2000年頃の主要駅における段差解消率は、3割にも満たない状況でした。現在は―― / 就活生向け 鉄道業界ひとくち解説「バリアフリー化」
鉄道業界のことを知って、ESや面接のヒントにしようという「鉄道ひとくち解説」シリーズ第2回のテーマは「バリアフリー化」です。駅のホームや通路、車両、その他の様々な場面において、バリアフリー化はいまや極めて重要なテーマの一つとなっています。
というのも、実は首都圏でも駅のバリアフリー化が進められるようになったのは2000年前後からの話です。それまでほとんどの駅では段差が解消されていませんでした。
しかし障害者団体など利用者からの声が高まったことや、2000年の交通バリアフリー法制定が契機となって様々な面でのバリアフリー化がはじまり、2020年度末の段階では、利用者数が3000人以上の駅に限れば約95%の駅で段差が解消されるようにまでなったのです。
このように「バリアフリー化」は近年の鉄道における重要なテーマの一つであるわけですが、同時に鉄道会社のみならず、ホームドアやエレベーターといった駅にある機械の設置・整備を担う会社についても関係のあるテーマです。
今回は駅と車両に分けて、鉄道におけるバリアフリー化とは具体的にどのような取り組みを指すのかについて解説します。
鉄道におけるバリアフリー化とは:駅
駅のバリアフリー化というと、みなさんはどのようなことを思い浮かべるでしょうか。一部を挙げるだけでも
段差解消のためのエレベーター・エスカレーターといった昇降装置やスロープの設置
ホームドアの設置
ホームと車両の隙間や段差の軽減
視覚障害者誘導用ブロックの設置
多目的トイレの整備
通路幅の広い自動改札機の設置
点字案内板・音声案内装置の設置
などがあります。
これらは高齢者や障害を抱える人たちのためだけではなく、あらゆる人が移動しやすい世の中を実現するために必要な取り組みなのですが、その整備には多大な費用が必要です。
そのため、以前よりバリアフリー化に当たって必要な設備の設置については鉄道事業者に向けて行政からの補助がなされたり、税制上の優遇がなされたりしており、利用者の多い駅を中心にして徐々にバリアフリー化が進められてきました。
しかし外出自粛要請が続いたことや、その後の生活様式の変化もあって、バリアフリー化の主体となる鉄道事業者の経営状況は以前より厳しい状況にあります。その影響は様々な個所に及びましたが、バリアフリー化の進展にあたっても懸念材料となっていました。
そのような状況においても鉄道におけるバリアフリー化が加速化されることを狙って、2021年12月に「鉄道駅バリアフリー料金制度」が創設されました。
鉄道駅バリアフリー料金制度
鉄道のバリアフリー化については、導入に必要な費用の一部に補助金が支出されたり、整備した設備(資産として扱われます)に対する固定資産税などが減免されたりといった支援策が講じられてきました。
そのような状況下で鉄道駅のバリアフリー化を更に加速させるべく導入されたのが鉄道駅バリアフリー料金制度です。
制度の詳細な内容は所轄官庁である国土交通省のWebページの解説に譲りますが、就活生の皆さんにとって大事なのは以下のポイントです。
都市部において、駅のバリアフリー化に要する費用を運賃に転嫁することが制度として認められた。
これは、運賃の変更について国への認可申請が必要な鉄道事業者にとっては大きな後押しで、
という考え方に基づいています。
利用者の比較的多い都市部においては、運賃を値上げすることで利用者に薄く広く負担をしてもらい、バリアフリー化の推進に必要な費用の一部を賄おう、ということですね。
実施するにあたっては様々な条件もありますが、2022年12月26日現在では、JR東日本や東京メトロ、東武鉄道、西武鉄道など、以下のような鉄道事業者から制度の活用を目指す発表がなされています。
「鉄道駅バリアフリー料金制度」について直近1年間の交通新聞電子版記事はこちらからどうぞ!
バリアフリー化に関心の高い方は、自分の志望する会社やその主要取引先の会社がバリアフリー化に貢献しているのかや、どの程度バリアフリー化に積極的なのかといった点にも注目してみましょう。
たとえば機械の領域で鉄道に関わる会社には、ホームドアの製造・整備に携わっている会社が、土木の領域で関わる会社には、ホームドアの設置に関わる会社があります。
そういった会社を志望先に考えている方は、バリアフリー化を進めようとする社会状況や、ホームドア整備率が会社の将来性などについて考える材料になるかもしれません。
鉄道におけるバリアフリー化とは:車両
駅についてだけではなく、鉄道車両においてもバリアフリー化が進んでいます。例を挙げれば
優先席の設置
車いすスペースの設置
乗降時のステップの解消(ホームの改良とセットである場合も多いです)
車いす対応トイレの設置
扉位置を示す点字対応パネルや音声案内装置の設置
といった形で様々な取り組みが進められています。
国の定めるバリアフリー基準も年々進歩しており、たとえば2020年の改正では新幹線については1編成あたりの座席数に応じて車いすスペースの数の下限が従来より増やされました。
これに合わせ、2020年に登場した東海道新幹線のN700Sにおいては車いすスペースが6席に増やされています。
今後は新規車両の製造においてのみならず、既存車両の改造においてもバリアフリーの目線がますます欠かせなくなるでしょう。
車両の整備や改造を担う会社においても、鉄道車両という構造上の制約がある空間でいかにバリアフリー対応を実現していくかという点が課題になってくるのではないでしょうか。
まとめ
かつて一部の駅にしかなかったエレベーターも徐々に整備される駅が増え、こんにちの東京周辺では無い駅を探す方が難しい印象です。障害者用トイレについても急速に整備が進みました。
また、通勤電車では車椅子スペースが増え、特急列車や新幹線では車椅子対応座席の数が増えました。
今後も様々な形でバリアフリー化の取り組みは続くはずですので、鉄道業界を志望されている方はぜひ意識してみてください。
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鉄道業界ひとくち解説シリーズ、第1回「貨客混載」についてはこちら。
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※2022年12月26日 タイトルおよび、鉄道駅バリアフリー料金制度の導入状況について更新しました。
※2023年2月6日 内容を一部修正しました。