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地元、播磨地域に密着した事業展開が特徴【就活生向け・決算短信を読む㉒山陽電気鉄道】

この記事では、山陽電気鉄道の決算短信に掲載されている収益の数字や事業構成などを通じ、山陽電気鉄道の今が分かることを目指します。

なお、鉄道業界各社の決算短信については、こちらのリンクから交通新聞電子版の記事が読めます。JR各社や大手私鉄の決算短信について、有料記事を特別に全文公開です!

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山陽電気鉄道とは

2016年に登場した6000系。  撮影:交通新聞クリエイト

山陽電気鉄道は、兵庫県に本線と網干線、合計63.2km(営業キロ)の路線を保有する準大手私鉄であり、兵庫県南部を主要な営業エリアとする山陽電鉄グループの中核企業です。「山陽電車」の名称で親しまれています。

そのルーツは、戦前に設立された兵庫電気軌道と明姫電気鉄道(のちに神戸姫路電気鉄道)という2つの会社です。
両社は兵庫~明石間と明石~姫路間の路線を別々に開業させましたが、やがて宇治川電気(関西電力の前身の1つ)に合併。その後1933年に宇治川電気から鉄道事業が分離される形で、山陽電気鉄道が誕生しました。

戦後は輸送力アップのために架線電圧の昇圧を行い、当時としては豪華な設備だった転換クロスシートを備えた車両や、一般的な鉄道としては日本初となるアルミ車両といった画期的な車両を導入するなど、輸送サービスの改善に努めました。
1953年には他社と共同出資で山陽百貨店を開業させ、1960年にはタクシー事業を開始するなど、事業の多角化も進めています。

1968年には神戸高速鉄道の開業により阪神・阪急電鉄との相互直通運転を開始。乗り換えなしで大阪方面まで移動できるようになって利便性が向上するとともに、今日まで続く路線網がここで完成しました。

その後は阪神淡路大震災の被害も乗り越え、山陽百貨店の完全子会社化などを経て現在に至ります。

営業収益・営業利益・経常利益

まずは基本の数字、ということで山陽電気鉄道の営業収益・営業利益・経常利益について見ていきましょう。

営業収益:39,220百万円(対前期0.8%増)
営業利益:4,326百万円(対前期23.9%増)
経常利益:4,469百万円(対前期17.5%増)

山陽電気鉄道「2024年3月期決算短信(連結)」より

鉄道における輸送人員の増加や百貨店の売上増などにより、増収増益を達成しました。旅客運輸収入は、コロナ前の2019年度比でマイナス0.5%とほぼ同水準まで回復しているとのこと。
コロナ禍の影響が少なかった2020年3月期と比較すると以下の通りです。

営業収益は減少しているものの、営業利益・経常利益は微増しています。
営業収益の減少分は流通業のセグメントが主ですが、一方で流通業セグメントの営業利益は増加しているため、このような結果となりました。

なお2025年3月期の業績の見通しについては、不動産業での減収や鉄道事業での動力費増による費用増加が見込まれることから、減収減益の見通しです。

【就活生注目】山陽電気鉄道の事業構成

山陽電気鉄道のセグメント別営業収益の割合は以下の通りです。

運輸業の占める割合が半分近くを占め、流通業、不動産業と続きます。大手私鉄では一般的なバランス型の構成ですが、運輸業の占める割合がやや高めとも言えます。ここからはセグメント別に詳細を見てみましょう。

運輸業では鉄道事業のほか、バス事業、タクシー事業などで構成されています。須磨浦山上遊園や、そのアクセスとして利用されるロープウェイの運営もこの運輸業セグメントです。

流通業のセグメントでは、山陽姫路駅直結の百貨店、山陽百貨店の営業のほか、コンビニエンスストアの営業などを行っています。

不動産業のセグメントでは、商業施設のテナントや住宅の賃貸事業、戸建て・マンションの分譲事業などを行っています。最も多くの営業利益を稼ぎ出しているセグメントです。

レジャー・サービス業のセグメントではスポーツ施設の運営や、ファーストフードチェーンのフランチャイズ事業などを展開しています。

その他のセグメントでは、設備の保守・整備・工事業、労働者派遣事業などを行っています。

山陽電鉄グループの特徴・強み

鉄道事業の特徴:並行路線との競合、生き残り策

山陽電気鉄道が保有する2路線――神戸エリアの西代から山陽姫路までを結ぶ本線と、本線から分岐する網干線――は、ほぼ全区間でJR西日本の山陽本線と並行しています。

山陽電気鉄道の筆頭株主でもある阪神電気鉄道との直通運転で大阪方面へのアクセスを実現しているものの、大阪~姫路間や神戸~姫路間といった区間の速達性において、山陽電気鉄道は新快速を擁するJR線に劣る面があります。

一方、JR線と比べてきめ細かい駅の配置や停車駅の工夫などで住みわけを図っているほか、既存車両のリニューアル、新型車両である6000系の導入など、サービス向上にも努めています。

また、不動産事業において沿線での自社保有地利用や再開発事業への参画の利用を進めており、西二見駅近くに大規模商業施設の開発や、西新町駅前での分譲マンション販売、山陽明石駅周辺の再開発事業への参画といった取り組みを進めています。
これらの取り組みは、鉄道利用者についてプラスの影響を与えるものです。

他方、「守り」の施策として鉄道事業自体のコスト削減にも取り組んでおり、一部駅で駅員の常駐を廃したり、網干線で1995年からワンマン運転を実施したりといった合理化を進めてきました。

こういった他事業との相乗効果も含め、攻めと守りの両面によって、鉄道事業は競合に晒されながらも確かな収益をあげることができています。

強み:成長見込む不動産事業

不動産事業は最も多くの営業利益を稼ぎ出しているセグメントであり、前述のように鉄道事業など他事業との相乗効果の面でも重要です。

山陽電気鉄道がWebサイトで公開している「統合報告書2023」においても不動産事業は「成長事業」と表現されており、また「10年後のあるべき姿」として「沿線外でも収益力を向上させる」という表現も用いられています。

山陽電鉄グループ 統合報告書2023より引用

今後ターミナルである山陽姫路駅周辺の再整備も控えているとのことで、不動産事業が山陽電気鉄道にとって多くの利益を稼ぎ出す「強み」であり、重要な事業であるという状態は今後も変わらないものと思われます。

決算短信から読む山陽電気鉄道の今後

山陽電気鉄道の今後について、基本的な営業エリアは沿線に限定されており、長期的には人口減少が見込まれることもあって、劇的な成長というものは難しいところです。

しかし、鉄道事業という安全や安心の面で信頼性の高い事業を継続してきたことによるブランド力や、利便性の高い沿線に自社保有地を有するアドバンテージを持ち、収益性にも優れた不動産事業といった強みは今後も変わらないことでしょう。

統合報告書にあげられた長期ビジョンでも掲げているように、地域密着で沿線の魅力向上と鉄道のサービス向上の両輪で利益を確保しながら、沿線外での展開も目指す不動産セグメントの成長に期待が寄せられます。

まとめ

関連リンク

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今後も、鉄道事業者については、売上高の規模の違いなどに留まらず、グループ全体の売上や利益について鉄道事業が占める割合の違いなどに注目して取りあげていきたいと考えています。もちろん鉄道事業者以外の企業についても取りあげる予定ですので、お楽しみに!
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路線が並行し、競合相手となっているJR西日本の記事はこちら。

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