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あれも電気、これも電気。モーターから自動運転まで、鉄道の進歩を引っ張る鉄道電気技術業界の世界【業界解説】

就活生の皆さんのための鉄道業界解説記事、第三弾は「鉄道電気技術の世界」です。これまでの業界解説記事をまとめたマガジンはこちらです↓

鉄道と切っても切り離せない電気技術。その領域は電車の動力から駅の電灯、電光掲示板といった利用者にも馴染みのあるものから、信号、通信、果ては自動運転に関係する分野まで広がります。

今回も「どんな仕事があるのか」「業界は今どのような状態なのか」そして「今後どうなっていくのか」について、学生の皆さんからの疑問に答えるべく、プロフェッショナルの方にお話を伺いました。

インタビューを受けてくださったのは、長年業界に携わり、今も日本鉄道電気技術協会で業界の発展に貢献し続けているお二人、

情報科学を専攻したのち入社した国鉄で信号・通信の分野で活躍、運輸省に移られ、省庁再編後の国土交通省では航空・鉄道事故調査委員会の首席調査官なども務めた中桐 宏樹専務理事
電気工学を専攻したのち国鉄に入社、信号の分野でキャリアをスタートし、分割民営化後のJR東海では静岡支社工務部長、執行役員建設工事部次長などを歴任した髙嶋 秀一技術顧問です。

それではどうぞ!

 鉄道の進歩=電気技術の進歩

――世間一般では、ディーゼルカーの走る路線も含め「鉄道=電車」という感覚ですね。

中桐 そうですね。それも鉄道と電気技術の関わりが深いということの表れかと思います。鉄道業界に興味をお持ちの皆さんはご存じかもしれませんが、この取材が行われている2022年は、1872年の鉄道開業から150周年の節目の年です。

初期の鉄道の動力源は蒸気、信号も現在のような電気式でなく機械式でしたし、駅の明かりも油灯でした。初期の鉄道は「汽車」と呼ばれ、電気とは無縁だったのです。

その後、1895年には京都市電が日本で初めて電車で営業運転を開始。それから9年後の1904年には、信号の分野で軌道回路(電気を利用して、特定区間内の列車を検知する仕組み。信号システムの基本要素の一つ)が実用化されました。現在のJR中央線の一部、甲武鉄道でのことです。

戦後になっても、1964年開業の東海道新幹線を含め、新しい鉄道や新しい鉄道技術の多くは電気に関連するものでした。その点では、「鉄道の進歩=電気技術の進歩」といっても、あながち言い過ぎではないと思います。

発電、送電、変電 すべてを持つ鉄道業界

――動力源としての電気は、蒸気やディーゼルエンジン(気動車)とは、車両への供給方法がかなり異なりますね。

髙嶋 電気の流れをみれば、発電所で電気をつくるのが「発電」、発電した電気を使いやすい電圧や周波数に変換するのが「変電」(首都圏や関西圏の在来線は直流1500ボルト、新幹線は交流2万5000ボルトが一般的です)、そして発電所から変電所や線路に電気を送る「送電」に区分できます。

もう一つ、鉄道独特の電気設備が「電車線」。一般には「架線」と呼ばれますが、走行中の電車は架線から車体に取り付けた集電装置のパンタグラフを経由して、電力供給を受けます。駅や列車内の照明や空調、エスカレーター・エレベーター、改札機などもエネルギー源は電気です。

レールは車両が走る方向を定めるだけでなく、電気回路の一部としても機能しています。

――鉄道にとって電気は動力源以外でも、さまざまな役目を受け持つのですね。

中桐 代表的な信号通信技術は、鉄道の安全・安定運行に絶対に欠かせないもので、鉄道電気技術の中核になります。最近はダイヤが乱れた場合、鉄道会社の枠を超えて駅や列車内で案内されるようになり、駅に行かなくてもスマートフォンやパソコンで情報が分かります。

このように電気技術は業界内だけでなく、鉄道会社がお客さまに提供するサービスの面でも大切な機能を果たしています。鉄道と社会をつなぐのが、電気技術ともいえるでしょう。

信号について、もう少し紹介しましょう。今は高度な列車制御システムも開発されていますが、線路脇の信号機に表示される、赤・黄・緑色の表示に従って列車を動かしたり止めたりする。これが列車運行の基本です。

鉄道信号機の例。

信号と並べて語られることも多い通信も、重要な鉄道関係の設備です。指令(会社によっては司令)と呼ばれる、列車運行状態をチェックして運行計画を立てる本部のようなセクションと、運転士や車掌が会話できるのは通信設備があるからです。通信は一般のお客さまにとっても重要。列車内からメールできたり電話できたりするのは、通信設備のおかげです。

鉄道電気技術は大体以上の通りですが、もちろん車両や施設(トンネル、橋りょうなど)といった鉄道技術の他分野でも、電気技術が大切な役割を受け持ちます。 

分業の進展、存在感増すグループ企業や協力・施工会社

――鉄道電気工事や日々の点検・メンテナンスなどで、鉄道会社とグループ企業、実際の作業を受け持つ協力会社・施工会社は、どのように役割分担するのですか。

髙嶋 最近の鉄道業界は分業化が進んでいます。鉄道会社が計画を立て、実際の作業はグループ企業や協力・施工会社に任せる事例が増えています。

分業化の背景にあるのが、専門性の高い業務はノウハウを持つ企業に任せることで業務が効率化されること。ここ数年、ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、ビッグデータなどによる技術革新が急ピッチで進んでいます。

鉄道業界全体をみれば、グループ企業や協力会社が技術開発を先導し、技術力を蓄える中で、存在感を増しているという見方も可能でしょう。

――鉄道業界を志望する学生さんにとっては、グループ企業や協力・施工会社に、自らの活躍の場を見付ける選択肢も大いにありそうですね。

中桐 その通りです。グループ企業や協力会社が鉄道会社の下請けだったのは昔話。鉄道会社、グループ企業、協力・施工会社が対等の立場で鉄道システムを造り上げる時代を迎えています。

入社後の話になりますが、当協会も技術講習会のほか、インターネットで技術課題を学ぶeラーニング「実力試験道場」、会社の枠を超えて業務研究の成果を発表する「鉄道電気テクニカルフォーラム」といった人材育成の取り組みを進めており、所属企業に関係なく、若手技術者の受講が増えています。

5Gで実現する鉄道の自動運転

――さきほどICT、IoT、AI、ビッグデータといった用語が出ましたが、トピックスがあればご紹介ください。

中桐 代表的なのが「5G」でしょう。正式名称は「第5世代移動通信システム」で、国際電気通信連合が定める第5世代の通信規格。

次世代通信規格は新しい携帯電話など、われわれの身近にもあるわけですが、鉄道の世界で大きな可能性を持つのが列車の自動運転です。安全な自動運転のためには、運行中の車両と地上側との大量のデータのやり取りが必要で、情報伝達のパイプになるのが5Gです。

 例えば、JR東日本は2021年3月のダイヤ改正から、常磐線各駅停車でATO(自動列車運転装置)による自動運転を始めています。ホームドア整備も合わせ、さらなる安全・安定輸送を実現するともに、業務効率化を目指しています。

自動運転の基本になるのが、決められた速度通りに走らせる列車運行システムのATC(自動列車制御装置)。ただし規定速度通りの運転だと、急な加減速の繰り返しになりがちです。

それを補うのが、ATO(自動列車運転装置)。ATOはあらかじめ設定された線区最高速度や制限速度から、車上のコンピューターでなめらかな加減速曲線を目標速度として描き出し、最終的に駅の定位置に停止させます。それこそが自動運転の中核で、多くの鉄道電気技術者がシステム開発に取り組んでいます。

若手が活躍できるフィールドは無限に広がる

――鉄道の電気技術は、今なお進化のスピードを早めているのですね。

中桐 鉄道電気技術の世界には、鉄道に興味を持つ皆さんが活躍するフィールドは無限に広がっています。志望先を考える際は、ぜひ視野を広げていただければと思います。

髙嶋 どんな仕事でも同じでしょうが、社会に出てみると、学生時代の考えとはずいぶん違うと感じる場面もあろうかと思います。理由の一つとして思い当たるのが、例えば一口に鉄道信号といっても、学校で学んだこととは大きく違い、覚えなければならないことも多いことです。

大変なのは分かりますが、やはり鉄道電気技術もものづくりの世界ですから、仕事の成果物として自分の建設やメンテナンスに携わった路線を列車が快走するのを見れば、達成感ややりがいが湧いてきます。

営業列車の通らない夜間に行われた、電車線を新型に交換する作業の様子。利用客の知らないところでも、着実に進歩を続けている。

もちろん、採用する企業にとっても、せっかく入社した人材の流出は大きな損失。そこで業界各社はしっかりとした教育・研修制度を用意したり、「メンター制度」を設けて、先輩が新入社員や若手社員の相談に乗ったり、(コロナ禍の今は難しい面もありますが)たまには一緒に食事をしながら悩みを聞く、といった取り組みに力を入れています。

職制を柔軟化し、地元志向の方は、将来的には地元に戻れる勤務制度を創設した企業もあります。

機械化やICT化が進む業界ですが、将来的にすべてを機械に置き換えることはできず、人材は絶対に必要。鉄道電気技術業界を志望する皆さん、そうした点も含めて志望先を選んでいただければと思います。

――なるほど。鉄道電気技術が、やりがいある仕事だというお2人の熱意は十分に伝わってきました。 

髙嶋 もう一つ、こんな話をしてみましょうか。ある若手技術者の方が結婚前、休みの日に彼女を夜間の工事現場に連れていったそうです。「自分の仕事は、夜中に家にいられないことも多い。こんな風に働いているんだよ」と、家族になる人に理解してもらうためです。

そして、次は自分が携わった路線を走る列車に彼女を誘い、どんな工事だったかを説明しました。それだけ自分の仕事に、誇りや責任を持っているということでしょう。

――いいお話を伺いました。最後に中桐専務理事、髙嶋顧問から鉄道電気技術の世界を志す皆さんへのエールを。

中桐 私の鉄道人生のスタートは、新潟地区で携わった信号システムの近代化でした。その後も各地の工事に携わった結果、いろいろな土地に〝故郷〟ができた。ずいぶん経ってから再び訪れることがあると、とても感慨深くなります。
この点が、鉄道電気の世界に長年携わっての財産なのかなという気がします。

髙嶋 私も鉄道信号マンとしてのキャリアを形成してきました。
鉄道は上下関係の厳しい世界と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、鉄道マンは意外に柔軟で、私も入社して10年たたないうちに車両基地に線路を増設する工事で、信号の設計を任されました。

大変な仕事ではありましたが、先輩の指導もあって無事作業を完了することができました。工事を終えて、新設した線路に次々に列車が入ってくるのを見ると、頭の中では分かっていたことながら、思わず心の中でガッツポーズを決めました。非常に感動したのを覚えています。

中桐 繰り返しになりますが、鉄道電気技術の世界は規模が大きくスパンの長い仕事もあり苦労もあるかもしれませんが、その分だけやりがいや達成感も大きい仕事。われわれや先輩と一緒に、鉄道の新しい扉を開きましょう。

おわりに

この記事の取材はリモートで行われましたが、画面越しからもお二人が携わってきた鉄道電気技術に対して持つ誇りや、面白さ、魅力といったものが伝わってきた、非常に濃厚な時間でした。
動力、信号、通信など鉄道の様々な分野で電気技術が活躍していること、自動運転の分野での可能性など、業界の今とこれからについてが詰まった内容だったのではないでしょうか。

そして、これまで紹介した施設や車両機械技術同様、電気技術の世界においても、その分野の広さゆえに様々な会社が存在します。
就職活動を進める際には、ぜひそういった視点で色々な会社について調べてみてください。きっとあなたの夢の実現に近づける出会いがあるはずです。

いよいよ今日、3月1日から情報解禁となる企業も多いと思います。
みなさんの就職活動がより良いものとなるよう、今後もこのnoteアカウントでは鉄道業界を志望するみなさんのお手伝いになるような情報を更新していきますので、フォローと「スキ」をなにとぞよろしくお願いします!

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