鉄道事業設備投資計画より)。

こちらの事例については、西武鉄道のWebサイトに担当者のインタビューも掲載されていますので、ぜひ読んでみてください。

踏切保安装置②遮断機・警報機

遮断機と警報機の例。 撮影:交通新聞クリエイト

線路と道路を隔てる遮断機、通行者に光や音で踏切の存在と列車の接近を知らせる警報器、いずれも踏切の安全を守るためにとても重要な装置です。

現行法においては新たに踏切を設置することが認められていない(例外はあります)ものの、既存の踏切の機器更新や、遮断機・警報機のない踏切への設置などで一定の需要が存在しており、複数のメーカーが製造しています。

また、警報機や遮断機も、基本的な構造は変わらないながらも着実に進化しています。
たとえば、警報機の一部である警報灯は、従来は一方向にしか表示できないものを複数設置する形式が一般的でしたが、近年は全方位に視認性を持ちLEDを採用して省電力化も実現した製品が開発・実用化されています。
先ほどの写真に写っているのもそのタイプです。

踏切の種類と、新たな保安装置

「遮断機・警報機のない踏切があるの!?」と驚く方も、都市部で育った方を中心にいらっしゃるかもしれません。実は地方路線を中心として、まだまだそういった踏切は残されています。

現在、日本には

  • 第1種:遮断機・警報機どちらもあり

  • 第3種:遮断機なし・警報機あり

  • 第4種:遮断機なし・警報機なし

この3種類の踏切が現存しています。
基本的には、第1種が最も安全だといえるでしょう。そのため第3種・第4種踏切は廃止されたり、遮断機・警報機の設置で第1種踏切に切り替えられたりして、大きく数を減らしています。

赤い棒が遮断機のない踏切。出典:道路:踏切対策の推進 1.踏切道の現状 - 国土交通省

しかし依然として第3種・第4種踏切は相当数が残存しています。
これらの踏切において、低コスト・簡易的な施工で安全性を向上させる取り組みとして注目されるのが、JR西日本が展開する「踏切ゲート-Lite」です。

警報機や遮断機に比べて簡単に設置でき、一定程度の安全性を確保できます。踏切の通行量や列車の運行本数が少ない地域では、安全確保策として有効であるでしょう。

【就活生必見】踏切保安装置に関わる企業

複数の装置を野外で確実に作動させ、さらにそれらを連動させ一体的に運用させるなど、高い信頼性が求められるのが踏切保安装置です。

その製造を手掛けるのも鉄道の電気通信分野で実績のある企業が多く、日本信号京三製作所大同信号といった規模の大きな信号メーカーのほか、東邦電機工業てつでん三工社、交通システム電機など、様々なメーカーが名を連ねています。

また、踏切保安装置は機器の製造だけにとどまらず、鉄道の保安システムの中に位置づけられる分野です。通信などとの関わりが深く、AIを活用した画像解析など最先端の技術が用いられています。
幅広い領域の学生の方が求められる奥深い領域といえるでしょう。 

おわりに

実際に設置されている踏切支障報知装置の例。

ここまで、踏切における安全確保について、踏切事故や踏切での事象を原因とした列車遅延の現状、そして安全を守る踏切保安装置の一部として障害物検知装置や遮断機・警報機について解説しました。

踏切保安装置には、ほかにも踏切での支障物を目撃した人が駅や列車に知らせるための踏切支障報知装置(踏切にある非常ボタンといえばピンとくる方が多いでしょう)や、列車種別ごとに踏切の開閉を制御する列車種別識別装置など、様々な装置があります。

また、踏切の安全には、鉄道の事情以外にも、踏切周辺の道路の状態や交通量など、多くの要素が複雑に絡み合っています。
渡る人の意識も大切で、たとえばJR九州では、毎年2月3日を踏切の日と定めて、安全啓発の運動を行っています。

  • 鉄道において、踏切の安全確保は重大な課題であること

  • 日ごろ何気なく利用している踏切にも、様々な技術、装置、そして鉄道事業者だけではない様々な企業が関わっていること

この2つを覚えておいていただけければ幸いです。

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文章および特記のない写真:交通新聞社
※記事中の情報は、この記事を公開した当時のものです。

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