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東京だけ、日本だけ……ではない、経験とノウハウの輸出で海外へ!――東京メトロの海外事業展開について

みなさんは鉄道会社の海外事業展開について、どんなイメージを持っているでしょうか?

有名な例では、台湾高鐵(日本でいう新幹線に相当)が浮かぶかもしれません。日本の新幹線技術を輸出し、日本国内の鉄道車両メーカーが新幹線の700系電車をベースに製造した車両で運行されています。

また、かつて東京メトロ(旧:営団地下鉄)で運行していた車両が引退後にアルゼンチンやインドネシアといった海外へ譲渡されたことが浮かぶ方もいるでしょう。

しかし、東京メトロの路線を日々利用する人であっても、東京メトロに国際ビジネス部という部署があり、海外事業展開について様々な形の取り組みがなされているということを知っている人は少ないのではないでしょうか。

今回は、そんな東京メトロ(東京地下鉄株式会社) 国際ビジネス部の課長
である増田泰博さんが執筆し『JRガゼット』2023年12月号に掲載された記事を一部編集・転載して、東京メトロの海外事業展開を例に、日本の鉄道会社における海外事業展開について取りあげます。

東京メトロにおける海外事業展開の位置づけ、そして具体的な取り組みについて解説していただきました。それではどうぞ!


①中期経営計画「東京メトロプラン2024」における海外事業展開

東京メトロでは、これまでも各国の都市鉄道の発展に資することを目指し、国際会議への出席や展示会への出展を通じて、国際社会に対して当社の事業を発信してきました。
また、海外からの来訪者の視察を積極的に受け入れることで、当社事業の理解促進に取り組んできました。

一方でこうした国際交流に関する取り組みに加え、近年のとくに新興国を中心とする世界的な鉄道分野への需要の高まりを受け、当社がこれまで東京で培ってきた都市鉄道に関する経験やノウハウを活かし、海外鉄道ビジネスの事業展開を進めているところです。

東京メトロでは、2004年の発足以来、グループ理念「東京を走らせる力」を念頭にさまざまな事業に取り組んでいるところです。

東京メトロを取り巻く環境が大きく変化するなかにおいて、ネクストノーマルを見据えて環境・社会・経済の持続的可能性に配慮し、事業を通じ社会課題の解決を図るべく、サステナビリティを経営の中心に据え、「安心で、持続可能な社会」の実現を目指す2030年に向けた経営姿勢として「サステナビリティ経営ビジョン」を策定しました。

東京メトロ | サステナビリティ経営ビジョン」より引用

また、持続可能な鉄道事業の運営と成長戦略による収益拡大を実現すべく、「構造変革」「新たな飛躍」を基本方針に掲げ、4つの重点戦略を設定した中期経営計画「東京メトロプラン2024」を策定しました。

海外事業については、サステナビリティ経営ビジョンにおけるマテリアリティテーマ(提供価値)のうち「地球にやさしいメトロへ」、また、中期経営計画のなかの「新たな飛躍」のひとつとして、重要な施策のひとつとして位置付けられています。

これまでの東京メトロの海外事業は、主に東南アジア諸国で実施中の技術協力案件を通じた鉄道事業者の人材育成等の国際協力を中心に進めてきたところです。

しかしながら、上記の当社を取り巻く環境を踏まえ、現在の中期経営計画の期間より海外事業の目的について「海外鉄道ビジネスによる収益獲得を目指すとともに、環境にやさしい鉄道技術の海外展開を通じて世界各都市の持続可能な発展に貢献すること」と明確化しました。

現在の中期経営計画の期間においては、主に3つの事業に取り組むこととしています。

1点目は、従来からベトナムやフィリピン等で取り組んでいる、独立行政法人国際協力機構(JICA)や現地政府等が発注する鉄道事業者の人材育成等や新線建設に関する技術協力案件である「海外技術コンサルティング事業」

これに加えて、現在の中期経営計画の期間から新たに取り組む事業として、2点目は世界の鉄道関係者を対象に定期的に鉄道に関するオンライン講座および訪日研修を開催するアカデミー事業「Tokyo Metro Academy」と、鉄道に関する研修センター設立支援、指導員育成等の業務を受託する研修コンサルティング事業からなる「海外鉄道研修事業」

そして、3点目として、鉄道の運行管理(O)、メンテナンス(M)またはその両方を受託する「O&M事業」です。

あわせて、従前から取り組んでいる海外からの視察受入や国際会議への出席、展示会への出展等の国際交流活動については、海外鉄道事業者等との関係構築を図り、海外鉄道ビジネスの裾野を拡大するための活動として位置付けました。

本稿においては、こうした当社の海外事業展開について、それぞれの事業ごとにその取り組みを紹介することとします。

②海外技術コンサルティング事業の取り組み

海外技術コンサルティング事業は、主にベトナムやフィリピンをはじめとした東南アジア地域において、鉄道事業者の人材育成や新線建設等の技術協力案件に参画する事業です。

近年、とくに新興国等においては、急速な経済発展とともに自動車交通が爆発的に増加しており、世界的な交通・環境問題となっており、これらを解決するためにCO2排出量の少ない効率的な輸送機関としての鉄道に対する期待が世界的に高まっており、多くの国が国家プロジェクトとして鉄道整備を積極的に推進しています。

また、日本政府において、成長戦略のなかの重要な柱として「質の高いインフラ」の海外展開に取り組んでいるなか、海外における鉄道分野への需要が高まっています。

このような状況を踏まえ、これまで東京で長い間培ってきた地下鉄の建設、オペレーション、メンテナンス等に関する経験やノウハウを活かし、現地に根差した鉄道事業者の人材育成等に貢献することを目指し、主に東南アジア地域を中心に、各国の都市鉄道整備事業に関し、各技術協力案件への参画を通じて技術協力を行っているところです。

主な取り組みとしては、ベトナム・ホーチミン市において現在整備が進められている都市鉄道1号線を運営するホーチミン市都市鉄道1号線運営会社(HURC1)等を支援する「ホーチミン市都市鉄道規制機関及び運営会社能力強化支援プロジェクト(ホーチミンTC2)」(写真1)、

写真1 ホーチミンTC2の本邦研修

またフィリピンで設立され、施設建設が進められているフィリピン鉄道訓練センター(PRI)の研修カリキュラムの作成や指導員の養成等を支援する「フィリピン鉄道訓練センター設立・運営能力強化プロジェクト(PRI–TA)」等を実施しているところです(写真2)。

写真2 PRI-TAにおける本邦研修

③海外鉄道研修事業の取り組み

従来から取り組んできた海外技術コンサルティング事業に加え、現在の中期経営計画の期間より新たに取り組んでいる事業のひとつが、海外鉄道研修事業です。海外鉄道研修事業は前記のとおり、アカデミー事業と研修コンサルティング事業からなります。

アカデミー事業「Tokyo Metro Academy」は、2022年3月に世界の鉄道関係者向けのオンライン講座を開講しました。

オンライン講座は、これまで東京メトロが培ってきた都市鉄道における安全・安定輸送実現のための鉄道運営のノウハウや経験を紹介しています。

東京メトロの社員が講師となり、東京メトロの取り組み(オペレーション、メンテナンス、事業開発等)に関する講義のほか、ディスカッションを行い、参加者からのさまざまな質問にお答えしています。

講座数は、2023年度には14講座と拡大を予定しており、さらに、オンライン講座参加者からの「対面で講義を受けたい」「現場を視察したい」という声にお応えし、世界の鉄道関係者向けの訪日研修を2023年度11月に開催したところです(写真3)。

写真3 「Tokyo Metro Academy」オンライン講座

これらの活動を通じて、世界の鉄道関係者が抱えるさまざまなニーズに応え、世界の現地交通サービスの発展支援を通じ、世界各都市の持続可能な発展に貢献するほか、当社の認知度を高め、研修コンサルティング事業やO&M事業の受注につなげていきたいと考えています。

④O&M事業の取り組み

さらに、これら事業に加えて、鉄道の運行管理(O)、メンテナンス(M)またはその両方を受託するO&M事業への参画を目指しているところです。

現在、とくに欧州や豪州においては新規に整備が進められているプロジェクトのみならず、既存路線へのフランチャイズ制度の導入*やPPP**による整備など、「海外都市鉄道ビジネス」に対する需要が高まっています。
本分野は、東京で都市鉄道の運営に関し、すべての分野で長い経験とノウハウを培ってきた当社にとって、大きなチャンスになる可能性があると考えています。

*フランチャイズ制度の導入…線路など運行に必要なインフラを維持・管理 する主体と列車を運行する主体を分離させ、後者に契約した民間会社が入る制度を採用することを指します。
**PPP…Public Private Partnershipの略。公共施設などの建設、維持管理、運営などを行政と民間が連携して行うもの。

PPPの参考:国土交通省「官民連携とは|PPP/PFI(官民連携)

こうした分野への参画にあたっては、これまで取り組んできた他の海外事業とは違った知見が求められることから、現在は具体案件への参画検討を目指した体制整備を進めるとともに、信頼できるパートナーと関係を構築し、入札参加を目指しているところです。

こうした取り組みを進めることにより、当社の海外事業を「次のステップ」に進めていきたいと考えているところです。

おわりに

冒頭でも述べたとおり、海外鉄道事業の展開は、当社のマテリアリティ経営ビジョン、また現中期経営計画における当社の重点施策のひとつです。

今後もこれらの事業を着実に進めることにより、海外鉄道ビジネスによる収益獲得を目指すとともに、環境にやさしい鉄道技術の海外展開を通じて世界各都市の持続可能な発展に貢献できるよう取り組んでいく所存です。

鉄道就活応援隊編集部より

東京メトロでの取り組みが具体的に説明されていたことで、就活生のみなさん、特に海外事業展開において自分の知識を活かすイメージを固める参考になったのではないでしょうか。

日本で培われた鉄道の技術を海外に輸出しようという取り組みについて俯瞰したい方は、国土交通省鉄道局、一般社団法人海外鉄道技術協力会(JARTS)、そして記事中でも紹介された独立行政法人国際協力機構(JICA)のWebサイトなども参考にしてみてください!

この記事を通じて、みなさんが鉄道業界を目指すにあたって必要な業界への理解を深めることができれば幸いです。

今回の内容は、運輸交通業の"今"が分かる専門情報誌、『JRガゼット』2023年12月号に掲載された、東京地下鉄株式会社 国際ビジネス部 増田泰博課長 執筆「東京メトロの海外事業展開について」から内容を一部編集(注釈を入れるなど)し、転載したものです。

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