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駅や新幹線をオフィスに変える――就活生向け 鉄道業界ひとくち解説「働き方の多様化と鉄道」

「鉄道業界ひとくち解説」シリーズでは、鉄道業界の「いま」と「これから」についてのちょっとした知識を提供することを通じて、鉄道に関わる仕事を目指す方の選択の幅を広げたり、ESや面接のネタを増やしたりすることを目指しています。

第4回のテーマは「働き方の多様化と鉄道」です!


はじめに

以前から進んでいた働き方の多様化はコロナ禍により劇的に進展しました。これはテレワークの導入率という数字にはっきりと表れています。

東京都が従業員数30人以上の企業に対して行っている調査によると、2020(令和2)年3月に24%だったテレワーク実施率は2022(令和4)年5月の段階で56.7%となっています。緊急事態宣言期間後にはやや減少しているものの、今後もコロナ禍以前と比べると高い水準を維持すると見込まれています。

引用元:東京都産業労働局「テレワーク実施率調査結果をお知らせします! 5月の調査結果」

これは鉄道事業者にとって重要な事実であり、通勤定期の利用者が減ればそれだけ運賃収入が減少することとなります。
皆さんも感じていることでしょうが、コロナ禍は鉄道事業者にとって逆風となっているのです。

しかし、鉄道事業者も手をこまねいていたわけではありません。働き方の多様化に対応するべく、様々な工夫がなされています。

「S Work車両」:JR東海「のぞみ」にビジネスパーソン向け車両が登場

JR東海・JR西日本では、2021年10月1日から東海道・山陽新幹線の「のぞみ」7号車の座席を1両丸ごとビジネスパーソン向けの「S Work車両」として、他の車両の座席とは別枠で発売しています。

もともと東海道・山陽新幹線においては、コロナ禍以前でも座席のテーブルにノートPCを置いて作業する利用客の姿を見ることは珍しいことではありませんでした。

ただ車内マナーの観点から、座席での携帯電話やウェブ会議での通話はできませんでしたし、静かな車内では打鍵音もよく響きます。
それ以外にも、車内で利用できる無料インターネット回線「Shinkansen Free Wi-Fi」にも1回あたりの利用時間に制限があるなど、仕事を進めるにあたっていくつかの制約があったのは事実です。

しかし「S Work車両」ではそれらの問題を解決するべく、7号車を1両丸ごとビジネスパーソン向けとしたことで、通話の音声や打鍵音をお互いに許容できる空間としました。

インターネット回線についても、利用時間の制限を撤廃し容量やセキュリティ面も改善した「S Wi-Fi for Biz」を利用できるようにし、画面を横から見られることを防ぐ簡易衝立など便利なツールが貸し出されるなど、仕事をする空間としての使い勝手のよさを追求したサービスとなっています(ただしN700Sでの運転時のみ)。一部の列車では、喫煙室だったスペースを改造した「ビジネスブース」も登場しています。

前述の通り「新幹線の中でも集中して仕事をしたい」というニーズは以前から存在していたわけですが、そのニーズが汲み取られて1両丸ごとビジネスパーソン向け車両とするに至るまでには、コロナ禍による働き方の多様化という背景があることは言えるでしょう。

より詳しい内容が気になった方は以下のリンクからどうぞ。記者が実際に「S Work車両」を利用した体験記や、JR東海の担当者へのインタビューを掲載した記事も、本来有料ですが特別に無料で読めますよ!

>>交通新聞電子版「S Work車両」の検索結果(2021年7月1日~2022年7月1日)

「TRAIN DESK」:JR東日本のビジネスパーソン向け車両

2021年11月からは、東北・北海道・上越・北陸新幹線においてビジネスパーソン向けに「新幹線オフィス車両」が導入されました。

2023年3月20日からは「TRAIN DESK」と名称が変わり、券売機や「えきねっと」でも一般の指定席とは区別して表示されるようになりました。

「TRAIN DESK」の公式Webサイトでは「おすすめの利用シーン」を

TRAIN DESKは、車内で仕事・勉強などをされるお客さま優先の普通車指定席です。

ワーク&スタディ優先車両“TRAIN DESK”|JR東日本

としています。東海道新幹線の「S Work車両」同様に、座席での通話やWeb会議を可能としている他、一部の停車駅ではリモートワークに必要なツールの貸し出しも行っています(ただし2023年5月31日までのトライアル。その後の実施の有無は未定)。

2023年4月現在、「TRAIN DESK」の設定対象となっているのは平日(ただし最繁忙期を除く)運行の「普通車指定席設定のある東北・北海道・上越・北陸新幹線全列車」となっており、秋田新幹線の「こまち」や山形新幹線の「つばさ」などでは利用できません。

ですが新幹線のビジネス優先車両は広がりを見せており、利用状況次第では更なる展開が見込まれるのかもしれません。

駅にビジネス空間を

JR東海「EXPRESS WORK」

一方で駅に目を向けると、2021年12月1日には東京駅・名古屋駅・京都駅・新大阪駅においてEXサービス会員向けワークスペース「EXPRESS WORK」の提供が始まっています。

この「EXPRESS WORK」と先ほど紹介した「S Work」を組み合わせることで、たとえば東海道新幹線で東京から新大阪まで移動する際の時間を無駄なく仕事に利用できるような仕組みになっているのです。

サービス内容は充実の一途にあり、2022年9月から11月にかけてはいずれも東海道新幹線の途中駅である豊橋駅、静岡駅、浜松駅、品川駅、新横浜駅、三島駅にも新設。
すでに設置された駅においても個室ブースタイプのワークスペース「EXPRESS WORK-Booth」の増設が進められています。

JR東日本「STARION WORK」

JR東日本の駅を利用する方は、普段利用する地元の駅や、繁華街最寄りの駅構内に個室ブースがあるのを見かけた人も多いのではないでしょうか。

これは「STATION BOOTH」と呼ばれるサービスで、エキナカ空間の更なる活用策の一つとして2019年8月1日に開業したものです。

JR東日本では「STATION WORK」という様々な形のワークスペースを提供するサービス群を展開しており、この「STATION BOOTH」もその一つです。それ以外にもコワーキングスペースの「STATION DESK」などの関連サービスがあり多様なニーズに応えています。
事業エリアも広がり続け、JR東日本エリアに留まらず、現在ではJR西日本やJR九州の駅にも「STATION BOOTH」が設置されています。

noteにも実際に利用した人による記事がいくつもありました。いくつか注意点はありますが、就職活動のWeb面接にも使えそうです。

付け加えておくと、「STATION BOOTH」のサービス開始がコロナ禍以前であることからも分かるように、「エキナカ」の活用・充実はコロナ禍以前からの重要なテーマです。「乗り換えなどのスキマ時間の活用」といったニーズも同じくコロナ禍以前から存在していました。

ただコロナ禍における働き方の多様化が、こういったシェアオフィスの活用の後押しにもなっていることは言えるでしょう。

>>交通新聞電子版「シェアオフィス」の検索結果(2021年7月1日~2022年7月1日)

「ソライエプラスワーク」:東武鉄道が目指す、職住近接の実現

鉄道とビジネス空間の話題は、なにも都心に限ったものではありません。

首都圏に路線を持つ東武鉄道は、2020年6月30日にサテライトオフィス「ソライエプラスワーク」を開設しました。

2017年度から2019年度にかけて参画してきた厚生労働省による「『仕事と子育てを支援する』サテライトオフィスのモデル事業」において運営してきたものを、東武鉄道運営のサービスとして実現したものです。

シェアオフィスのようなスキマ時間の活用をかなえるのが目的ではなく、サテライトオフィスが実現するのは主に職住近接なので、立地も都心ではない郊外の駅になっています。
職住近接を実現することで、仕事と介護や子育ての両立をしやすくなり、ワークライフバランスも向上させる効果が期待されています。

サテライトオフィスの開設による職住近接の実現もコロナ禍以前から進められてきた取り組みではあるのですが、働き方の多様化が進む中での鉄道会社の新たなビジネスとして注目です。

まとめ

この記事では、以下のような内容をお伝えしました。

  • 徐々に進められてきた働き方の多様化がコロナ禍で加速された

  • 移動時間にも仕事をするニーズが高まり、新幹線の車内や駅にビジネス向けの空間が整備されるように

  • 従来から進められてきた駅構内やその周辺の利活用に、シェアオフィスなど新たなビジネスが加わり、広がりを見せている

  • 働き方の多様化を含めた生活様式の変化により鉄道の利用者は減少したが、その中でも新しい取り組みが進んでいる

ちなみにコロナ禍において注目され始めた働き方の話題では「ワーケーション」も挙げられるのですが、これはまた別の機会に取り上げたいと考えています。
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交通新聞電子版記事検索結果リンク

以下のリンクからは、「交通新聞電子版」の記事の一部を特別に無料で読むことができます。
>>「S Work車両」の検索結果(2021年7月1日~2022年7月1日)
>>「シェアオフィス」の検索結果(2021年7月1日~2022年7月1日)

※2023年4月28日 記事の内容を2023年4月現在の内容に修正しました。
※2023年9月1日 「EXPRESS WORK」について2023年8月現在の内容を反映しました。

#鉄道 #就活 #交通新聞社 #テレワーク #JR東日本 #JR東海 #東武鉄道