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【就活生向け】鉄道業界ひとくち解説「貨客混載輸送」【2024年最新事例も紹介】

鉄道業界のことを知って、ESや面接のヒントにしようという「鉄道ひとくち解説」シリーズ第1回のテーマは「貨客混載輸送」です。

「貨客混載輸送」というワードを聞いてピンとくる、鉄道業界を目指す就活生の皆さんはどれくらいいるでしょうか。
実はいま、「貨客混載輸送」は鉄道業界のみならず、物流業界全体でホットなワードの一つになっています。地方創生や、SDGsにも繋がりがあります。

たとえば「交通新聞 電子版」で「貨客混載」で検索すると、多くの記事がヒットします。
交通新聞電子版「貨客混載」検索結果(直近1年間)
(上記のリンク先からは本来有料になっている記事全文が見られる
のでぜひ活用してみてください)

いま鉄道、ひいては物流業界全体やSDGsの観点からも注目を浴びる「貨客混載」について、就活生のみなさんに向けて解説しました。


「貨客混載輸送」とは

「貨客混載輸送」とは、物と旅を一緒に輸送する運行形態のことです。単に「貨客混載」とも呼びます(当記事では、以下この表記を採用します)。

さまざまな荷物を運ぶ一方で一般の乗客も乗ることができる、大きなフェリーをイメージしてもらえると分かりやすいかもしれません。
鉄道においては、普段から皆さんが乗るような「旅客列車」に荷物を載せて輸送することを指し、多くは人間が持てるサイズ、小口の物品の輸送です。

なお、JR貨物などが行っている、貨車を利用した「貨物輸送」とは別なので注意してくださいね!

運転手不足や環境問題で注目浴びる

なぜ、いま「貨客混載」が注目されているのでしょうか。
その原因は、大まかに以下のようなものがあげられます。

  • 物流業界が直面する「運転者不足」「環境問題への対応」という課題

  • 鉄道事業者による車内スペースの有効活用のニーズ

物流業界の課題

現在、物流業界では、少子高齢化や荷物取扱量の増加による運転手不足、そして2024年問題への対処が大きな課題となっています。

2024年問題とは、トラックドライバーを含めた自動車運転業務について、年間の時間外労働の上限が2024年4月1日から年960時間となることにより生じる問題の総称です。例としては、トラック輸送の総量が減少することや、従来よりトラック輸送に時間を要するようになることなどが懸念されています。
特に過疎化の進む地域では、物流サービスの品質維持はより切実な課題であり、より一層の効率化が求められています。

また、環境問題への対応という面では、トラックの走行距離を減らすことが効果的な対策です。
鉄道を利用した「貨客混載」は、輸送単位当たりのCO2排出量がトラックより少ない輸送機関を利用する「モーダルシフト」の一環と捉えることができます。

国としても、物流業界の諸問題に対応するための手段の一つとして「貨客混載」を後押しする制度を整備するなど、物流の効率化を図るための計画認定・支援に乗り出しています。

鉄道業界の事情

一方の鉄道側でも、地方路線の収益を維持していくための取り組みの一つとして、旅客輸送以外の収入となる「貨客混載」が注目されるようになりました。
また、近年では新型コロナウイルス感染症の流行による乗客の減少や、新幹線や特急列車の車内販売が縮小したことなどが重なり、車内に生じた空きスペースの活用が課題となっていました。

こうして、鉄道における「貨客混載」が注目を浴びるようになったのです。

実際の事例

近年は鉄道会社と物流企業が連携した実証実験が盛んに行われるようになり、実際にサービスの一部として正式に実施されるものも増えてきています。

この記事の冒頭で貼った「交通新聞 電子版」のリンクを見ても、全国で様々な「貨客混載」の取り組みがなされているのが分かると思います。

JR北海道と佐川急便:タクシーも活用した貨客混載の取り組み

北海道の稚内において2019年4月から実施された、タクシーと列車の組み合わせによる「貨客混載」は日本初の事例として注目を浴びました。

本取り組みにより、
貨物車両からのCO2排出量:年間3.8t削減
ドライバーの運転時間:年間417時間削減
列車の有効活用による新たな収入の確保
といった効果が期待されます。

国土交通省「日本初!鉄道とタクシーを組み合わせた貨客混載が始まります!
~佐川急便とJR北海道(宗谷線)による宅配貨物輸送の効率化~」

このように、過疎地での輸送効率化や温室効果ガスの削減に大きな効果が期待されています。

JR東日本:「はこビュン」

JR東日本が新幹線で提供してきた荷物輸送サービス「レールゴー・サービス」は、2021年10月からは「はこビュン」と名前を変え、対象列車を拡大して展開されています。

「はこビュン」は在来線における貨客混載輸送にもその名称が用いられさまざまな事例が登場しています。

🔗茨城の「朝詰め」新米新酒を首都圏へお届けします! ~常磐線特急列車による「はこビュン」で直送~(2022年12月5日)

JR西日本・JR九州:山陽新幹線・九州新幹線での貨客混載輸送

JR西日本やJR九州においても新幹線における荷物輸送サービスが展開されています。

JR西日本では「FRESH WEST(フレッシュ ウエスト)」の名称で貨客混載事業が展開されています。
地産品の販路拡大や地域の魅力発信といった地域課題の解決や、環境負荷の低減や物流の2024年問題への対応といった社会課題の解決といった点を「解決したい課題」として提示しています。

JR九州の「はやっ!便」では事前予約不要で、個人・法人問わず新幹線を利用した荷物の当日輸送ができます(2022年4月現在)。

2021年5月に博多~鹿児島中央駅間で開始され、2022年の1月からは博多~熊本駅間でも利用できるようになり、さらに2023年7月からは集荷・配達を加えた「はやっ!便プラス」がスタートするなど、サービス内容の拡大が続いています(途中駅の利用は不可)。

JR東海:東海道新幹線「東海道マッハ便」

2024年2月、JR東海も、東海道新幹線において荷物輸送を新たに開始することを発表しました。

2024年4月以降、準備ができ次第、東京・名古屋間および東京・新大阪間で法人向けに「こだま」号を利用した荷物輸送を開始するとのことです。

JR東海「新しい荷物輸送サービス「東海道マッハ便」の開始について」より引用

2024年2月15日付のプレスリリースでは、既に荷物輸送を展開しているJR他社との協業についても言及がありましたが、さっそく5月10日にはJRグループ各社連名のプレスリリースにて、JRグループ6社が荷物輸送サービスで初めて連携したイベント「新幹線でつながる旬食フェア」を開催することが発表されました。

各社の新幹線(JR四国は在来線特急)を利用して全国各地の特産品などを東京駅に輸送して販売するもので、今後は旅客輸送だけではなく荷物輸送でも新幹線のネットワークが活躍するものと期待されます。

全国の新幹線ネットワークを活用し、東京駅に各地の特産品を集めます!」より引用

地方創生やSDGsとの関わり

貨客混載は、地方と都市部を結び、地産品を輸送できることなどから地方創生の取り組みのひとつとしても注目を浴びています。

「はこビュン」を展開しているJR東日本では、JR北海道やJR西日本など他社とも共同して、新幹線の高速性と定時性を活かして地産品を輸送する実験に取り組んできました。
東北地方でその日の朝に獲れた鮮魚類を収めた箱を、新幹線の空席に乗せて東京駅まで運び、そのまま構内の料理店で提供するというユニークな試みもなされ、好評を博しました。
2021年4月からは鮮魚類・駅弁について北海道・東北新幹線を利用した定期輸送を開始しています。それとは逆に首都圏に集中する商品や駅弁を新幹線で地方に運び、大規模催事で販売する、といった取り組みもなされています。

JR西日本:総社市内で製造されたパンを普通列車で岡山駅に輸送

地方創生の取り組みをもう一つ紹介しましょう。

JR西日本では、岡山県総社市内で製造されたパンを、岡山駅まで伯備線の普通列車を活用して運ぶ実証実験を2022年2月から行っています。
これは、『パンわーるど総社』と題してパンを切り口にした地域活性化を推進する総社商工会議所やヤマト運輸と連携したものです。

このほかにもJR西日本は貨客混載輸送を活用した地域との価値共創に取り組んでおり、「FRESH WEST」と題してWebサイトでも事例を紹介しています。

東武鉄道とTABETEなど:フードロス削減への取り組み

SDGsの観点からも「貨客混載」が注目を浴び、実際に活用されています。
首都圏の大手私鉄である東武鉄道の東上線では、2021年8月から「TABETEレスキュー直売所」の本格運用を開始しています。

これは、東松山市周辺の直売所で売れ残った農産物を東上線の列車に載せて始発駅の池袋駅へ輸送・特別価格で販売することで、食品ロス削減を目指す取り組みです。
連携するのは、フードシェアリングサービス「TABETE」運営のコークッキング、そして東上線沿線に位置する東松山市、JA埼玉中央、大東文化大学。
まさに地域一帯となって「貨客混載」を利用した地域の活性化やSDGsへの取り組みが行われているのです。

そういった視点を持つことで、「交通新聞 電子版」の記事を読む際にもより深く鉄道が「貨客混載」に取り組む理由や現状を理解しやすくなることと思います。

今後の課題

ますます注目を浴びる「貨客混載」ですが、課題もあります。主なものでは以下のようなものが挙げられます。

  • 継続的な採算性があるか

  • 荷主の希望する荷物量に対して積載スペースが足りているか

  • 荷主の希望する時間帯に対して運行ダイヤが合致するか

  • 荷物の積み込み・輸送中の管理を誰が担うか

鉄道における「貨客混載」は発展途上であり、これらの課題の解決には荷主、物流事業者、鉄道事業者、場合によっては自治体も含めた様々な利害関係者の間で調整が必要になります。

以上のような課題も踏まえると、鉄道における「貨客混載」については以下のような積み荷が特に向いていると考えられます。

  • 比較的少ない輸送量(列車に積み込めるサイズ)

  • 比較的高単価(少ない輸送量でも採算が取りやすい)

  • 鮮度が重要視される(鉄道の高速性・定時性が活きる)

「貨客混載」のゆくえは、鉄道事業者を含めた利害関係者がそれぞれのメリットを見出せるか、そして実現に向けた様々な取り決めを達成できるかにかかっていると言えるでしょう。

まとめ

まとめると

といったところが鉄道における「貨客混載」を理解するポイントです。
鉄道業界の今を知るきっかけとして、この記事がお役に立てば幸いです。参考になったと思っていただけたら、ぜひ記事の「スキ」とnoteアカウントの「フォロー」をお願いします!

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より深く鉄道業界を知るための、鉄道施設・車両機械・電気技術といった専門的な分野について交通専門記者が書いた業界解説記事はこちらからどうぞ。

※2023年3月24日 最新の事例を追加するなど一部の内容とタイトルを修正し、あわせて見出しを整理、またTwitterへのリンクを追加しました。
※2024年3月1日 最新の事例を追加するなど一部の内容を修正し、タイトル画像を修正しました。
※2024年5月13日 最新の事例を追加するなど一部の内容を修正しました。

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