貸借対照表に表れる鉄道事業者の特徴とは【就活生向け・四半期短信を読む番外編】
鉄道事業の特徴の一つとして「固定費が高い」という点があります。
これは鉄道事業の継続には線路や駅などのインフラが必要であり、そのインフラを安全に保つためには維持費が必要なためです。
そのため利用者が減少した事業者にとっては「簡単には減らせないインフラの維持費用が重い負担となる」という課題があり、その解決策の一つとして上下分離方式が注目されている、というのが先日の記事でした。
この「事業の継続に必要なインフラが多い」という鉄道事業の特徴は、各社の決算書の中にもしっかりと表れます。その象徴が貸借対照表の「資産」の部における、資産全体に占める有形固定資産の割合です。
ここからは実際に企業の貸借対照表を例にとって確かめてみたいところですが、まずはその前に「貸借対照表とは何か」「有形固定資産とは何か」をかんたんに解説します。
【就活生で読めると有利?】貸借対照表とは
ある時点における企業の財政状態を示すのが、貸借対照表(バランスシート)です。「資産の部」と「負債の部」「純資産の部」に分かれています。
分類を大まかに説明すると
「資産の部」:現金や預金、保有する土地や知的財産権など、どのように資産を運用しているかの項目
「負債の部」:買掛金や借入金などの「返す必要のある資金」の項目
「純資産の部」:株主から調達した資金や、企業活動で積み重ねた利益など、「返済義務がない資金」の項目
といった形です。
上場企業の貸借対照表は、公開されている決算短信や有価証券報告書などの決算書に掲載されています。
なお決算短信とは何か、どうやって読むのか、といった点については以下の記事を参照してみてください!
有形固定資産とは
有形固定資産とは、「資産の部」にある3つの部門、「流動資産」「固定資産」「繰延資産」のうちの「固定資産」の中にある項目です。
「資産の部>固定資産>有形固定資産」という構造になっています。
固定資産とは売上活動で生じた資産ではないもので、かつ事業のために1年を超える期間で利用される資産を指します。
この中でも、土地や建物、機械など有形の物が有形固定資産に該当します。
実際の例:JR東海の貸借対照表
「貸借対照表」と「有形固定資産」についての理解ができたところで、実際に企業の貸借対照表を見てみましょう。
繰り返しになりますが、今回注目するのは「資産」の部における、資産全体に占める有形固定資産の割合です。
例として、JR東海の令和5年3月期 第2四半期決算短信(日本基準)(連結)の9ページにある「四半期連結貸借対照表」を見ると、
となっており、総資産に占める有形固定資産の割合は約58%となります。
これは、鉄道事業に必要なインフラの多く、たとえば
駅の建物・土地
線路(レールや枕木、レールが敷設されている土地)
鉄橋やトンネル
車両
信号機
などが有形固定資産に計上されるためです。
なお、JR東海の四半期短信は、鉄道事業以外の様々な事業の資産も含めた連結決算です。
そのため有形固定資産のすべてが鉄道事業に関わるものではないのですが、鉄道事業の重要度が高いJR東海においては、貸借対照表にも「鉄道事業者の貸借対照表」ならではの特徴が色濃く出ているのが分かったと思います。
なお、JR東海の四半期短信については以下の記事で分析しています。
他業種との比較
ここで、同じ数字を他業種と比較してみましょう。
たとえばIT業界で金融系のウェブサービスを個人向け・法人向けに提供している株式会社マネーフォワードでは、有形固定資産について
となっており、総資産に占める有形固定資産の割合はわずかに1%です。
固定資産の大半は無形固定資産に分類されるのれん*とソフトウェアが占めており、典型的な情報通信産業の企業です。
情報通信産業では、事業の継続に必要な有形固定資産の規模が小さいためにここまで極端な差が出ましたが、業種によって全く変わる、ということが分かったと思います。
なお、鉄道と同様に、土地や建物を利用した製品・サービスの提供が事業のメインとなる産業では、総資産に占める有形固定資産の割合が高くなる傾向にあります。
たとえば工場設備で製品を生産するのが事業のメインである製造業界や、遊園地や水族館といった設備でサービスを展開するのが事業のメインであるレジャー業界がこれに当たります。
まとめ
この記事では、以下のような内容について触れてきました。
鉄道事業は、事業の継続に必要なインフラが多いため、有形固定資産が多くなる傾向がある
上記の傾向は、貸借対照表でも分かる。「資産の部」の「有形固定資産」の項目を見る。
業種や企業を比較するときは、「資産の部」の構成に注目すると、どのような資産で売上を上げているのか、つまり「どのようなビジネスモデルであるか」が分かりやすいですよ。
鉄道就活応援隊のnoteでは、「はじめて」が多い就活において不安になりがちなマナーや、よりあなたに合う企業を見つけるコツなどについてまとめています。以下のリンクからご覧ください。
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