大手私鉄並みの収益に満足せず、都市型MaaS構想の実現へ【就活生向け・決算短信を読む㉓大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)】
この記事では、大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)の決算資料に掲載されている収益の数字や事業構成などを通じ、Osaka Metroの今が分かることを目指します。
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大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)とは
大阪市高速電気軌道は、大阪市およびその周辺に御堂筋線、谷町線などの8路線の地下鉄路線などを運行する交通事業者です。多くの人にとっては、「Osaka Metro」の愛称の方が馴染み深いことでしょう。Osaka Metroの前身は、2018年3月まで存在した大阪市交通局が運営していた市営地下鉄事業です。
その市営地下鉄事業の始まりは戦前にさかのぼり、1号線(現在の御堂筋線)が開業したのは大阪市電気局時代の1933年のことです。
開通当初は1両編成での運転でしたが、将来的な拡大を見越してホーム長などに余裕をもって施工していたことで、その後の長編成化にも工事が少なくて済んだという、先見の明が光る設計でした。
その後も大阪市交通局の地下鉄事業はまちづくりと一体化して進められました。1960年代には中央線、谷町線、千日前線、堺筋線と相次いで新線が開業し、路線網は順調に拡大していきます。
市内の交通政策を主導してきた大阪市交通局ですが、関連事業の展開を広げることや市の財政負担を減らすことなどを目的として、その民営化が政治課題として取りあげられるようになりました。
最終的には2018年3月に大阪市交通局は廃止され、その事業の一部をOsaka Meroが承継し、現在に至ります。ただしこの記事を執筆している2024年5月の段階でも、Osaka Metroの株式は大阪市が100%保有しており、一般的な私鉄とは立ち位置が異なります。
営業収益・営業利益・経常利益
まずは基本の数字、ということでOsaka Metroの営業収益・営業利益・経常利益について見ていきましょう。
地下鉄事業の運輸収入の増加を主な原因として、増収増益を達成しました。
コロナ禍の影響が少なかった2020年3月期と比較すると以下の通りです。
コロナ禍で落ち込んだ営業収益・各利益が回復し、いずれも2020年3月期を上回っています。地下鉄事業の乗車人員では2020年3月期に対して約96%、運輸収入はほぼ同水準まで回復したとのことで、コロナ禍の影響はかなり小さくなったといえます。
【就活生注目】Osaka Metroの事業構成
Osaka Metroのセグメント別営業収益の割合は以下の通りです。
鉄道事業を含めた交通事業の占める割合が9割超と極めて高く、マーケティング・生活支援サービス事業、広告事業、都市開発事業が続きます。
こんな構成を、似たような事業者で見たことはありませんか?
そう、東京メトロです。
両者はいずれも大都市で地下鉄事業を展開し、近年まで非鉄道事業の展開が進んでいなかったという点が共通しています。
ここからはセグメント別に詳細を見てみましょう。
交通事業のセグメントには、Osaka Metroが経営する地下鉄事業や、社会実験としてOsaka Metroが運行しているBRT「いまざとライナー」、子会社の大阪シティバスが運営するバス事業が所属します。
マーケティング・生活支援サービス事業のセグメントでは、駅の改札内外における商業店舗の展開などを行っています。
広告事業のセグメントでは、車内広告や駅における交通広告などを取り扱っています。
都市開発事業のセグメントでは、商業オフィス複合ビルや賃貸マンション、の展開や、分譲マンションの展開を行っています。他の鉄道事業者で言うところの、不動産事業です。
Osaka Metroの強み:輸送人員と運輸収入の規模
日本第二の都市大阪の中心部に路線を張り巡らせているOsaka Metro。
鉄道事業の輸送人員は2023年度で9億人弱を誇ります。大手私鉄16社と比べると、東京メトロに次ぐ数字です。運輸収入も1,500億円を超え、安定的な収益源として大きな強みとなっています。
非鉄道事業のポテンシャルと都市型MaaS
Osaka Metroは都市型MaaS構想を掲げています。
乱暴にまとめると、「鉄道などの移動と、商業施設やWebサービスの利用などの生活サービス、この2つの領域がパーソナライズされた上で一体的に提供できるような仕組みを作る」といったものです。
ユーザーの目線で言うと、鉄道の利用、オンデマンドバスの利用、駅やその周辺の商業施設の利用、生活サービスの利用……こうしたさまざまなサービスの利用が自分自身の利用状況や好みに合わせて提供され、それが一体的に体験できる、ということです。
生活サービス事業領域を伸ばそうという志向自体は大手私鉄によく見られるものでありOsaka Metro特異のものではありませんが、それらの大手私鉄と比較すると非鉄道事業の規模が小さいOsaka Metroにおいては重要なチャレンジであるといえます。
直近の動きでは、2024年5月9日にはOsaka Metroやシティバスの利用などでポイントを貯められるポイントサービス「Osaka Pointアプリ」を、オンデマンドバス、生活支援サービスなどの利用に用いられる「e METROアプリ」に統合しました。上の表でいう「第0層」の領域です。
ほかにも「第3層」で掲げられる「フィジカル空間での生活・都市機能の整備」は決算資料で「マーケティング・生活支援サービス事業」の取り組みとして挙げられている、地下街や駅ナカにおける店舗の増加にあたります。
このように、Osaka Metroはこの「都市型MaaS構想」に基づき、さまざまな事業で具体的な取り組みを実施しています。
Osaka Metroを志望する方は、個別具体的な施策までいかずとも、Osaka Metroが目指している方向性については把握しておきたいところです。
大阪万博に向けて~中央線夢洲延伸~
大阪万博はOsaka Metroの株式をすべて保有する大阪市にとって重要課題ですが、会場予定地である夢洲には鉄道がありません。
このため、隣の咲州にあるコスモスクエア駅からOsaka Metro中央線を延伸することで、万博会場となる夢洲への鉄道アクセスを実現する工事が進んでいます。
2025年1月末に予定されている開業後は、梅田や新大阪から乗り換え1回で夢洲へ到達することが可能になります。このほか、Osaka Metroでは夢洲延伸以外にも中央線の車両増備や留置線の増設など、幅広い対策で万博輸送に備えることにしています。
これら万博輸送への対応は一種の「時事ネタ」として、Osaka Metroを志望するなら押さえておきたいところです。
なお中央線の延伸工事については、施工業者の一社である大林組が、トンネル掘削工事にあたって直面した課題や、解決するための対策をWebサイトで公開しています。
埋め立て地特有の軟弱な地盤や地中に埋設された排水材への対応といった具体的な工事の状況が解説されているので、鉄道の新線建設に興味がある方はぜひご覧ください!
決算短信から読むOsaka Metroの今後
日本民営鉄道に属していないため大手私鉄の枠組みに含まれないOsaka Metroですが、鉄道事業の営業収益や輸送人員は大手私鉄と比較しても引けを取らない規模です。コロナ禍で落ち込んだ運輸収入も、以前の水準まで回復してきています。
民営化されたとはいえ大阪市が株式の100%を保有しているため、市の政策に影響を受ける状況は続くことや、他の鉄道事業者同様に長期的な人口減少のようなリスクは考慮する必要があるものの、当面の間は安定的な経営が見込めます。
とはいえ、今後鉄道の利用者が大幅に伸びるというのも考えづらいところです。このような状況下で成長材料として注目されるのは、都市型MaaS構想のゆくえです。
運行に特化していた大阪市交通局時代の事業モデルを脱却し、鉄道などの移動と、商業施設やWebサービスの利用などの生活サービス、この2つの領域が一体的に提供できるような仕組みの実現を目指しています。
この都市型MaaS構想が実現できるかが、Osaka Metroの今後を左右するといえるでしょう。
まとめ
関連リンク
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今後も、鉄道事業者については、売上高の規模の違いなどに留まらず、グループ全体の売上や利益について鉄道事業が占める割合の違いなどに注目して取りあげていきたいと考えています。もちろん鉄道事業者以外の企業についても取りあげる予定ですので、お楽しみに!
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