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「赤い電車」の強みとポテンシャルとは【就活生向け・決算短信を読む⑯京浜急行電鉄(京急)】

この記事では、京浜急行電鉄(京急)の決算短信に掲載されている収益の数字や事業構成などを通じ、京急の今が分かることを目指します。

そして、鉄道業界各社の決算短信については、こちらのリンクから交通新聞電子版の記事が読めます。JR各社や大手私鉄の決算短信について、有料記事を特別に全文公開です!

>>交通新聞電子版「決算」検索結果

リンク先では、鉄道業界の様々な企業の決算短信についても分析がありますので、ぜひご参照ください。


京浜急行電鉄とは

京急といえば「赤い電車」。写真の1000形1890番台(愛称「Le Ciel」)は2022年のブルーリボン賞を受賞しています。 撮影:交通新聞クリエイト

赤を基調としたカラーリングの車体が印象深い京浜急行電鉄(京急電鉄)は、東京都・神奈川県に、総延長87.0km(営業キロ)の路線を持つ鉄道事業者です。多くの人にとっては、愛称の「京急」の方が馴染み深いことと思います。

京急のルーツは、1898年に設立された大師電気鉄道です。川崎大師への参拝客輸送を目的として、現在の大師線の一部にあたる路線を開業させたのが1899年1月21日のことでした。
同年4月には社名を京浜電気鉄道と変更し、1905年には品川~神奈川間を開通させています。

1931年には、浦賀・逗子方面に路線を延ばしていた湘南電気鉄道と直通運転を開始し、1941年には合併。この段階で、路線網の骨格はおおむね完成しました。

戦中に現在の東急電鉄との合併などを経験したのち、戦後の1948年に京浜急行電鉄として再び独立。
鉄道事業、レジャー・サービス事業、不動産事業を3つの柱として成長しました。

そのうち鉄道事業においては保安装置の更新や1968年の都心乗り入れ、羽田空港アクセスの改善といった輸送力増強・サービス改善、観光事業においては三浦半島の観光開発・鉄道の延伸、不動産事業においては自社による土地の確保から分譲に至るまで一貫した開発の推進に取り組みました。

沿線の通勤・通学利用と三浦半島へのレジャー利用、そして空港アクセスという3つの顔を持つ鉄道会社として、現在に至ります。

営業収益・営業利益・経常利益

まずは基本の数字、ということで京急の営業収益・営業利益・経常利益について見ていきましょう。

営業収益:2,530億円(対前期4.6%減)
営業利益:108億円(対前期208.2%増)
経常利益:122億円(対前期141.5%増)

京浜急行電鉄「2023年3月期決算短信(連結)」より

コロナ禍の影響から移動需要が一部回復して、羽田空港へのアクセスを含めた旅客運輸収入が増加しました。その一方、前期に不動産事業で一部物件を売却した反動などにより、全体では対前期で減収となりました。
ただし、営業利益・経常利益は金額ベースでも数十億円規模の増益となりました。

なお、コロナ禍の影響が少なかった2020年3月期と比べると以下の通りです。

営業収益・各利益ともにいまだに差は大きく、コロナ禍からの回復が途上にあることがわかります。
なお、先日公開された2024年3月期第2四半期決算短信によると、営業収益・各利益ともに2023年3月期の数字を上回っています。
今後もコロナ禍前との差は徐々に縮まっていくことでしょう。

【就活生注目】京浜急行電鉄(京急)の特徴・事業構成

ここからは、決算短信から読み取れる京急の特徴を探ってみましょう。まずは事業構成と収益構造からということで、セグメント別の営業収益の割合は以下の通りです。

鉄道やバス、タクシー事業が含まれる交通事業が1/3超の割合を占めてはいますが、どちらかといえば大手私鉄によくあるバランス型の比率と言えます。

流通事業では、京急線上大岡駅直結の店舗を持つ京急百貨店、沿線地域に多くの店舗を持つ京急ストアといった小売業を展開しています。

不動産事業では、グループ会社の京急不動産などが、自社路線の沿線を中心に宅地造成、住宅の建設・販売・住み替え支援・リフォームなどを展開しています。

レジャー・サービス事業では、京急線沿線に所在するレジャー施設や、千葉県や長野県などに所在するゴルフ場などの経営を行っています。

その他のセグメントには、建設・土木・電気設備の工事、 輸送用機器の修理・改造、ビル管理業務などが入ります。

就活生必見:鉄道事業の強み

【競合も多いが……】羽田空港アクセス

需要の高い京浜間の輸送を担っている通勤・通学路線、そして三浦半島エリアへの観光路線、という2つの顔を持つ京急線ですが、最大の特徴であり強みであるのは、羽田空港へのアクセス路線でもあるという点です。

かつては京急の羽田空港駅からターミナルビルまでは距離があり、空港利用客の輸送にバス連絡を余儀なくされていましたが、2期にわたる延伸工事の結果、1998年にはターミナルビルに直結した新たな羽田空港駅(現:羽田空港第1・第2ターミナル駅)が開業しました。これにより大きく利便性が向上するとともに、京急線は空港アクセスにおいて一定の地位を占めるようになりました。

関東交通広告協議会の資料によると、コロナ禍前の2019年度における羽田空港第1・第2ターミナル駅の1日平均乗降人員は97,330人。
羽田空港第3ターミナル駅の29,698人と合わせた空港2駅の1日平均乗降人員は12万人を超え、同じ京急線内では横浜駅と同規模の数字です(それぞれの駅の乗降人員は京急線のみの数字)。

コロナ禍で一度は落ち込んだ空港利用も着実に復調の気配を見せており、空港アクセスが京急にとって大きな収入源でありつづけることは間違いありません。

ただ羽田空港アクセスの競合は多く、現在も東京モノレールやリムジンバスなどとの競争を繰り広げているほか、2031年にはJR東日本の羽田空港アクセス線(仮称)の開業も予定されています。

インバウンド需要の高まりもあって羽田空港の利用客自体は増えているものの、新たなライバルの登場もあって、空港アクセスをめぐる競争は今後ますます激しくなりそうです。

もっとも空港アクセスの競争のほかでも、京急は京浜間の輸送においてJR線や東急線、三浦半島エリアへの輸送ではJR線(横須賀線)と競合してきた歴史があります。
それでも京急は品川~横浜間における120km/h運転の実施やダイヤの工夫など、様々な改善を積み重ねて生き残ってきました。

抱える競合路線の多さ、そしてそれに負けずに様々な施策で利用客を逃さない在り方は、京急の特徴と言えるかもしれません。

京急グループ内で京急電鉄以外の鉄道にかかわる企業

建築・土木・軌道の事業を手掛ける京急建設、電力設備の維持・更新や駅務機器の点検などを担う京急電機、鉄道車両の整備や案内サインの制作などを行う京急ファインテックといった企業があります。

詳しくは、京急グループのWebサイトもご覧ください。

鉄道以外の事業と鉄道事業の関わり

三浦半島エリアのさらなる魅力向上

京急グループが力を入れている領域の一つが、京急が路線を持つ三浦半島エリアのさらなる魅力向上です。
グループとして「都市近郊リゾートみうらの創生」を掲げ、外部のブランドと共同で宿泊・観光拠点を整備したり、自治体や地域の事業者と運営するエリアマネジメント組織「三浦CocoonFamily」の活動を展開したり、エリアマネジメントを支える観光型MaaSの提供を進めたりと、幅広い領域で活動を展開しています。

鉄道においても地域の飲食店と協力した「みさきまぐろきっぷ」などの企画きっぷを発売したり、三崎口駅の駅名表を「三崎マグロ駅」にしたりと多彩な企画が実行されているので、就活生のみなさんとしては、京急グループが三浦半島エリアの魅力向上に力を入れていることをしっかりと把握しておきましょう。

不動産事業

実は、セグメント別の営業利益においては最多の利益を稼ぎ出しているのが不動産事業であるというのは覚えておきたいところです。

京急の不動産事業は、1952年に事業部を設置して以来、沿線に多くの分譲地を開発してきた歴史があり、現在も「PRIME」の住宅ブランドで分譲マンションを中心に物件を展開しています。

ここでは鉄道事業との関わりが深い事業として、現在計画が進んでいる品川駅周辺開発事業を取りあげます。この計画は、現在京急線の品川駅で進行中の、ホームを地平レベルに移す工事と連動したものです。

駅の西口地区においてトヨタ自動車と共同で大型複合施設を開業する計画があるほか、駅街区地区においてはJR東日本と共同で開発計画を進めています。

このほか、横浜エリアでは横浜市旧市庁舎街区等活用事業に参画、羽田エリアでは⽻⽥イノベーションシティの開発に参画するなど、長期経営計画で「成長トライアングルゾーン」と位置付ける品川・横浜・羽田の各エリアにおける動きについては今後も要注目です。

決算短信から読む京浜急行電鉄(京急)の今後

先日発表された2024年3月期第2四半期決算短信において、鉄道事業、ビジネスホテル、ストア業での増収を見込んで2023年度の業績予想が上方修正されました。短期的には、全体的な業績はコロナ禍で受けた打撃から回復していくものと思われます。

中長期的には、グループが力を入れている品川・横浜・羽田の3エリアの成長に加え、三浦半島エリアの魅力向上や、インバウンド需要の増減・JR東日本羽田空港アクセス線(仮称)開業がポイントとなる空港アクセスの動向に要注目です。

まとめ

関連リンク

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今後も、鉄道事業者については、売上高の規模の違いなどに留まらず、グループ全体の売上や利益について鉄道事業が占める割合の違いなどに注目して取りあげていきたいと考えています。もちろん鉄道事業者以外の企業についても取りあげる予定ですので、お楽しみに!
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