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通勤、観光そして空港アクセス 多彩な役割担う老舗【就活生向け・決算短信を読む㉑南海電気鉄道】

この記事では、南海電気鉄道の決算短信に掲載されている収益の数字や事業構成などを通じ、南海電気鉄道の今が分かることを目指します。

なお、鉄道業界各社の決算短信については、こちらのリンクから交通新聞電子版の記事が読めます。JR各社や大手私鉄の決算短信について、有料記事を特別に全文公開です!

>>交通新聞電子版「決算」検索結果

リンク先では、鉄道業界の様々な企業の決算短信についても分析がありますので、ぜひご参照ください。


南海電気鉄道とは

最新車両の8300系。 撮影:交通新聞クリエイト

南海電気鉄道は南海グループの中核企業であり、難波駅*と和歌山市駅を結ぶ南海本線や高野山方面へ向かう高野線など、大阪府と和歌山県に153.5km(営業キロ)の路線を保有する鉄道事業者です。

*難波駅…南海線の難波駅は案内上「なんば駅」と表記されることが多いですが、この記事では正式名称の「難波駅」で表記します。

南海電気鉄道の起源となる大阪堺間鉄道が最初の路線を開業させたのは、1885年とかなり早い時期です。同社の設立はその前年のことで、南海電気鉄道は現存する日本最古の私鉄と言われることがあります。

この会社から事業を引き継いだのが南海鉄道で、1903年に難波~和歌山市間を開通させ、1922年には現在の高野線にあたる区間を営業していた大阪高野鉄道と合併。現在の路線網が概ね完成しました。

戦時中には国策によって他社と合併して近畿日本鉄道となりますが、終戦後には南海電気鉄道として分離。

戦後は輸送量の増大に対応しつつ、事業を多角化させながら発展していきます。1994年には関西国際空港への乗り入れを開始し、新たに空港アクセスの役割を果たすようにもなりました。2014年には泉北高速鉄道をグループに組み入れ、2025年には合併を予定しています。

営業収益・営業利益・経常利益

まずは基本の数字、ということで南海電気鉄道の営業収益・営業利益・経常利益について見ていきましょう。

営業収益:2,213億円(対前期9.7%増)
営業利益:210億円(対前期72.5%増)
経常利益:190億円(対前期91.0%増)

南海電気鉄道「2023年3月期決算短信(連結)」より

運輸業における輸送人員の増加などにより、増収増益を達成しました。
コロナ禍の影響が少なかった2020年3月期と比較すると以下の通りです。

特に営業利益・経常収益で差が大きく、コロナ禍で受けた影響からは回復途上であることが分かります。
なお先日発表された2024年3月期第三四半期決算短信によると、2024年3月期通期の業績については、運輸収入の増加や不動産業における物件販売収入の計上などにより、対前期で増収増益を見込んでいるとのことです。

【就活生注目】南海電気鉄道の事業構成

南海電気鉄道のセグメント別営業収益の割合は以下の通りです。

運輸業の占める割合が約4割と最も高く、不動産業がそれに次ぐ規模です。大手私鉄では一般的なバランス型の構成ですが、運輸業の占める割合がやや高めとも言えます。ここからはセグメント別に詳細を見てみましょう。

運輸業では鉄軌道事業のほか、バス事業、海運業などで構成されています。後述する泉北高速鉄道や阪堺電気軌道といったグループ企業が属しています。

不動産業のセグメントでは、泉北高速鉄道の物流部門などが不動産賃貸業を行っているほか、グループ企業の南海不動産が不動産販売業を展開しています。運輸業がコロナ禍の打撃から回復しきっていないこともあり、営業利益の大半を稼ぐセグメントとなっています。

建設業のセグメントでは、南海グループの施設を中心とした各施設の建設・メンテナンスを行っています。

レジャー・サービス業のセグメントでは、旅行業、ホテル・旅館業、鉄道事業者として珍しいところではeスポーツ事業を展開しています。

流通業のセグメントでは、「なんばパークス」「なんばスカイオ」といったシッピングセンターの経営のほか、駅ビジネス事業として駅構内の店舗運営を行っています。

その他のセグメントでは、南海グループの経理・情報処理業務の代行などを行っています。

南海電気鉄道の鉄道事業の特徴

関西国際空港へのアクセス路線

曲線を活かした外観が特徴的な空港特急「ラピート」 撮影:交通新聞クリエイト

南海電車の顔ともいえるのが、関西国際空港へのアクセスを担う空港特急「ラピート」です。斬新な車体デザインが目立つ50000系は、南海の車両としては初めて鉄道友の会のブルーリボン賞も受賞しています。

関西国際空港へのアクセスでは、特急「はるか」などのJR線、リムジンバスといったほかの交通機関と競合しています。

JR西日本「データで見るJR西日本2022」より作成。

ライバルのJRは広い路線ネットワークなどを強みにする一方、南海電車は「ミナミ」の中心地であるなんばからのアクセスにおいて乗換がなく運賃が低廉である点が勝り、両者はそれぞれ約4割と互角に近い割合です。

なお南海電気鉄道では、インバウンド需要への対応などとして、「クレジットカードのタッチ決済による交通利用」「QRコードを用いたデジタルきっぷの発売」の実証実験をいち早く開始し(2021年春)、2022年12月には本導入を発表。泉北高速鉄道や南海りんかんバス、南海フェリーといったグループ各社にも拡大して導入を進めており、インバウンド需要の取り込みへの積極性が伺えます。

なお、南海電車のターミナル駅である難波駅の周辺では、大阪駅からなにわ方面へ向かい、南海線とJR線にそれぞれ接続するなにわ筋線の開業も2031年に予定されており、関西国際空港アクセスをめぐる動きには今後も注目が必要です。

通勤路線と観光路線の二面性

難波駅と和歌山方面の間で運行される特急「サザン」では通勤利用も見られます。 撮影:交通新聞クリエイト

南海本線・高野線の沿線や、高野線と相互直通運転を行う泉北高速鉄道の沿線では、大規模な住宅開発が複数行われました。その中には狭山ニュータウンなど、南海自身の手によるものもあります。

それもあって南海電車の通勤通学時間帯には旺盛な需要があり、特に本線系統と高野線系統の列車がどちらも走る難波~岸里玉出間では非常に高頻度の運転が行われるなど、通勤路線としての面が見られます。

一方で、高野線の沿線には2つの世界文化遺産があります。高野山などを含む「紀伊山地の霊場と参詣道」、仁徳天皇陵古墳(大山古墳)などを含む「百舌鳥・古市古墳群」です。

難波から高野線の終点である極楽橋駅までは、急勾配や半径の小さなカーブに対応した車両が投入される特急列車「こうや」が運転されるほか、極楽橋駅から高野山駅までを結ぶ鋼索線(ケーブルカー)が運行され、特に秋の紅葉シーズンに賑わいを見せる観光路線の面が見られます。

この二面性が、南海線の特徴であるといえるでしょう。

自動運転に関する取り組み

和歌山市駅から和歌山港駅までの2.8キロを結ぶ南海和歌山港線では、2023年8月29日から「係員付き自動運転(GoA2.5)実現」に向けた走行試験が行われました。
将来的には、試験の結果や有識者による安全性評価を踏まえ、和歌山港線に加え高師浜線での自動運転実現を目指すとしています。

係員付きの自動運転では、取得に多大な時間や費用を要する免許(動力車操縦者運転免許)を持たない係員でも列車の運転が可能になるため、鉄道事業者にとっては人材面、コスト面でのメリットがあります。
国内ではJR九州の香椎線が2024年3月より開始するGoA2.5レベルの自動運転が大手私鉄でも実現するか、注目です。

【関連記事】

南海電気鉄道以外の南海グループで鉄道に関わる企業

先述した泉北高速鉄道に加えて、軌道線を運営する阪堺電気軌道といった鉄軌道事業者のほか、鉄道車両の整備などを行う南海車両工業、一般土木・建築工事に加え鉄道施設の工事を担う南海辰村建設などの企業があります。

なお、南海と泉北高速鉄道については「2025年度早期の経営統合」が予定されています。現状でも南海高野線との直通運転を実施するなど関係が深い泉北高速鉄道ですが、経営統合後は両線を跨ぐ通勤定期を今よりも引き下げることなどが予定されているとのことです。

南海グループの会社について、詳しくは南海電気鉄道のWebサイトもあわせてご覧ください。

南海グループとしての強み

「ミナミ」に根を張ってきた唯一の大手私鉄

南海は、他の関西大手私鉄と異なり「ミナミ」に本社を置く唯一の大手私鉄です。また、「ミナミ」の中心にある難波駅は創業以来のターミナル駅であり、「ミナミ」の賑わい創出は非常に重要なテーマといえます。

南海グループが難波駅直結の「なんばパークス」「なんばCITY」「なんばスカイオ」、そして隣駅である今宮戎駅との駅間にある「なんばEKIKAN」もあわせると4つの商業施設を保有していることからも、力の入れようが伺えるというものです。

そして今、南海グループはこのなんばエリアを活性化させるべく「グレーターなんば」構想を掲げており、地域の利害関係者と共にまちづくりのビジョンを策定し、実行に移してきました。

更に2023年3月には、この「グレーターなんば」構想を加速させるためとして、グレーターなんばビジョン「ENTAME-DIVER-CITY ~Meet!Eat!Beat! On NAMBA~」を策定。南海グループが主体となって取り組むまちづくりについて、5つの概念からなるビジョンを提示しました。

具体的な取り組みとしては、2023年7月にグランドオープンを迎えた「なんばパークス サウス」では商業施設の充実とオフィス集積に更なる加速を図ったほか、なんば駅前広場をリニューアルし、歩行者にとって歩きやすく、過ごしやすいような空間を創出しています。

就活生のみなさんとしては、個別具体的な施策をすべて覚える必要はありませんが、難波駅とその周辺のエリアにおける賑わいの維持が南海グループの重要課題の一つであることはしっかりと理解しておきたいところです。

決算短信から読む南海電気鉄道の今後

大手私鉄の中では、営業収益において鉄道を含む運輸業の占める割合がやや高いのが南海電気鉄道の特徴です。
短期的にはコロナ禍の影響が低減することで、運輸業やレジャー・サービス業を中心に増収が見込まれます。

中長期的には、多くの鉄道事業者にとって共通の課題である沿線人口の減少による影響(特に大規模に開発されたニュータウンの高齢化は課題となりつつあります)を受けますが、

  • 運輸業と不動産業、流通業の連携で、なんばを活性化し、移動需要を取り込む

  • 将来的に見込まれる、なにわ筋線の開業による新規需要の取り込み

主にこの2つが南海電気鉄道の今後において重要な点となるでしょう。

まとめ

関連リンク

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今後も、鉄道事業者については、売上高の規模の違いなどに留まらず、グループ全体の売上や利益について鉄道事業が占める割合の違いなどに注目して取りあげていきたいと考えています。もちろん鉄道事業者以外の企業についても取りあげる予定ですので、お楽しみに!
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