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100年前の仕事を、100年先まで繋げる。進化を続ける鉄道施設の魅力【業界解説】

さて、自己紹介記事を除けばこのアカウントの一つ目の投稿になるのは、就活生の皆さんのための鉄道業界解説記事です。
その第一弾は「鉄道施設の世界」!土木や建設の面からインフラや鉄道に興味があっても、具体的な業界の中身を知る機会はあまりないものです。
「どんな仕事があるのか」「業界は今どのような状態なのか」そして「今後どうなっていくのか」。学生の皆さんからの疑問に答えるべく、プロフェッショナルの方にお話を伺うことにしました。

インタビューをお受けしてくれたのは、学生時代に土木工学を専攻、日本国有鉄道に入社、国鉄民営化後もJR東海の新幹線鉄道事業本部などで保線に携わり、現在は日本鉄道施設協会で専務理事を務める近藤邦弘さんです。
およそ1時間のインタビューでしたが、長年業界に携わってきた方として、非常に充実した内容を話してくださいました。

それではどうぞ!

地盤より上はすべて鉄道施設

――最初に伺いますが、そもそも鉄道施設とは何を指すのでしょうか。

近藤 鉄道のハード面を一口で言い表せば、「鉄道技術」と総称できそうです。実際の鉄道技術が、分野別に細分化されることは学生の皆さんもよくご存じと思います。具体的には、車両、運転、電気などに分かれ、鉄道施設は主として土木関係の鉄道技術を構成する主要な技術分野の一つです。

鉄道施設とは、線路やトンネル、橋りょうといった構造物を指します。これらを総合して、「鉄道を走らせるための土台が施設だ」といえば、多少なりともイメージをつかんでいただけるでしょうか。
鉄道の新線建設をお考え下さい。また、当然ですが、線路を敷かないと列車は走れません。鉄道施設がないと、鉄道は始まらないのです。その線路もレール、マクラギ、バラスト(砕石)といった多くの部材で構成されており、それぞれに技術があります。

西九州新幹線の建設工事で、線路の土台部分である「道床」と路盤の間に緩衝材となるモルタルを注入している様子。 提供:JRTT鉄道・運輸機構

先ほど、「鉄道技術はさまざまな個別技術の集大成」と申し上げましたが、それは線路、トンネル、橋りょうといった鉄道施設も同じ。多様な技術の集合体として、鉄道施設は成り立つのです。

未来に続く「鉄道を造る」仕事

――近藤専務の話で鉄道施設に興味を持った方もいらっしゃると思いますが、鉄道施設に関してはどんな仕事があるのでしょう。

近藤 代表的なのは「鉄道新線の建設」です。明治維新以降の近代化への貢献は言うに及ばす、日本が戦後、全国規模で経済成長を遂げた原動力として、旧国鉄の新幹線や在来線、さらには私鉄や公営鉄道のネットワーク整備が貢献したことに議論の余地はありません。

現在、日本の鉄道網は基本的な整備を完了したと言われています。しかし、整備新幹線やリニア中央新幹線など、新しい高速鉄道の建設工事は今も進行中で、高速鉄道を待望する声は各地に挙がっています。

都市鉄道の新線建設や改良も、新交通システムをはじめ新しいスタイルの鉄道も含め各地で進みます。こうした「鉄道を造る仕事」は、未来に続くはずです。

重要性を増す「鉄道メンテナンス」

もう一つ、最近造る仕事以上に重要性を増しているのが、「鉄道を保守する仕事」。鉄道施設メンテナンスの仕事の代表格といえる線路を維持管理する「保線」は、鉄道創業期から重要な仕事でした。

列車の運行を妨げないために、夜間に行われている保線作業の様子。技術進歩もあり、かつてと比べ作業効率は目覚ましく向上しているという。 提供:日本鉄道施設協会

もう少し視点を変えて鉄道メンテナンスを探れば、日本では1960年代からの高度経済成長期に建設されたインフラが今、一斉に更新時期を迎えています。鉄道はもちろん、道路、空港、港湾など、インフラはきちっと整備すればまだまだ継続使用でき、その点も鉄道施設を取り巻く仕事への社会的な必要性を高めています。

鉄道メンテナンスは、同じ鉄道技術でも新型車両や鉄道高速化などと異なり、表面に出る機会は必ずしも多くありません。しかし、経済や人々の生活を支える社会的使命は大きく、一生を託すにふさわしい仕事といえるでしょう。

急速に進む「鉄道DX」

 ――世の中では、技術革新が盛んにいわれます。鉄道施設ではいかがでしょうか。

近藤 鉄道施設の世界でも、技術革新が急加速しています。学生の皆さんも、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の言葉をお聞きになったことがあるでしょう。DXは、一般に「ICT(情報通信技術)による社会変革」を表すようで、鉄道施設もデジタルによる技術革新が日々進んでいます。

例えば、線路に補修が必要かどうかは、これまで社員・職員が徒歩で沿線を巡回して確認していましたが、最近は営業中の列車にセンサーを取り付けて、列車の揺れなどを分析して点検の必要な箇所を見つけ出す技術が開発され、普及しつつあります。

鉄道施設の技術は今、大きな転換期にあるわけで、その点でもフレッシュな人材を迎えるフィールドが無限に広がっているといえます。

鉄道事業者と協力会社は重要なパートナー

――鉄道施設の建設や保守は、どんな企業が受け持つのでしょうか。

近藤 新線建設など大きな鉄道施設建設関係の工事は、複数の建設会社(ゼネコン)が共同企業体(ジョイントベンチャー=JV)を組んで、鉄道事業者や、整備新幹線の建設に当たる独立行政法人の鉄道建設・運輸施設整備支援機構から受注するのが、一般的です。

西九州新幹線建設に伴うトンネル掘削工事の様子 提供:JRTT鉄道・運輸機構

トンネルや橋りょうを例にとれば、工法そのものは鉄道でも道路でも大きく変わるところはありません。しかし鉄道の場合、営業線(営業列車が走る路線)の隣接地で工事しなければならないケースも多く、安全確保の点などで通常の土木工事以上に対応が必要です。

西九州新幹線建設における橋りょう架設工事。営業線の近接以外にも、道路との交差などでも通常以上に繊細な安全管理が求められる。 提供:JRTT鉄道・運輸機構

一般の建設会社でも、鉄道建設や保守に実績や専門ノウハウを持つ企業が多くあります。また、JRや一部私鉄には系列の建設会社があり、JRグループや大手私鉄の工事も、そうした企業が中心になって受注する場合もあります。どの工事をどんな建設会社が手掛けるかは情報公開されているので、興味のある方は一度調べたり問い合わせてみてはいかがでしょうか。

また保線などの鉄道施設の保守の分野の工事は、鉄道会社との密接な連携と長年培ったノウハウや経験等が不可欠な分野ですので、鉄道会社系の施設関係会社が強みを発揮しています。

――例えば、鉄道施設の工事では、鉄道事業者と施工会社は、どのように役割分担するのですか。

近藤 一般に計画・企画面は鉄道会社、工事の実施は施工会社という役割分担となっています。

新線建設などでは、路線計画、つまりどんなルートにどのような線路を敷くかといったプランなどは鉄道事業者が中心となって立てます。一方の建設会社は、施工主体として建設工事に携わり、発注者と連携をとって最適な工法などを企画計画し、工事を実施します。

高架橋のメンテナンスの様子。 提供:日本鉄道施設協会

実際に鉄道を建設・保守する場面では、鉄道事業者より施工会社の方がノウハウを持つ場合もあり、建設会社が鉄道事業者からアドバイスを求められるケースもあります。その意味では、鉄道事業者と施工会社は決して主従の関係ではなく、お互いが重要なパートナーといえるでしょう。

さらに、街づくりの場面で移動手段としての鉄道に期待される役割が高まっているのも、最近の傾向です。

鉄道の新線建設や連続立体交差事業(高架化)に代表される施設改良の社会的なインパクトや詳細は調査計画、設計を実施して、地域振興につなげるためのお手伝いをする役割を受け持つのがコンサルタント会社で、建設系コンサルタントあるいは建設会社のコンサルタント部門の存在感が増しているのが、最近の傾向といえそうです。そうした点でも、鉄道施設の事業領域は拡大しつつあります。

 地図に残る仕事、歴史をつくる仕事

――鉄道施設の仕事のやりがいは。

近藤 以前、建設会社のCMで「地図に残る仕事」というフレーズがありましたが、鉄道の建設や保守にもそのまま当てはまります。「歴史をつくる仕事」とも言いかえられるでしょう。

鉄道業界に入れば実感することですが、鉄道施設では明治や大正期に建設されたトンネルや橋りょうが、令和の現代も現役で使用されています。当然、造って終わりではなく、きちんとメンテナンスしてきたからこそ、一世紀以上を経過した現在も現役でいられるのです。

地図に残る仕事、歴史をつくる仕事には、当然それなりの責任が求められます。だからというわけではないのですが、少々荒っぽい表現をお詫びした上で使えば、鉄道施設に携わる人間には「鉄道を走らせているのは俺たちだ」「鉄道の安全を守るのは私たちだ」という、いい意味での気概を持つ人が多いと思います。

こうした立ち位置に共感した皆さん、ぜひともわれわれの仲間に加わってほしいと思います。

「青函トンネルをこの手で!!」

――近藤専務から学生の皆さんへのメッセージをお願いします。

近藤 どれだけお役に立つか分かりませんが、私自身の経験をお話しましょう。私が鉄道の世界に入った半世紀ほど前、鉄道業界を志望した多くの仲間は、「青函トンネルを造りたい」「瀬戸大橋を造りたい」と希望に燃えていました。

私自身も学生時代、当時建設中だった青函トンネルで現場実習を実施して、これこそが「一生を託せる大きな仕事」と感じて、鉄道施設の世界に足を踏み入れました。
当初希望したのは、青函トンネルをはじめとする鉄道建設の仕事でしたが、実際に配属されたのは線路のメンテナンスの保線の仕事でした。当初は希望を異なり少しガッカリしましたが、取り組んでいくうちに、知れば知るほど奥が深く、保線の面白さに日々引き付けられていきました。

先ほど、鉄道施設の世界では明治・大正期のトンネルや橋りょうが現役という話をしましたが、私自身も「鉄道の歴史を引き継いで、後世に手渡しする役目」を少しは果たせたかなという思いを抱いています。

 多様化する鉄道施設の仕事

――なるほど。18世紀後半に生まれた鉄道を、時代にあわせて革新させながら次代に引き継ぐのが鉄道施設の仕事というわけですね。

近藤 その通りです。最後に付け加えれば、もちろん技術継承だけが、鉄道施設の仕事の面白さではありません。

例えば、保線に新たな技術が導入されることによって、鉄道の利便性が向上することもあります。かつて東海道新幹線では、線路のメンテナンス後に緩んだバラストが安定するまでの間、安全のために速度を落として運転する徐行運転を行っていました。しかし、私が携わっていた時に新たな保線機械を導入した結果、徐行速度の引き上げを実現し、所要時間を短縮することでお客様の利便性を向上できたのです。

また、前にも申し上げたように、最近の鉄道は街づくりで重要な役割を期待されます。コンピューターを駆使して、鉄道と沿線の未来を描く――これも鉄道施設の新しい仕事といえます。

現場で汗を流しながら歴史に残る、残すモノづくりに取り組みたい方、未来に評価される鉄道や街づくりに取り組みたい方、どちらのタイプにも、それぞれ向いた仕事が用意されているのが、鉄道施設の世界といえるでしょう。

現代の鉄道技術は狭い鉄道の世界に閉じこもることなく、異業種や新興のスタートアップ(ベンチャー)企業とも、積極的にパートナーシップを組んでいます。仕事はハードが相手ながら、柔軟なソフトの発想を持った方に、業界の新しい力として活躍してほしいという思いでいっぱいです。

――なるほど、「歴史に残る仕事」という意義はそのまま、新たな発展・進歩を続ける鉄道施設の世界、とても奥深いですね。本日はありがとうございました。

おわりに

主に土木関係の鉄道技術を構成する技術分野の一つである鉄道施設についての話をお届けしましたが、いかがでしたでしょうか。

やりがいや面白さについて近藤専務の経験も交えつつ、新しい時代への展望について話していただいたおかげで、話を伺っていた私にとっても非常に興味深い時間でした。

今後もこのnoteでは、鉄道に関わる様々な方から伺ったお話を紹介していきます。就活生の皆さんが自分の将来を考え、鉄道業界の魅力に気付くきっかけを作っていけたら嬉しいです。

次は車両や機械設備についての記事を、来週の公開予定で用意しています。興味がある方はもちろん、関係ないな、と思っている方も、他の業界や業種との比較ができること、自分のやりたい仕事を客観視できることは就活にとって必ずプラスになりますので是非ご覧ください。
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